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第二夜:指編みのマフラー【5】
しおりを挟むその翌日、唯は歩美に連れられて街の手芸屋にやって来た。
唯が毛糸が欲しいとねだったから。
「毛糸で何するの?」
母の問いに、唯は毛糸を選びながら答える。
「指編みでマフラー作りたいの」
「それなら学童保育の時に作れば良いじゃないの。毛糸だっていっぱいあるんでしょ?」
「学童だと時間決まってるもん。間に合わないとやだ。それに、他のみんなも指編みするから毛糸も残り少ないし…」
天井近くまでそそり立つ陳列棚には、色んな種類の毛糸が所狭しと詰め込まれていた。
それを一つずつ見ては悩み、手に取ってみては首を傾げる唯。
「誰かにあげるの?」
「うん」
「好きな子?お父さんには言わないから言ってみなよ」
「んふふー、ナイショ」
中々決められないでいる唯に、歩美が「これ良いんじゃない?」「こっちは?」等とアドバイスしてみるも、唯は首を縦に振らない。
「早く決めてよ。夜ご飯の支度しなきゃいけないんだから」
痺れを切らし始めた歩美に、唯は言いにくそうに切り出す。
「………ねぇ、お母さん、おばあちゃんって何色好きだった?」
歩美は一瞬目を丸くしたものの、すぐに閃く。
「………おばあちゃんにマフラー作りたいの?」
唯は、小さく頷いた。
ーーあぁ、きっと、祖母にマフラーを作って仏前に供える気でいるのだろう……
歩美は娘の優しい気持ちに胸が熱くなるのを感じた。
「おばあちゃん、喜ぶと思うよ」
「………うん」
歩美は晴子の生前の事を思い出しながら言う。
「おばあちゃんね、カーキ色が好きだったかな」
「カーキ色って、どんな色?」
歩美は、近くにあったカーキ色の毛糸を指差す。
「あの毛糸みたいな深い緑色。おばあちゃん、渋い色が好きだったからね」
唯は、歩美の指の先にある毛糸を一つ手に取った。
「そういえば……おばあちゃん、こんな色のお洋服よく着てた」
「もっと明るい色の服着れば良いのにねって、いつも思ってたよ」
亡き母を想う歩美の目には、涙が滲んでいた。
「これにする」
唯は、カーキ色の毛糸を三束抱え、レジに向かう。
なけなしの小遣いで会計を済ませようとした唯を、歩美は止めた。
「お母さんが払うから」
財布を仕舞おうとしない唯に歩美が言う。
「おばあちゃんの為に、一生懸命作ってあげて」
唯は、大きく頷いた。
その日の夜から、唯はせっせとマフラー作りに励んだ。
「あ、ちょっと間違えた。もっかいやり直しだ」
少し編んでは、解き、編んでは解き……
その繰り返しで、中々進まない。
「おねえちゃん、がんばって」
悪戦苦闘する唯の傍らで、莉子が必死に励ます。
「えっと、こうして……次はこうで…」
「おねえちゃん、りこ、おはなにおみずあげたよ」
「あ、ありがとう」
マフラー作りに忙しい姉に代わり、莉子がプランターに水遣りをする。
二人は、祖母との対面を心待ちにしていた。
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