売名恋愛

江上蒼羽

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計画始動⑫

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「それは良かった。僕も楽しかったです」



二人っきりの空間という事で演技モードを解除したらしい忍足さんが優しく微笑んだ。


「ジェットコースターに乗った時の森川さんの白目むいた顔………かなりホラーテイストで笑えました」

「………わ、忘れて下さい」


一日中タメ口で話していた人が急に敬語に切り替えるものだから、妙な違和感を覚える。

人懐っこそうな印象から、一気に他人行儀な印象に変わり、何だか少し寂しく感じた。


「夕日……綺麗ですね…」

「そうですね」


観覧車登頂部から眺める夕日。

とても綺麗で、でも物悲しさを秘めていて。

夕日が沈んでいく様を見ていると、もうすぐ帰らないといけないんだな……と、気分が落ち込む。

もう終わりか……とか

一日がもう少し長ければいいのに………なんて、おセンチな事を考えてしまうのは、今日一日が本当に充実して楽しかったから。

まだまだ乗っていないアトラクションもあるし、忍足さんとも話していたい。


「帰りたくないな………」


不意に口をついて出てきた自らの呟きに驚き、咄嗟に口元を両手で覆う。


「す、すみません……ただの戯れ言です」


恥ずかしさから目の前の人物を直視出来なくなり、謝りながら視線を逸らした。

まさか、自分が女子っぽい台詞を言うなんて……

こんなの言われたって、忍足さんが迷惑に思うのは分かっているのに…

身をすぼめる私に、忍足さんは笑いを含ませて言う。


「そんな風に思って貰えて光栄です。でも、それはまだ遊んでいたいと言う意味ですか?それとも………」


途中まで言い掛けて止めた忍足さん。

不思議に思って「それとも………?」と聞くと、彼は苦笑する。


「…………いえ……つい、嬉しくて自惚れた事を言いそうになっただけです。気にしないで下さい」


結果、彼が何を言おうとしたのか分からないまま。

気にしないでと言われても、モヤモヤは拭えず、スッキリしない。




ゴンドラがゆっくり下降していく。


「今日は、思ったより騒ぎにならず動き易かったですね」

「そうですね……もっとワーッと囲まれて揉みくちゃにされるかと…」

「そこまでの人気はないって事ですね。お互いに」

「………嫌な事言わないで下さいよ」


確かに、大きな騒ぎにはならなかったけれど、写メとかバンバン撮られたし、握手を求められたりもした訳だ。

落ち目ながら、十分な快挙だろうと思う。


「きっと、明日から生活に多少なり変化があると思いますよ」


忍足さん的に、今日のビジネスデートに手応えを感じているらしい。


「小さくても、キッカケさえ掴めればいい……」


夕日色に染まる忍足さんの横顔。

その口元は微かに引き上がっていて、自信の程を窺える。


「そのキッカケを生かすも殺すも自分次第………僕はこの売名を利用して、上を目指します」


力強く宣言する忍足さんは、私に挑発的な笑みを向ける。


「売名の恩恵は長くは続かない……どうか、それをお忘れなく。今後のご活躍を期待してます」


馬鹿にしている風ではないにしろ、嫌味っぽく聞こえてしまうのは、私の心にゆとりがない所為か……

若干、カチンときた。


「ご忠告どうもありがとうございます。私もこの売名を利用して、再び芸人として返り咲いてみせます」


でも、お陰で私の闘志に火が着いた。

強気な私の発言に、忍足さんが「その意気です」と、満足げに笑う。


「いつか、ドラマなり、バラエティーなりで共演出来る日を楽しみしてます。本日はありがとうございました」

「あ………こちらこそありがとうございました…」

「次回の日取りは、またLINEで連絡します。お疲れ様でした」


ここで丁度、ゴンドラが地上に到着した。

初めは普通のカップル風に始まったデート。

最後は、味気も色気もなく、ビジネス感を漂わせて終了。
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