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平坦な日常にスパイスを⑧
しおりを挟む空に広がる満天の星。
その美しさを霞ませるように色とりどりの大輪の花が夜空に咲く。
ヒュー……ドーン…!ドドーン!!
賑やかな喧騒を書き消すように爆音が轟く。
『しまった……始まった…』
焦ったように呟く彼の額にはうっすら汗が滲んでいる。
『待って、カズさん…………きゃっ、すみません』
急ぐ彼の背中を必死で追い掛けるも、人の多さがそれを阻む。
行き交う人達とぶつかりながら、人並みを縫うように歩く私の額にも汗が滲んで来た。
『ったく、仕方ないな』
不意に掴まれた腕は、そのまま下にスライドし、強く握られた。
『はぐれたら困るから』
なんて、はにかむ彼に胸キュン。
二人で花火が良く見える橋の川縁まで行って、打ち上がる花火を見上げる。
『キレイ……』
大パノラマにうっとりする私の隣で彼も『……ホント』と呟く。
『輝子には敵わないけど』
そう言った彼の頬が赤い気がするのは、打ち上げられた花火の朱色だった所為……
私は胸を高鳴らせながら、わざと聞こえなかったフリをする。
『えぇっ?ごめん、よく聞こえなかった。もう1回言って?』
意地悪い私の要求に彼は照れながら言う。
『だから、輝子の方がキレイだって事』
言った傍から照れを誤魔化す為に彼は私にちょっと乱暴に唇を重ねて………
「…………て、輝子ちゃん…?」
「大丈夫、気にしないで。いつもの発作だから」
「いや、でもかなりイッちゃってる顔してるけど……」
「これがこの子の通常運転なの。ほら、輝子!カムバック!!」
目の前で凛ちゃんが手をパンパン叩く。
ハッと我に返ると、凛ちゃんが呆れ顔をしていて、カズさんと高瀬さんが珍しい物を見るように私の顔を覗き込んでいた。
というか、カズさんにそんなに熱く見詰められたら湯立ち過ぎて蒸発してしまいそうだ。
「は、花火行きましょう!是非っ!」
さすがに妄想通りにはならないだろうけど、ちょっとしたラッキーハプニング位はあるかもしれない。
「ねっ、凛ちゃんも行こう!楽しそうだよ」
「え……あ、うん…」
凛ちゃんに振ると、彼女は曖昧な返事をしながら一瞬だけチラリと高瀬さんを見た。
きっと、凛ちゃんの頭の中でも良からぬ妄想が繰り広げられているに違いない。
凛ちゃんは何気にむっつりな所があるから。
「じゃあ決定で良い?この四人でLINEのグループ作ろうよ」
カズさんが携帯を出したのを見て、すかさず私もバッグから携帯を取り出す。
“イケメンの連絡先ゲットだぜっ!”
テンションMAX急上昇中。
凛ちゃんが携帯を操作している横で、高瀬さんが「あー……ごめん…」と切り出す。
「俺、その日駄目だ。三人で行って来てよ」
「え……」
心なしか口角が上がっていた凛ちゃんの表情が即座に暗くなる。
「は?マジ?漣」
「ごめん、祭りの屋台パレードあるし」
高瀬さんが不参加でも私はカズさんが居れば全然OK。
だけど、凛ちゃん的にはNGらしい。
すぐに携帯を引っ込めてた。
高瀬が行かないなら私もやめとく……とか今にも言い出しそうだ。
空気読めよ、この糸目野郎!!と心の中で罵倒してみる。
「あ、そっか、地元の青年会に入ってんだっけ?」
「そう、人少ないからほぼ強制加入」
苦笑気味に言う高瀬さんに、凛ちゃんが「青年会って?」と食い付く。
「あぁ……地元を盛り上げる男衆の集まりだよ。主に祭り要員。あと、消防団も兼ねてる」
「へぇ、高瀬にしては意外」
とか言いつつ、好きな人の情報を得て密かに喜んでいそうな凛ちゃん。
いつものヤル気のない、死にかけの魚みたいな目が鮮度抜群に輝いているからすぐ分かる。
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