儚い花―くらいばな―

江上蒼羽

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第二夜:指編みのマフラー【11】

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渋々家の中に入った唯と莉子は、手を洗い、慌ただしく席に着く。


「いただきます」


朝食を摂り始めた二人に、歩美の手が伸びる。


「っと、ご飯中は帽子を取りなさい」


歩美に帽子を取り上げられ、唯と莉子は不満げに頬を膨らませた。


「そんな顔をしない。行儀悪いでしょ?」


目で何かを訴える二人を一蹴した歩美は「そういえば………」と、思い出した。


「昨日、誰かが来たら起こしてって言ってたけど……誰も来なかったよ」


歩美の言葉に、直人が反応する。


「は?誰か来る予定でもあったの?」

「さぁ……私にもよく分からないんだけど…」


黙々と朝食を摂っていた莉子が口を開く。


「だいじょうぶだよ。ゆめのなかであえたから」

「え、夢?」


目を丸くする歩美に、莉子が得意気に言う。


「うん、ゆめのなかでおばあちゃんにあえたの。このぼうしもおばあちゃんにもらったの。おねえちゃんのマフラーとかえっこしたんだよ」


唯は、慌てて口の中の食物を牛乳で流し込んだ。


「莉子ちゃん!ナイショだって言ったじゃん!」


口の軽い妹を叱ると、莉子の口が尖る。


「いいじゃん、おばあちゃんはナイショだなんていわなかったもん」

「だからって……」


唯と莉子の小競り合いの横で、直人と歩美は顔を見合わせた。


「どうしちゃったの、この子等?またいつもの妄想?」

「さぁ……」


苦笑いを浮かべる直人と複雑そうな歩美。

歩美は、子供達から取り上げた帽子を繁々と眺めた。


「………やっぱり、手編み…」


店で売っているような既製品とは違う、温かみを感じる手編みの帽子。

歩美は、幼い頃に母が作ってくれた毛糸の帽子を思い出した。

温かくて、所々に編み目を抜かしたような穴が空いていた帽子は、既製品程見映えは良くなかったものの、母の愛情を深く感じられるものだった。

今、歩美の手の中にある帽子からも、同じものが感じられる。

歩美は、まさか……とは、思いながらも唯に聞いてみる。


「……ねぇ、おばあちゃん、夢の中でお母さんの事何か言ってた?」

唯は少し考えてから「あのね……」と答える。


「いつまでもメソメソくよくよするなって言ってた。あとね、お父さんとケンカばかりしちゃダメだよって」


歩美の目に涙が滲む。


「そっか……」


歩美は、トーストをかじる唯に、再度確認するように聞く。


「おばあちゃん、唯のマフラー喜んでくれてた?」


唯は、咀嚼をしながら「うん」と頷いた。


「そっかぁ………良かったね」


歩美は、指の腹で涙を拭ってから、唯と莉子に向かって言う。


「今度のお休み、おばあちゃんのお墓に手を合わせに行こっか?」


キョトンとする二人に、歩美が笑いながら確認する。


「帽子のお礼、ちゃんと言える?」


唯と莉子は、満面の笑みで


 「うんっ!!」 


元気に返事をした。

その横で


「え……俺、何が何だかよく分かんないんだけど…」


直人が三人の話についていけずに戸惑っていた。
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