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イケボと声フェチ③
しおりを挟む「私は別に会わなくても、こうして声を聞けるだけで満足ですけど」
私としては、日々忙しい彼に配慮したつもりだった。
けれど久世さんからしてみれば、私の言葉は彼の意に反するものだったらしい。
『………それは、冴えない男の顔なんて見ない方がいいって事?』
最大限の不機嫌ボイスにゾクゾクしつつも、またしてもウジウジ発言をかましてくれちゃう久世さんにイラついた。
「そんな事言ってないです」
『俺の顔見たら萎えるから会わなくてもいいんでしょ?どうせ』
「……どうしてそうなるんですか」
正直、彼のこういう所は頂けない。
「車で片道約1時間の距離をわざわざって思うと申し訳ないというか……」
『……それでも俺は恋人らしく二人で出掛けたりしたい』
「平日激務の久世さんには、休日くらいは体をちゃんと休めて欲しいですし」
付き合い始めてお互いの情報を開示していく段階で、意外にも久世さんは会社でそこそこの位置にいるらしい事が判明。
下請け企業の視察を任されるくらいだから当たり前と言えばそうなのだけれど、何気に彼は忙しい人で。
本来なら、将来のビジョンも特にないままのほほんと派遣やってる私の相手をしている暇などない筈だ。
「というか、私に会う為に時間を割くなら、新作のボイス動画早くアップして貰いたいです」
『え……と、それは……』
久世さんは言葉を詰まらせる。
「私、ずっと待ってるんですよ。次は嫉妬からの喧嘩、最後に仲直りまでのシチュエーションを切望します」
『け、結局俺の声だけなんじゃん……』
何やら弱々しく反論しているけれど無視。
「本当は独占欲が強いんだけど、それを隠してるクール男子の設定でお願いしたいです」
冷たい口調で散々責められた後で仲直りして、たっぷり甘やかされるのが良い。
それを想像しただけで脳味噌が耳から溶け出そうだ。
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