儚い花―くらいばな―

江上蒼羽

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第二夜:指編みのマフラー【10】

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ーーーシャーッ!!






カーテンを引く音と同時に、眩しい光が部屋に入り込む。


「唯、莉子、朝だよ。起きなさい」


歩美の大声に、唯と莉子の意識が覚醒する。


「ん……朝かぁ」

「むー……まだねむたいよぉ」


ノロノロと起き上がる二人に、歩美が早口で巻くし立てる。


「さっさと起きる!朝ご飯、パンでいい?早く着替えて下に降りてきなさい」


歩美が部屋を出た後、ベッドから降りた二人は、思わず顔を見合わせた。


「夢、だったのかな?」


譫言のように呟いた唯に、莉子も同様に呟く。


「おばあちゃんとあそべてたのしかったけど……かなしいゆめだったぁ…」


莉子の言葉に、唯は確信する。


「お姉ちゃんと同じ夢見てたんだね、莉子ちゃんも…」


良く見ると、莉子の頬には、涙が伝った跡が残っていた。


「おねえちゃん、ないたの?」


莉子の指摘に、唯は鏡に自身の顔を映してみる。

と、すぐに頬に白い筋があるのを確認出来た。

鼻の下は赤く腫れ上がり、涙が流れた跡だというのは一目瞭然だった。


「夢だったのかな?本当だったのかな?」


祖母との面会が、夢だったのか、はたまた現実だったのか……

はっきりとした答えを出せないでいる唯。

莉子は、グチャグチャになった掛け布団を直している。

すると、その時、莉子が小さく「あっ」と、声を挙げた。


「おねえちゃん、おねえちゃん!これみてー!」

「なぁに?」


興奮気味に喋る子の手には、見覚えのあるピンク色の毛糸の帽子が握られている。

唯は、すかさず、二段ベッドの上へと上がった。

丸まった掛け布団と毛布を掻き分けて探してみるも、昨晩大事に握って寝た筈のカーキ色のマフラーは見当たらなかった。

代わりに枕の下から出てきたのは、莉子と揃いのピンク色の毛糸の帽子。


「……おばあちゃん…」


唯は、それを胸に抱いた。

ベッドの下から莉子が言う。


「おばあちゃんにあえてよかったね」


無邪気に笑い掛ける莉子。

唯は涙目になりながら「………うん」と、頷いた。


「お父さん、おはよう」

「おとうさん、おはよー」


帽子を被って降りてきた唯と莉子を見て、直人と歩美は揃って首を傾げた。


「そんな帽子持ってたっけ?買ったの?」


直人に聞かれたものの、歩美にも覚えがなかった。


「いや、知らないけど………手編みっぽいね」


両親の疑問を他所に、唯と莉子はリビングを突っ切って、庭へと向かう。


「あれぇ……」

「おはなないねぇ」


プランターを覗き込む二人。

昨日まであった筈の花が跡形もなく消えていた。

まるで、初めからそこに何もなかったかのように。

唯は、庭の物置からシャベルを持ってくると、プランターの土を掘り起こし始めた。


「種もない……」


掘っても掘っても、種が見当たらない。


「何してるの?早くご飯食べちゃいなさい」


不思議そうにプランターを覗き込む二人に、歩美がリビングから声を掛けた。


「お母さん、お花なくなっちゃった」

「どしてー?」


悲しそうな顔をする二人。

歩美は「えぇ?」と、首を傾げながら庭に出る。


「本当だ………昨日までここに咲いてた筈なのに…」


空のプランターを眺めながら「変だなぁ…」と、更に首を傾げる。


「何やってんの?早くしないと遅れるよ」


直人の呼び掛けに、ハッとした歩美は、二人を家の中に押し込む。


「いけない、いけない……急がないと。ほらほら早く家に入りなさい」

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