売名恋愛

江上蒼羽

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計画始動①

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11月某日


遂に、計画始動の日を迎えた。

天気は晴れ。

気温は…………寒いから、多分低い。


「…………よっし」


果ての見えない空の青を瞳に映しながら気合いを入れる。


メイクは、派手過ぎず薄過ぎず……

透明感と清潔感を重視し、ややナチュラルめに。

前日の夜緊張で眠れなかった為に出来てしまった目の下のクマは、コンシーラーで必死に隠した。

一番困ったのが服装。

24年間生きてきて、異性とデートする機会なんて一切合切なかった私は、何を着れば良いのかさっぱり分からず……

クローゼットの中の手持ち服を部屋一面に拡げて絶望感を抱き、よく行くお店に乗り込んだ。


ヤラセの交際とはいえ、隣を歩く忍足さんに恥をかかせられない。

薄手のショート丈コートを羽織り、中はピンクのニット。

ボトムはショートパンツにして寒さ対策に厚手のタイツを穿いた。

足元は、歩き易いようにスニーカー。

店員さんに全身コーディネートして貰い、全購入。

財布にはかなりの痛手を負ったけれど、計画さえ上手くいけば回復………下手すると、それ以上の収穫を得られる事を考えれば前向きならざる得ない。

携帯で時間を確認しながら、待ち合わせ場所まで移動する。


「ねっ、あれって………まんぼうライダーの消えた方じゃない?」

「うっそ!久し振りに見た!」


擦れ違い様、嘲笑う声に耳を覆いたくなった。


「死んだって噂されてたけど、まだ生きてたんだー」

「ばーか、それデマに決まってんじゃん」


浴びる、好奇に満ちた無数の視線。

嫌だなぁ………と思いながら、電車を乗り継ぐ。




【当日は、まんぼうライダー森川のトレードマークであるお団子ヘアで来て下さい】



忍足さんからLINEを通しての指示。

服装の件についての細かい指示は無かったものの、ヘアスタイルの指定はあった。

自称、お笑い芸人の一般人と化してから、トレードマークのお団子ヘアを封印していた。

目立たないように、気付かれないように。

地に落ちた自分の姿を人に知られたくなかったから。

でも、今日は敢えて目立つように髪を頭の天辺で丸めた。

お陰で注目と心無い言葉を浴びる羽目になったのだけれど。




約束の時間の五分前、指定された待ち合わせ場所に到着。

周囲には、同じく待ち合わせと思われる人達がわんさか。

忍足さんが来ているかは、パッと見ではちょっと分からない。

仕方なく、携帯を取り出してLINEを送る。




【着きました】



すぐに既読がついた。




【看板の下辺りに居ます】



忍足さんからの返信を受け取り、人並みを掻き分け、忍足さんの姿を探して進む。

と、手摺に凭れながら俯きがちに携帯を弄る忍足さんの姿を確認。


「おっ、はようございます」


緊張から声が上擦った。

忍足さんは、携帯をパンツのポケットに仕舞ってから顔を上げる。


「おはよ」


塩顔イケメンが放つ優しい微笑み付きの甘い声にクラッときたけれど、ここで倒れる訳にはいかない。

これからこのイケメンとデートするのだから、待ち合わせの段階で息を切らしていては先が思いやられる。


「す、すみません、お待たせしちゃって……」

「ん?気にしないで。俺が早く来ただけだから」


言いながら、忍足さんは当たり前のように私の手を取る。


「うぎゃおっ!!」


突然加わった他人の熱に咄嗟に悲鳴が飛び出した。

当然、忍足さんは「えっ?」となる訳で…


「何?その反応は…」


可笑しそうに目を細める忍足さんに対し、私は口をパクパクさせて直立不動。

忍足さんの大きな手が私の手を優しく包んでいる。

もう、それだけで私の頭の中はパニック状態。


「………っ、て…」

「ん?」

「てててっ、手……なんか繋ぐんですか?!」


恐らく熟れたてイチゴのように赤面しているであろう、私の顔。

緊張から驚き、驚きから戸惑いへと忙しく変化する心に、自分自身が追い付いていない。

忍足さんは、私の焦りっぷりに吹き出すのを堪える素振りを見せてから言う。


「当たり前でしょ?付き合ってるんだから」

「っ、?!」


パニック真っ最中の私の耳元に忍足さんの唇が寄せられた。


「………見られてる。堂々として」


低く甘い声でそっと耳打ちされ、猫背がかった背筋が真っ直ぐに伸びた。

その背中に、四方八方から集まった視線が突き刺さる。
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