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第二夜:指編みのマフラー【6】
しおりを挟む2日後。
「おねえちゃん、めがでたよ!」
「本当?!」
プランターの端に、小さな芽が出ていた。
「あしたおはなさくかなぁ?」
「まだ咲かないよ。でも、急がなきゃ」
マフラーはまだ1/3も出来ていない。
「はやくさかないかなぁ」
「そうだね」
毎日、朝と夕に庭の片隅で踞る唯と莉子。
そんな娘二人を歩美は微笑ましく思っていた。
種が芽吹いてから3日。
小さな葉の間から、華奢な茎が伸びていた。
その先端には、可愛らしい蕾がついている。
「わぁ、咲くのかなぁ?」
「さくのかなぁ?」
マフラーは、最後の仕上げの段階まできていた。
「あとは、ポンポンをつければ出来上がりだよ!」
「おねえちゃん、すごーい」
毛糸二束と少しを使って編んだマフラーは、所々目の荒い箇所があるものの、上手に出来ていた。
色合いもあってか、温かみがある。
唯は、残った毛糸を定規に巻き付け、一括りにしたそれの上下を切ってポンポンを二つ作った。
そして、マフラーの両端にくっ付ける。
「ジャーン!完成!」
「やったぁ!」
片方が少し取れかかってはいるものの、達成感を味わい、はしゃぐ唯。
その横で莉子も一緒になってはしゃいだ。
「莉子ちゃん、ちょっと巻いてみて」
「きゃーながーい!」
ぐるぐる巻きにされて、莉子の顔の半分がマフラーに埋もれる。
「あったかーい」
「もふもふだね」
蕾が膨らみ、いよいよ開花の時を迎えた。
陽が沈み始めると同時に、ゆっくりと開く花。
透き通るように白い花弁が、幾重にも重なり合い、大輪を作り出す。
「おねえちゃん、おはながさいてるよ!」
「わ、わぁ!!」
夕日に照らされ、橙色に染まる白い花。
「あ、お花咲いたんだ。綺麗な花だね」
プランターの前にしゃがみ、花を眺める二人の背後から、歩美が覗き込む。
「結局何て名前の花なの?」
「さぁ、知らなーい」
「しらなーい」
風に揺れる花。
それは、どこか神秘的で、儚げだった。
「あーんな黒い種から、こんなに綺麗な花が咲くなんてね」
歩美が感心していると、莉子が口を開く。
「これはおばあちゃんのおはななんだよ」
「えっ?」
唯は、咄嗟に莉子の口を塞ぐ。
「何でもないんだよ。莉子ちゃん、お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろ」
怪訝な表情の歩美に背を向け、唯は莉子を連れて家の中へと入った。
「莉子ちゃん、お母さんには、おばあちゃんの事ナイショにしてね」
「どうして?」
キョトンとする莉子に、唯は声をひそめて言う。
「だって、お花が咲いたら死んだおばあちゃんに会えるなんて、お母さん信じるわけないもん」
「?」
「とにかく、ナイショはナイショなの」
莉子は、疑問に思いながらも、小さく「わかった」と、頷いた。
陽が沈み、空一面に闇が広がった。
星のない空に、月が浮かぶ。
蒼白い、大きな月が。
「今日の月は、やけに低い位置にあるのね」
子供部屋のカーテンを閉めながら、歩美が言った。
「何だか、神秘的……」
二段ベッドの上の段には、唯が
下の段には、莉子が既に寝息を立てている。
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