22 / 45
第三夜:白紙の母子手帳【1】
しおりを挟むとある街の住宅地の一角に、絵に描いたようなアットホームな家族が住んでいた。
主の須永 亮を筆頭に
妻で専業主婦の真由子、幼稚園児の誠と年子の妹、那奈の四人家族。
先日、念願のマイホームを建てたばかり。
幼い子供達の賑やかな声と明るい笑い声の絶えない、誰が見ても幸せそうな家庭だった。
「それじゃ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
玄関先で亮の出勤を見送った真由子は、ダイニングで朝食を摂る子供達に声を掛ける。
「早く食べなさい。もうすぐ幼稚園バスが来る時間だよ」
それに対して誠がバタートーストをかじりながら言う。
「よくかんでたべてるからはやくできないも~ん」
すかさず那奈も口を挟む。
「よくかんでたべなさいって、ママいつもいってるじゃ~ん」
マイペースな我が子達の口答えに苦笑を浮かべつつ、亮が使った食器を片付ける真由子。
やがて、須永家の玄関前に一台のマイクロバスが停車する。
「行ってらっしゃい」
手を振る真由子に、子供達も手を振り返す。
「ママ、バイバ~イ」
「いってきま~す!」
元気良く乗り込んだ二人の後ろから、教諭が顔を出した。
「それでは、お預かりします」
「お願いします」
バスのドアが閉まり、ゆっくりと発進した。
窓に貼り付いて、笑顔で真由子に手を振る子供達。
真由子もバスが角を曲がるまで手を振り続けた。
子供達を送り出し、掃除、洗濯等の家事を手早くこなした後は、濃いめのカフェオレで一息つく……
それが真由子の日常だった。
『本日の予報は、晴れ後雨です。午後からの強い雨にご注意下さい。お出掛けの際は、傘を持って出掛けましょう』
ワイドショーの天気予報コーナーでアナウンサーが雨を強調する。
真由子がふと時計を見上げると、時刻は10時を過ぎた所。
「………雨が降らない内に買い出しに行こうかな」
窓の外は、雨の気配が感じられない程、晴れ渡っている。
雲一つ見当たらない。
真由子は、冷めかけたカフェオレを一気に飲み干し、立ち上がった。
スーパーまで徒歩15分。
平日の昼間のスーパーは人が疎らで、客層は主婦が圧倒的に多い。
まずは、献立を考えながら、店内をぐるっと一周する。
午後の雨で客足が遠退くのを見越してか、早々と割引シールが貼ってある。
それにすかさず手を伸ばすのは、主婦の性という事か。
必要な食材と、子供達用のおやつをカゴに入れ、レジを通す。
「250円のお返しとレシートです。ありがとうございました。またお越し下さいませ」
釣り銭を受け取った真由子は、エコバッグを肩に掛けて店を後にした。
肩に食い込むエコバッグの持ち手を何度も背負い直し、来た道を辿る。
と、何の前触れもなく、突風が吹いた。
「……っ?!」
舞い上がった砂が目に入りそうになり、思わず両目を固く瞑る。
ほんの一瞬の出来事だった。
「……びっくりした」
ゆっくり瞼を持ち上げた真由子。
すぐに、正面に立つ見知らぬ少女の姿が目に入った。
年頃は、小学校低学年位か。
生成り色のノースリーブワンピースを纏っている。
鎖骨の辺りまで伸びた黒髪が、風に靡いた。
0
あなたにおすすめの小説
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる