売名恋愛

江上蒼羽

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売名後の売名?⑧

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「………森川……派手にやらかしてくれたわね…」


口元に笑みを浮かべつつも、どこか呆れにも似たような声色で言う川瀬さん。

彼女の手には、今日発売の週刊誌が握られている。


「………す、すみません」


怒りはしていないながらも、機嫌はあまりよろしくない川瀬さんを前に、私は萎縮しまくっていた。


「別にあんたを責めてはないの。恋愛ご法度のアイドルとは立場が違うし、自由に恋愛して貰って構わないけど……こう、短期間の間で……ねぇ?」

「い、いや、彼とはそんなんじゃないですから!」


弁解する私に、彼女は盛大に溜め息を吐いてみせる。


「私は分かってるけど、世間がどう見るかよ」


川瀬さんの手中にある週刊誌の見出しに大きく記された【また売名か?!ドッキリか?!】の文字。

太く大きなゴシック体で、他の記事より一際目立っている。


「先日、世間を賑わせた女芸人に新たなスキャンダル発覚。まんぼうライダー森川が、とある居酒屋で密会していた相手は、若手俳優、芹沢 流希(25)。前回の偽装交際のお相手、忍足 慧史とは違ったタイプのイケメンだ…」


川瀬さんが週刊誌の記事を声を大にして読み始めた。


「ドッキリでの心の傷を癒して貰っていたのか……それとも、次なる売名作戦を練っていたのか……定かではないが、二人は終始見詰め合い、微笑み合っていた」

「いや、その表現はちょっと違うような……」

「終電を無くして居酒屋を後にした二人は、そのまま寄り添うようにホテルのある方角へと消えて行っーーー…」


川瀬さんが記事の全文を読み終える前に「でっち上げです!!」と、立ち上がる。


「デタラメも良い所ですから!ホテルなんて行ってません!」


終電がなくなるまで飲んだのは間違いない。

でも、その後は現地解散し、各々タクシーで帰宅したのだ。

ホテルなんて有り得ない。

私と芹沢さんの記事を書いた週刊誌は、誇張表現やガセ、ゴシップが多い事で有名だ。

けれども、どんなに滅茶苦茶な記事でも、真に受ける人は少なくない。

ましてや、ホテルの方角へ……とぼかされてはいるものの、ホテルと明記されている時点で、大幅なイメージダウンの可能性がある。

いずれ引退する身としては、イメージダウンなんてどうでも良いっちゃ良いような気もするのだけれど、やはり世間からの印象は良いに越した事ない。


「参ったなぁ……」


頭を抱える私に、川瀬さんが言う。


「ただの飲み友達かもしれないけど、男と二人で……なんて、かなり軽率だったわね」

「………すみません」


テーブルに突っ伏して落ち込む私に、川瀬さんが追い討ちを掛けるように言う。


「もしかして……本当に売名に利用されたんじゃないの?」


それに対して「そんな事ないです!」と、すかさず反論する。


「芹沢さんは、そんな人じゃないです!仲間思いの男気溢れる人なんですから!」


芹沢さんを庇いながらも、実は利用されたんじゃ……と、不安になる。

芹沢さんに限ってそんな事はないだろうけれど、心の片隅で疑いを持っている自分がいる。

思えば、嫌な人間になったものだ。

人を疑う癖がついて、善人な人でさえ、悪人に見えてしまう時があるなんて。


「そもそも、こんな無名の俳優と、いつ、どこで知り合ったの?」


川瀬さんの言葉に、引っ掛かりを感じた。


「えっ………やだ、川瀬さん、彼は忍足さんの俳優仲間ですよ?忍足さんと彼の舞台を観に行った時に知り合って……」


忽ち、川瀬さんの眉間に皺が寄る。


「忍足さんと?それ……いつの話よ?」

「え………」


川瀬さんの様子がおかしい。


「えっと……確か、忍足さんの携帯が壊れたとかいう日で…」

「…………あぁ、あの日…」

「二人で舞台を観に行って、その後、舞台関係者と飲みに………あれもドッキリの一部だったんでしょう?」

「………」


何やら、考え込む川瀬さん。

その様子に不安を感じていると、事務所内が慌ただしくなった。

どうやら、来客があったらしい。
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