ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

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逃走、暴走、迷走②

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「高瀬さん、千円……いや、500円貸して下さい」

「えぇっ?」

「100円でも良いんですけど………ジュース買ったら返すんで…」


恥を忍んで借金を申し出る。


「100円じゃ足りないんじゃない?」


笑いながら言った高瀬さんは「仕方ないな」と、当たり前のように私の腕を引く。


「今日は特別に、この高瀬様が奢ってあげよう。ほら、行くよ」


上からな台詞を吐いた緩やかな弧を描く唇は、特別形が良い訳じゃない。

厚くも薄くもなく、これといって何の特徴もない。

別段何も感じないそれが、今は妙に艶かしく感じる。

きっと、激しいキスシーンを見せつけられた所為だ。

この唇で凛ちゃんとキスしたんだな……なんて、ついつい食い入るように見てしまう。


「てるり?どうした?足動かないの?」


高瀬さんが私の腕を優しく引っ張る。


「まさか、おんぶー!とか言うつもり?甘ったれないでちゃんと歩こうね」


私をおちょくるのが楽しいのか、高瀬さんが屈託なく笑う。

さっきまで凛ちゃんと濃密な絡みをしていたのが嘘のようだ。


「………あの…」

「ん?」


私は、そっと高瀬さんの手を払う。


「………お金だけ貸して貰えれば、一人で行って来れる」

「は?だから一人は危ないって言ってるじゃん」

「私は平気だよ。それより、凛ちゃんの傍に居てあげてよ」


高瀬さんの怪訝そうな顔を直視出来なくて、少し目線を落とす。


「………私、少しコンビニで時間潰してから帰るから、凛ちゃんと続きしてなよ…」


この言葉を口にした途端、胸が張り裂けんばかりに強く痛んだ。


「いいから、行くよ」


高瀬さんが私の言葉を無視して、また腕をぐいぐい引っ張る。

さっきより、腕を掴む力が強い。

払いのけられそうもなくて、仕方なく足を縺れさせながらついて行く。


「俺も喉渇いててさー」

「………あのさ……凛ちゃん、待ってるんじゃない?すっぽんぽんで…」

「炭酸を流し込みたい気分。やっぱコーラかなー」


高瀬さんは、不自然な程凛ちゃんの話題を避ける。


「凛ちゃん、風邪引いちゃうよ……」


高瀬さんが私を追い掛けて来たが為に事は中断。

暗い部屋に一人残された凛ちゃんの事を思えば、申し訳ない事をしたよなー…と、罪悪感が犇々と込み上げてくる。


「……一応出て来る前に服着るように言って、脱いだ服を肩に掛けて来たよ」

「でもさ…」

「寒ければ着るでしょ?ガキじゃあるまいし」


まぁ、確かに……と、納得しつつ、そんな言い方しなくても……とも思う。

そんな高瀬さんの手は、冷淡な口調とは反対に温かい。


「…………てるりはさー……いつから起きてたの?」


高瀬さんは、前を向いたまま。


「………いつからって、高瀬さんと目が合う直前に…」


ゴニョゴニョ言うと、高瀬さんがそれを「嘘だな」とバッサリ。


「最初から起きてたんじゃないの?」

「………最初ってどの辺か分かんないけど、凛ちゃんの“とっくに気付いてるんでしょ?”辺りから…」

「…………うん、それほぼ最初」


高瀬さんが大きな溜め息を吐いた。


「その時点で起き上がってくれてれば良かったのに……」

「だっ、だって、何か深刻そうな話だったし……あんな場面で起き上がるのかなり勇気いるよ」


結果として、もっと最悪な場面での起床になってしまったけれど。

でも、あの場合、どこで起きるのがベストタイミングだったんだろう?
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