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売名の恩恵①
しおりを挟むビジネスデートから一夜明け、布団の中で涎を垂らして爆睡中……
けたたましい、且つ、しつこい着信音によって眠りを妨害された。
「……ふぁい、もしもしぃ~?」
くっついたまま開かない瞼をそのままに電話に出ると、着信の主であるマネージャーの川瀬さんが早口で捲し立てるように言う。
『あんた、まだ寝てたの?!早く起きなさい!』
「………は?何故にですか?」
今日、弁当屋のバイトは休み。
というか、人生初のデートで気疲れする事を考慮して事前に休暇を貰ってある。
だから、いつまで寝てようが私の勝手。
ましてや、芸人としての仕事は果てしなく白紙で未定な訳だし。
早く起こされる意味が分からない。
『いいから、早くテレビつけなさい!凄い事になってんのよ!!』
「は?はぁ……」
川瀬さんが言う凄い事にピンと来ないものの、渋々布団から手を伸ばし、リモコンを掴む。
「よっ………ん?」
電源を押したつもりが、画面は黒いまま。
おかしいな……と思い、確認すれば、手にしていたのは別のリモコンで。
「……っと、これ、エアコンのリモコンだった…」
『んなボケかましてないでいいから、さっさとつけなさい!チャンネルはテキトーでいいから』
川瀬さんの怒りのキンキン声に顔を顰めながら、電源をポチリ。
時間帯的にどの局も朝の情報番組を放映している筈なのだけれど……
画面が明るくなって一番に飛び込んできたのは“熱愛?!”の文字。
「えっ……」
脳内フリーズ現象が起きた。
『いやー、まさか、まさかの組み合わせですよ!驚きです!』
テレビの中で、芸能レポーターが声を大にして、大袈裟な手振りで騒いでいる。
そして、その背後に飾られているスポーツ誌には、手を繋いで歩く見覚えのある一組の男女の写真がデカデカと掲載されていて……
「わ、私じゃないですかーっ!!」
スマホを耳に当てたまま大絶叫。
超マッハスピードで布団から飛び起きた。
『記事を一部抜粋して読んでみます。えー……昨日、某遊園地にて、お笑いコンビ、まんぼうライダーのボケ担当、森川 素良(24)が堂々の手繋ぎデートをしているのが目撃された。お相手は一歳歳上の若手俳優………』
赤いサイドラインが引かれた記事を読み上げるレポーターを信じられない気持ちで見ている私。
脚が棒になったみたく、硬直していて動かない。
今日に限ってろくな芸能ニュースがなかったのか……
何故、私なんぞの記事がこんなに大々的に取り上げられているか、非常に謎。
『ツッコミ担当の間宮活躍の裏で、イケメン俳優とひっそりと愛を育み始めていた森川、今後の二人に注目………とあります。いやー…分からないものですね。イケメン俳優がよりによって女芸人を選ぶとは……』
記事を読み上げ、自分なりの感想を語るレポーター。
何となく、女芸人という立場の私を侮辱しているような気がする。
ムカついてチャンネルを替えてみると、また熱愛の文字。
いくつかのチャンネルを切り替え、状況を確認した上でも、まだ実感は沸かず、別の人の話なんじゃ……と、変に勘ぐってしまう。
信じられない。
実は、まだ夢の中なのかもしれない……等と呆けていると、通話中の相手から叱咤が入る。
『状況分かった?!分かったら早く支度して、事務所に来なさい!』
「え………事務所にですか?」
急な呼び出しに戸惑っていると、川瀬さんが『いや、待った』と、制止をかける。
『報道陣が張ってるかもしれないから、関根に迎えに行かせるわ。すぐ出れるよう準備だけしておいて』
関根というのは、同じ事務所に所属する後輩タレントのマネージャー。
腰の低さはピカイチながら、見た目の厳つさは天下一。
泣く子も黙る極悪面故に、マネージメントだけでなく、タレントのボディーガードも兼任している。
『くれぐれも目立つ格好をしない事!分かったわね?!』
「は、はいぃ……」
ピリピリモードの川瀬さんに呼び出される詳しい事情を聞けないまま、通話が強制終了。
回路が繋がるのに暫しの時間を要し、スマホ片手に数分棒立ち。
テレビの画面が芸能ニュースからCMへと切り替わったと同時に、ハッと我に返る。
「ぎゃー!関根さんが来ちゃう!急げ、急げー!」
大慌てで、支度に取り掛かった。
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