売名恋愛

江上蒼羽

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売名の恩恵③

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【熱愛撮った!崖っぷち女芸人、奇跡の恋】


《秋晴れの空の下、白昼堂々遊園地デートを楽しむ、芸能人カップルが居た。

お笑いコンビ、まんぼうライダーのボケを担当する森川 素良(もりかわ そら)〈24歳〉。

お相手は、大人気特撮、覆面ライダーシリーズ出身の俳優、忍足 慧史(おしだり けいし)〈25歳〉だ。

二人は、仲睦まじそうに手を繋いでいくつかのアトラクションを楽しんでいた。

人目を憚らず、堂々とした様に多くの人が驚き、SNS等に目撃情報が相次いで寄せられた。

まんぼうライダー森川といえば、かつて勘違い女のネタで一世を風靡したが、次第に人気は低迷。

現在は、相方間宮のピンでの活動が目立ち、コンビでの活動はほぼ休止状態となっている。

そんな崖っぷち芸人森川のお相手である忍足はというと、子供から絶大な支持を受ける大人気番組、覆面ライダーシリーズ第35作品目の覆面ライダージャスティスのライバルライダー役でデビュー。

知名度はまだまだ低いながらも、地道に活動を続け、現在はドラマだけでなく舞台からミュージカルまで幅広くこなす、若手イケメン俳優だ。

かつて子供とその母親を夢中にさせた男が現在夢中にさせているのは、畑違いの女芸人。

落ち目の女芸人とイケメン俳優という異色の組み合わせ……

今後の二人の動向から目が離せない。》








記事を読み終えての感想は……


「………この崖っぷちって、酷くないですか?」


崖っぷち、落ち目……等と、所々悪意を感じる記事にムッとしていると、川瀬さんは「強ち間違いじゃないでしょ?」と笑う。

その返事に対して落ち込みながらも、忍足さんの事は印象良く書いてあるのが腹立たしく思える。

私の事はケチョンケチョンなのに…

記事に添えられた写真は、手を繋いで歩く後ろ姿。

こうして客観的に自分の後ろ姿を見て思う。

私って、姿勢が悪いな………と。

猫背気味のガニ股で、後ろ姿が完全にブス。


……いや、正面から見ても大してかわいい訳ではないのだけれど。


「もう少し良い写真なかったんですかね……よりによってこんな…」

「あら、あんた、いつもこんな感じよ?」

「え………気を付けよ…」


川瀬さんの言う通り、アイドルの一日警察署長の記事を一面に置いていたのは二社だけで、大半が私と忍足さんの記事を大きく報じていた。

計画通り………いや、計画以上に事が運び、思わずニヤリ。


「で、早速なんだけど……」


川瀬さんの表情がビジネス仕様に切り替わった。


「報道の効果があって、仕事のオファーがいくつか来た訳よ」

「ほ、本当ですかっ?!」


嬉しさのあまり、興奮で姿勢が前のめる。


「ちょっと………興奮する気持ちは分かるけど、唾飛ばさないでくれる?」

「あぎゃ………すみません…」


嫌そうに顔を歪めながら、袖口で頬を拭う川瀬さん。

風船の空気が抜けるみたく、私の勢いは萎む。


「取り敢えず今来てるのは、バラエティー2本にラジオ、今週末の情報番組へのゲスト出演……それからーーー…」
「はい、全部受けます!やらせて下さい!!」


川瀬さんが言い終わるのが待てず、食い気味に挙手。

川瀬さんは、向かい側の椅子の背凭れに体を預け、決して長くはない脚を組んだ。


「やる気があるのは結構だけど、いいの?アルバイトの方は?」

「う………」


本音を言えば、大丈夫ではない。

つい先日、ベテランパートのおばちゃんが辞めていって、店長から私が次のパートのリーダーに……と任命されていた。

勤続年数はまだ少ないけれども、真面目な働きっぷりを評価してくれ、大幅な昇給も約束してくれた。

遣り甲斐を感じ始めていた頃だし、寧ろ芸人より向いてるかな?なんて思っていたりする弁当屋のバイト。

正直、このまま責任逃れするのは忍びないし、したくもないのだけれど……

今後芸能活動が忙しくなるのならば、バイトとの両立は厳しい。

二兎を追う者、一兎も得ずと言うし。

だったら、どうするか?

答えは簡単


「だ、大丈夫です。こちらの仕事を優先します。それから、バイトの方は今月いっぱいで退職しようと思います」


そう答えたのは、目の前にあるいつもの食べ慣れたエサより、ちょっと頑張れば手の届く高価なエサの方に魅力を感じたから。


「受けられるものは、全部受けます。何なら、週刊誌のインタビューにも答えます」


今までの分を取り戻したい…

相方間宮との格差を埋めたい……

そんな思いでいっぱいだった。


「そう、分かったわ。スケジュールを調整しながら、入れられる仕事は片っ端から入れていくから」


B5サイズの手帳を捲りながら言った川瀬さんに「お願いします」と頭を下げ、遣る気のボルテージを上げていく。


「今日の午後からある、新商品のPRイベントに間宮が出る予定なんだけど、主催者側からコンビで出ないか?って申し出があったの。これ、どうする?」

「はい、是非っ!」


今までは、充電期間。

これから訪れるであろう、私の人生、第2章への伏線。

この売名計画を利用して上を目指すと言った忍足さんに負けていられない。

相方間宮とまた肩を並べられる事への喜びを胸に、再び掴んだ栄光へと続くドアの前に立つ。


一度は落ちた地の底

私はもう、そこへは二度と引き返すつもりはない。

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