その声は媚薬

江上蒼羽

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出来上がった製品の外観検査という単調作業に加え、お昼ご飯を食べて満腹の状態は睡魔との戦いになる。

一瞬意識を失いかけてハッとして、また瞼が下がってくるの繰り返し。

隣には全く同じ状態の島津さんがいて、こっちは完全に夢の世界へとどっぷり浸かっている。

何とか覚醒しようと、手を止めて大きく伸びをした。


「………すみません、こちらは何をされている所でしょうか?」


その声に振り向けば、スーツから防塵服へと着替えた久世さんがいた。

島津さんがビクッと大きく身じろぐ。


「あ………と、ここでは製品の外観検査をしています。こういった不良品がたまに出てくるのでそれを弾いたり、機械オペレーターに伝えたり…」


久世さんに検査していて見付けた端子の曲がった不良品を手渡すと、彼はそれを繁々と眺め小さく「なるほど……」と呟いた。


「どの位の割合でこういった不良が出てくるんですか?」

「大体100個の内、1個2個……くらいでしょうか」


私が答えると、久世さんは表情を変えずに「そうですか」と返す。


「………ありがとうございます。作業の手を止めてしまってすみませんでした」


私に不良品を返し、軽く頭を下げて背を向けた久世さんは、今度は機械の方を見に行った。


「…………さっきのオバチャン達の評価、あながち間違ってないですね。ニコリともしないし愛想なさ過ぎ」


久世さんの登場にすっかり目が覚めたらしい島津さんが彼の背中を見やりながら嫌味っぽく言う。


「野暮ったい見た目だし……どうせなら無愛想な方じゃなくて上條さんに来て貰いたかったなー」


口を尖らせ不満を顕にする島津さんを「まぁまぁ……」と宥め、作業を再開したものの、私の中で引っ掛かるものがあった。

久世さんの表情が乏しく無愛想な事なんか別に気にならない。

人と話すのが苦手なだけだろうし。

それ以上に、ほんの一言二言言葉を交わしただけなのに、彼の声が気になって仕方がない。

今まで何十回………下手すりゃ何百回と聞いた声に非常に良く似ていた。

いや………似ているというか、久世さんの声が毎日私を癒す、性癖ど真ん中のリュークの声そのものにしか聞こえなかった。

私の耳の調子が悪くなければ………だけれど。

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