売名恋愛(別ver)

江上蒼羽

文字の大きさ
36 / 46

燻る想い

しおりを挟む




【最先端の更なる未来さきへ……】




そんなキャッチフレーズが付いた巨大な看板が秋葉原の街に出現した。


「わっ、忍足 慧史!超かっこいーんだけど!」


街行く人の視線を集める看板は、忍足さんが新イメージキャラクターとなった携帯電話会社のもの。

新型のスマートフォンを掲げて、こちらを睨むような目力の強い、スタイリッシュな仕上がりとなっている。


「肌キレー!ヤバーイ!」

「修正でしょ?あたし、この人の良さが分かんない」

「マジ?メッチャ良いじゃん!」

「好き嫌い別れる顔だよね。あたしは好きじゃないな」

「信じらんなーい!」


若い女の子達が看板を見上げてはしゃいでる横で、私も何となく釘付けられている。

そういや、私もタイプじゃないな……なんて思いながら。

でも、格好良いとは思う。

看板を彩る忍足さんの肌は艶々。

実際の忍足さんの肌は綺麗だったけれど、流石にこれは綺麗過ぎる……加工だろうな…なんて漠然と思っていると……


「いーなー、まんぼうライダーの森川は。大して可愛い訳でもないのにこんなイケメンと付き合えて」

「あっはは、それは言えてる」


女の子達の話題に自分の名前が出て来てドキッとする。

同時に、大して可愛い訳でもないのに……という言葉が胸に突き刺さった。


「売名かと思ったけど、意外と続いてるんでしょ?」

「えーでも、別のイケメン俳優とも噂になってたじゃん?」

「それガセじゃないの?もし本当だとしたら、森川ビッチ過ぎ~てか、超うらやま~」


きまり悪くて被っていた帽子を更に目深に被った。

嫌な事っていうのは続くもので、家の炊飯器が壊れた。

炊けるには炊けるけれど、底が焦げ付いてしまう。

折角のご飯が焦げ臭いし、火事の原因になったら嫌だ………という事で、仕事と仕事の合間に秋葉原まで出向いた次第。

最近の家電は、値段も機能もピンからキリまである。

店のオススメとして店頭に出されている商品は特殊な加工してあるらしく、良い値をしている。

あれこれ悩んだ末、値段そこそこの3合炊きのものに決めた。

一応名の売れた芸能人なのだから、拘って高級品を買えば良いのだろうけれど、一度干されて一般人になっただけに、庶民的感覚を捨てる事が出来ない。

レジでの精算中、ふと視線を感じて振り返る。


「………ここにもあったか…」


携帯電話売り場に設置されている、新型スマートフォンを耳に当てて仁王立ちする忍足さんの等身大パネル。

強い引力さえ感じさせる目力にドキドキさせられる。

ビジネスシーンを再現しているらしいスーツを着た塩顔イケメンのパネルは、前を通る人を必ず立ち止まらせる。


「すっご、超小顔」

「背はそんなにないけど、スタイル良いね」


若いカップルの会話に、何故か私が照れるという不思議現象が起こる。


「ありがとうございました~またお越し下さいませ~」


店員から受け取ったお釣りを財布に仕舞い、商品を小脇に抱えて家電量販店を後にした。

売名計画が浮上し、実行に移してから早いもので半年が過ぎた。

秋だったのが、冬を越え、春になった。

その間に、忍足さんはあっという間にスターへの階段をかけ上がった。

最初は忍足さんは無名で、私の方が知名度は高かったのに、今じゃすっかり逆転してしまっている。

ドラマや映画の主演だけでなく企業のイメージキャラクターにまでなって、街中には忍足さんのポスターやらパネル等が目につくようになった。

女優やモデルではなく、敢えて私みたいな女芸人を選んだ辺り、世間の好感度も高いだろう。

そりゃ企業もこぞって使うよね……と、溜め息を吐いた。

チャンスが舞い込んでも、空回りばっかりで生かせていない私と違って、忍足さんはチャンスを生かし、ちゃんとものにしている。

確実に力を付けていっている忍足さんと対照的に、仕事をこなせばこなす程実力のなさが露呈していっている私。

日に日に、落ち込む事が増えている気がする。





「………はぁ」


本日何度目かの溜め息に、向かい合う最上さんが苦笑する。


「森川さん、かなりお疲れのようですね」


すかさず「あ、いえ」と取り繕う。


「すみません……折角のご飯が不味くなりますよね」


目の前には、美味しそうな料理が並んでいる。

最上さんは、私が本格中華が食べたいと言ったからわざわざ美味しい所を調べて連れて来てくれた。

なのに私と来たら、それ等にほとんど手を付けない状態で溜め息ばかり。

そりゃ、最上さんも苦笑いするしかないだろう。


「お口に合いませんか?」

「いえいえ!とても美味しいです!」


そう言ってから、蒸籠に入ったまま運ばれて来た小籠包にかぶり付く。

中から熱々ジューシーな肉汁が染み出てきて……


「うあっちぃっ!!」


無様な悲鳴を挙げながら吐き出した。

これにまた最上さんが苦笑い。


「大丈夫ですか?さっき店の人が熱いから気を付けて食べるよう言ってましたよ?」

「………だ、大丈夫です」


ちゃんと店員の忠告を聞いていなかった私が悪い。

火傷して剥がれた上顎の皮を鬱陶しいと思いながら水を口に含む。


「それにしても………今日は特に浮かない顔してますね。何かありました?」

「………」


特に……という事は、私は最上さんに会う度に浮かない顔をしているらしい。


「大丈夫です。何も…」

「無理しないで吐き出しましょう。今の小籠包みたいに」

「…………あれは忘れて下さい」


今さっきのあれは、リアクション芸の域に達していただろう。

バラエティーでやっていたら、それなりに笑いが取れてそうだ。


「ははっ、でも僕に見栄を張っても仕方がないでしょう?悩み事なら聞きますよ。的確なアドバイスは出来るか分かりませんけど」

「あ、いや、アドバイスまでは求めませんよ。聞いてくれるだけで楽になると思うので」


最上さんの事を最初は警戒していたものの、何だかんだで今は良き相談相手だ。

本人は的確にアドバイス出来ないみたいに言うけれど、いつも私にとって最適なアドバイスをしてくれている。

年下なのに私より遥かに落ち着いているもんだから、自分の幼稚さが恥ずかしい。


「最近、色んな人からダメ出し喰らってばっかなんです。芸人として落ち込む事が増えてきちゃって………もう辞めたいなー…なんて考えがチラつき始めてるんですよね…」


辛気臭くないようわざと冗談っぽく言ってみたにもかかわらず、最上さんが大きく目を見開いた。


「………芸能界からの引退を考えてるという事ですか?」

「ま、まぁ……色々と嫌になってしまって…」


ははっ……と笑ってみせる。


「忍足さんとの一件が原因ですか?」


最上さんの口からダイレクトに出た名前に、少なからず動揺してしまう自分がいる。


「いや、それが原因って訳じゃ……」

「でも一因でもあるでしょう?」

「ま、まぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...