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第四夜:幸せへの道標【2】
しおりを挟むーー5年前…
『香菜ちゃん……落ち着いてよく聞いて欲しいの…』
突然の電話の主の声は震えていた。
『……司が………電車にはねられて…』
嗚咽で最後まで聞き取れない。
けれども、香菜は理解した。
最愛の恋人の死を。
搬送された病院で、恋人の亡骸と対面するも、見るに耐えず、目を背けた。
『………ホームで電車を待っていたらしいの』
目を腫らした司の母親が状況を説明する。
香菜は、呆然と立ち尽くしたまま。
『そしたら、隣に赤ちゃんを抱いた若い女性がいて……脇にもう一人、小さな男の子がいたんですって』
『…………』
『そしたら、男の子が母親の手を離して走り出して………誤ってホームに落ちたらしいの。司はそれを助けようと……』
母親は、目頭を押さえた。
香菜は、現実を受け止めようと必死に葛藤するも、中々受け止められずにいる。
『正義感の強い息子で母としては誇らしいけど……親より先に死ぬなんてね…』
霊安室に嗚咽が響いた。
香菜は、司の遺体を前に、彼の母親に問う。
『……司さんが助けた男の子は無事だったんですか?』
司の母親は、涙を拭いながら答える。
『えぇ……掠り傷と打ち身程度で済んだそうよ』
すると香菜は、ホッとしたように胸を撫で下ろし、ぎこちなく笑ってみせる。
『そうですか……それなら彼も浮かばれます』
香菜の目元から涙が一筋、頬を伝った。
司の葬儀は、滞りなく執り行われた。
大勢の参列者に見送られ、旅立つ婚約者。
『……まだ若いのにかわいそうに…』
『結婚が決まっていたんだってねぇ…』
啜り泣きに混じって聞こえてきた言葉が香菜の胸を締め付ける。
でも、不思議と涙は出てこない。
『香菜ちゃんも司の骨を拾ってくれる?』
司の母親の申し出に従い、香菜は火葬場へ向かうバスに乗り込む。
バスの窓から見えるのは、連日の雨が嘘のように澄み渡った秋の空。
それは、まるで生前の司の人柄を表しているようだった。
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