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平坦な日常にスパイスを⑩
しおりを挟む「でもさ、何も彼じゃなくても良いんじゃない?凛ちゃんの美貌を持ってしたら、もっと良い男余裕でゲット出来るでしょ」
「………」
「あんな名前だけは格好良いほっそい目の冴えない男、凛ちゃんの相手としちゃ不足過ぎるよ」
凛ちゃんが本気を出せば、もっともっと優良物件を捕まえられる。
何を好き好んであんな普通の人を想っているのか、私には理解不能だ。
「凛ちゃんには、もっと格好良い人が合うと思うな。あんな手抜き顔、私にはどこが良いかさっぱり……」
「手抜き顔ってどういう意味?」
ちょっと調子に乗って凛ちゃんの想い人を貶し過ぎてしまったらしい。
凛ちゃんの声に怒りが籠ってる。
「あ、ごめんごめん~でもどこが良いかなぁって素直に疑問で」
「…………」
少しの沈黙の後、凛ちゃんがゆっくり口を開く。
「………最初は全然興味なかったんだよ。顔もそんなにタイプじゃなかったし」
「だよね。凛ちゃんの歴代彼氏達とは違う系統だし」
凛ちゃんが付き合うのは、決まってちょい悪テイストな人ばかり。
例えるならEXILE系列にうっかり混ざっていそうな感じ。
冬でも何故かこんがり焼けてて、腕とかに己の信念を意味するタトゥーとか入れてたり。
「ダンス?得意だぜっ!見てな」とか言って、頼んでもいないのにいきなり激しく踊り出してしまいそうな……そんなイメージの彼氏ばかりだった。
実際は踊れる人はいなかったけど。
「仕事でも全然目立つタイプじゃないんだよね。先頭に立つより、周囲のフォローに回るタイプ。派手さはないけどとにかく堅実な姿勢に良いなって……」
「ふぅん……」
「エース的存在じゃないけど、居ないと仕事が回らなくて困る存在って言うの?」
「あぁ………おでんで言う、からしみたいな存在ね」
おでんのエースは大根とゆで卵辺り。
でも、からしがなければおでんの美味しさが引き立たない……みたいな?
「…………アンタ馬鹿にしてない?」
「してないしてない」
ちょっと季節外れな例えだったか。
「まぁいいけど。後は、ふとした優しさとか、雰囲気とか……気付いたらいつも目で追ってた」
「乙女だね~」
「絶対馬鹿にしてるでしょ、アンタ」
憤る凛ちゃんの顔はきっと真っ赤になっているに違いない。
こんな風にムキになる凛ちゃんはあまり遭遇した事がないから新鮮だ。
「まぁ、高瀬の良さが分かんないなら分かんないままで良いよ。アイツの良さは私だけが知ってれば良いし」
噛み締めるように言った凛ちゃん。
私には、凛ちゃんの想い人の良さが分からない。
確かに、人当たりは良い感じはするけれど、それだけじゃ人を惹き付ける要素としては弱い。
私が彼の良さを知る日は多分来ないと思う。
「告白しないの?」
私が聞くと、凛ちゃんの歩みが遅くなる。
「実は………した事ある」
「えっ?!嘘っ?!」
驚く私に、凛ちゃんが笑って言う。
「会社の飲み会の帰り、酔った勢いで………ってゆーか、酔ったフリして、高瀬の事、好きなんだぁ~って」
「それでそれで?!」
食い付く私に、凛ちゃんが溜め息を吐いて見せた。
「それでって……今の関係を見たら、結果は分かるでしょ?」
「あっ……」
気を許し合った砕けた仲に見えたけど、恋人同士とは言い難い。
どう見ても、ただの同僚同士。
「……冗談として流されて、なかった事にされてる」
自虐的に言って、凛ちゃんが痛々しく笑う。
「何それー!酷くない?」
「冗談で取られるような状況下で言った私が悪かったんだよ」
魔性の女、凛ちゃんの告白を容易く流せるなんて、高瀬さんはある意味凄い。
「でもまだフラれた訳じゃないじゃん。もう一度ちゃんと好きだって言ったら?」
「ん……そう思うんだけど、タイミングがね…」
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