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行きつけのコンビニ③
しおりを挟む「青柳さんと仰るんですね!覚えましたー!」
彼女は、嬉しそうに敬礼してみせた。
女子高生は、テンションの高さが違う。
「夜遅くまでアルバイトして偉いね。小遣い稼ぎ?それか社会勉強かな?」
今時社会勉強はないか。
今の時代は何をするにしてもお金が掛かるから、小遣い稼ぎだろうか……なんて思っていると、案の定彼女は「お小遣い稼ぎです」と得意気に言った。
「私、大好きなアイドルがいるんですよ」
「アイドル?」
いきなり何を宣言し出したのか……
あまりの突拍子のなさに反応に困っていると、彼女はそれに構わず続ける。
「私、カイプリが大好きなんですよ!」
「カイプリ……?」
馴染みのない単語に首を傾げると、彼女は「えぇー!!」と驚く。
「あの大人気……いやいや、超人気アイドルのカイプリを知らないんですか?!」
「ん、まぁ……そういった事に疎いもんで…」
「嘘ー!信じられない!」
まるで一般常識だと言わんばかりの驚きっぷり。
「Kaiser und Prinz、略してカイプリ!ドイツ語で皇帝と王子って意味の6人組グループで、その名の通り王子様みたいなキラキラ眩しい顔面偏差値高過ぎの超絶イケメン集団なんです!」
「へ、へぇ…」
興奮気味に早口で捲し立てる彼女に対して、こっちはやや引き気味。
「歌もダンスパフォーマンスも最高で、一目見た時から彼等の虜なんです!デビューしてからずっと追い掛けてます!ファンクラブにも当然入ってます!」
「そ、そうなんだ…」
「少女漫画の世界から飛び出して来たみたいな、完璧な人達なんですよ!」
「そう…」
こちらの反応なんてお構いなしに熱く語る彼女に、若いなぁ……なんて感想を抱きながら、ハンドルを操作する。
「メンバー6人皆大好きなんですけど、中でも私の一押しが、周防 玲くん!名前からしてイケメン臭漂ってますよね?」
「あ、あぁ……うん…」
大して興味がないけれど、彼女の気が済むまで喋らせてやろうと思い、テキトーに相槌を打つ。
「背が高くて、手足長くて……声も透明感あって、笑顔がメチャメチャ可愛いの!もうね、癒される~!」
「へぇ…」
「本当に格好良いんです!……ううん、格好良いだけじゃなくて、可愛さも共存してて……こんなに完璧な人が現実に存在するなんて信じられないくらい!時々、CGで作り出された存在なんじゃ……って疑いたくなる程。私の理想の王子様なんです!」
「そうなんだね……」
彼女がどこで息継ぎしているのか疑問だ。
「途方もなく倍率高くてチケット取れないけど、いつかはライブに行きたいんですよ~生のレイくん見たい~!」
「ははっ、じゃあその為にバイトしてるんだ?」
どうやら、そのアイドルに注ぎ込む為にアルバイトをしているらしい。
偉いね、と褒めてあげるべきなのか悩む。
彼女は俺の問いに「も、あるんですけど」と返してから、照れたようにはにかんで言う。
「実は、あのコンビニに、大好きなレイくんにそっくりなイケメンが時々現れるんです!」
「へぇ、そうなの?」
何やら不気味に「ウヒヒ…」と笑う彼女。
「その彼とお近付きになりたくてバイトさせて貰ってるんです」
「は、はは……そっか…」
不純な動機に苦笑していると、彼女がバッグから携帯を取り出して操作し始めた。
それと同時に赤信号で車を停車させる。
「これが私の王子様のレイくんです!ぷっくりした涙袋が堪んないんですよ~!」
向けられた携帯の画面の中で、カメラ目線で微笑む甘い顔した青年。
どこかで見た事あるような……
「…………へぇ、イケメンだね」
何だか、この彼によく似た奴を知っているような気がする。
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