儚い花―くらいばな―

江上蒼羽

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第四夜:幸せへの道標【1】

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「俺達、そろそろ結婚しない?」

「え……」


プロポーズの言葉と共に、差し出された婚約指輪。

香菜は、言葉に詰まった。

華奢なプラチナリングに、大粒のダイヤモンドが埋め込まれている。

香菜には、箱の中で上品な輝きを放ちながら鎮座する指輪が、とてつもなく眩く感じた。


「付き合ってもうすぐ1年経つし、そろそろかなって思って」


テーブルに肘を付き、前のめりになる智明。

香菜は、黙ったままテーブルの真ん中の存在を見詰めている。


「香菜の事を必ず幸せにするから…………受け取ってくれないかな?」


智明の申し出に、香菜は弾かれたように顔を上げた。


「……ありがとう、凄く嬉しい」


言葉とは裏腹に、香菜の表情は冴えない。

それに気付いた智明が眉を下げながら言う。


「ごめん、急過ぎた?」


智明の言葉に、香菜は慌てて「そんな事ないよ」と否定した。


「…ただ…………ごめん、少し考えさせて…」






智明を一人レストランに残して帰宅した香菜は、激しい罪悪感と自身へと嫌悪感に苛まれていた。


「はぁ………」


先程から溜め息が止まらない。



智明からの申し出は嬉しい筈なのに…

嬉しくない筈なんてないのに……



香菜は、立ち止まり、空を仰いだ。


「私って嫌な女……」


自己嫌悪の塊と共に吐き出した言葉は、秋の夜空に溶けて消えた。

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