その声は媚薬.2

江上蒼羽

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不機嫌な彼女①side:竜生

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週末のデート、待ち合わせ場所まで車で彼女を迎えに行った。

気合いを入れて待ち合わせた時間より10分早く到着した俺と同じく、10分早く来ていた彼女は頭の天辺から足の先まで完璧だった。


「瑞希………今日も可愛い……」


車中で独り言を吐いてはニヤつく俺は、果たして彼女と釣り合いが取れているのだろうか?

自分なりに頑張って地味で冴えない男を脱却したつもりでいるけど、未だに自信が持てない。

いつかこの声が嗄れたら捨てられてしまうのかな……等と考えている内に、助手席のドアが開いた。


「待った?」

「………全然。待ち合わせの10分前だし、待ったも何もないですよ」


俺の問いに素っ気なく返し、彼女が乗り込んで来た。


「だよね。何か、ごめん」

「ごめんって何がです?」


シートベルトをした彼女は、俺の方を一切見ずに真っ直ぐ前を見据えている。


「あ………いや、うん………別に」

「…………」


どことなく様子のおかしい彼女に違和感を覚えながら、ゆっくりと車を発進させた。




「瑞希………どこか具合悪い?」


運転中にも拘わらず、彼女の態度が気になって運転に集中出来やしない。

そわそわと落ち着かないでいる俺と反対に彼女は落ち着いた様子。

横目でチラチラ見ては、無表情な横顔に何とも言い難い冷たい印象を受けて心臓が煽られるような感覚を味わう。



「……今日…」


不意に瑞希が声を発した。

生憎加速している最中で隣を見る余裕はない。


「映画を観る予定変更して良いですか?」

「え……?」


本日の予定は、偶々俺と瑞希の観たい映画が一緒だったから映画館で映画を観てからのカフェでお茶して街中をブラブラ。

時間を見て飯を食って、その後ホテルに………のつもりで計画を立てていたのだけど……


「どうしたの?瑞希、あの映画観たがってたじゃん」

「………そうなんですけど…」


急な変更の申し出に戸惑っていると、数十メートル先の信号が黄色に変わった。

すかさずアクセルから足を離し、ブレーキを踏む。


「やっぱりどこか具合悪い?」

「いえ、どこも悪くないです」


普段からミステリアスな印象を与える瑞希だけど、今日はいつもより更に謎に包まれている。


「変更するのは全然構わないけど……どこか行きたい所あるの?」


俺が聞くと瑞希は真っ直ぐに前を見据えたまま言う。


「ホテルに行きたいです」

「え………えぇ……?」


会って早々、しかも真っ昼間から行くスポットじゃないだろ……と、呆気に取られていると、後続者からクラクションが鳴らされた。

信号がいつの間にか青に変わっていたらしい。

慌ててアクセルを踏んだ。

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