その声は媚薬

江上蒼羽

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やがてシャワーの音が止み、少ししてからバスルームのドアが遠慮がちに開けられた。 


「………お待たせしました……」


私と同じバスローブを羽織った久世さんが恐る恐るベッドに腰を下ろした。

ゆっくりと体を起こした私は、久世さんに背を向ける形でベッド上に脚を崩して座る。


「すみません………無理強いしちゃったみたいで」


謝りつつも、ここまで来て後に引くつもりはない。


「……いえ。了承してここに居る時点で無理強いではないです」

「けど、久世さん………私の要求聞いてからずっと浮かない表情だったじゃないですか」


己の欲望を満たそうと思った所で、肝心の久世さんが機能しないかもしれない。

ここまで来てそうなったらあまりに悲しい。

私の変態的嗜好を晒しただけで終わる。

それプラス、女としての魅力がないのか……と自信も失う。


「私が相手で不服でしょうけど、その辺どうか割り切って―――…」


私が言い切る前に、ベッドがギシッ………と鈍い音を立てて軋む。



「………久世、さん……?」


久世さんの体が優しく私の体を包んでいる。

真後ろに居る彼の表情は当然ながら確認する事が出来ない。


「………全くない訳ではないですが………経験が然程多くないので伊原さんを満足させる自信がないんです」


言いにくそうに切り出した久世さんは、私の耳に触れるか触れないかの位置に唇を寄せる。


「………本当に良いんですよね……?」


先程までとは打って変わった色気を孕んだ声色と吹き掛かった熱い息に、ゾクゾク……と全身が粟立った。


「あ………」


瞬時にこれはヤバいと感じた。


「伊原さん……?」


鼓膜にダイレクトに届く声に、脳が揺さぶられるような感覚にさえ陥る。

久世さんは私の返事を待たずに耳に吸い付いた。

最初は軽い口付けからの執拗な耳舐め。


「………んっ…」

「伊原さん………耳弱いんですか?」


耳舐めからの言葉攻めは、それだけで腰が砕ける寸前。

いつもイヤホン越しに聞いていたリップ音を生で堪能して、まだ触られてもいない体は既に蕩けそうになっている。

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