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第二夜:指編みのマフラー【2】
しおりを挟む晴子の死から4年が経過し、保育園の年中児だった唯は、小学3年生になっていた。
祖母の死に涙していた彼女も、今ではそれを乗り越え、明るく活発に日々を送っている。
「見てお母さん!アイロンビーズかわいく出来たよ!」
「本当だ。上手に出来たね」
母の歩美から褒められ、唯は得意気に笑う。
両親の共働きを理由に、休日以外は小学校に併設されている学童保育を利用している唯。
学童保育では、指導員から工作や手芸等を教わり、楽しそうに取り組んでいる。
「明日はね、プラ板でキーホルダー作るんだ。莉子ちゃんにも作ってあげるね」
「うん」
唯の4歳違いの妹、莉子は5歳になったばかり。
莉子は、晴子の葬儀の時、まだ1歳だった。
だから祖母の記憶が殆どないまま育っている。
当然、祖母との思い出がなければ、一緒に写った写真もない。
ある日の事
いつもの通りに学童保育に唯を迎えに行った歩美。
身支度をして奥から出てきた唯の首にピンクのマフラーが巻かれているのに気が付いた。
「あれ……そのマフラーどうしたの?」
歩美の問いに、唯が誇らしげに言う。
「指編みを教えてもらって、自分で作ったの。どう?上手?」
満面の笑みの唯。
細くて長さが足りないながらも、しっかりと編まれている。
マフラーの先には、白いポンポンがくくりつけられ、唯が動く度に大きく揺れた。
「良く出来てるね。かわいいじゃない」
歩美が誉めると、唯は嬉しそうにマフラーを撫でた。
「近所に住むお年寄りから毛糸を沢山頂いたんです。指の体操にもなるし、子供達も喜んで作るんですよ」
学童保育の指導員が歩美に言った。
「そうなんですか。子供に色んな事を教えて頂いてありがたいです」
「いえ、子供が退屈しないのが一番ですから。じゃあね、唯さん、また明日」
「さようなら」
指導員に大きく手を振る唯。
夕陽に染まった校舎を背に、家路につく。
「毛糸でお人形作ったりするお友達もいるんだよ」
「そうなんだ。凄いんだね」
「うん。でも私は、マフラー作るの。家族みんなの分作るんだ」
歩美の手を握り、小さな歩幅で歩く。
「明日は莉子ちゃんの分作ろうかな。莉子ちゃんもピンクでいいかなぁ?」
「うん、かわいくて温かいの作ってあげてね」
歩美の言葉に唯は、ニッコリ笑って頷いた。
土曜日の夕暮れ時
唯は、友人宅から自宅へと向かって歩いていた。
遠くの空が茜色に染まっているのを見て、自然と小走りになる。
『早く帰ってきなさい』
母の言い付けを守る為に急ぐ唯の前に、どこからともなく黒猫が現れた。
「あ、にゃんこー!」
猫は立ち止まり、唯をじっと見詰めた。
首輪は着けていない。
野良猫のようだ。
「かわいー!」
猫に触れようと駆け寄る唯。
猫はそれをかわすように逃げ出した。
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