売名恋愛

江上蒼羽

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衝突②

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家に帰る頃には、ある程度冷静さを取り戻した。

そうなると、やって来るのは激しい自己嫌悪で。

八つ当たるみたいに、相方に酷い態度を取った自分の幼稚さに反吐が出そうになる。

ついでに涙も少し。


「………はぁ…」


本日何度目かの、重量級の溜め息。

吐いても吐いても、胸につっかえたものはなくならない。

気分を紛らわせる為に開けた缶酎ハイも、一口飲んだだけで進まない。

仕方なく、翌日の仕事の準備に取り掛かる。


「えっと、明日はいつもより荷物が多いから………」


独り言を吐きながら、クローゼットの奥に仕舞い込んだボストンの捜索及び、発掘作業に勤しんでいると…


「ぶわっ……?!」


頭上から大きな塊が降ってきた。

しかも、顔面直撃。

幸い、ものが柔らかかったから、衝撃による顔面の陥没は免れた。

私の顔にヒットをかました物体の正体は、目がチカチカする原色に、愛くるしい顔立ちをしたマンボウのぬいぐるみ。

両手で抱えないと持てないような、大きめサイズのそれは、いつかのゲームセンターデートで忍足さんが私にプレゼントしてくれたもの。

貰った当初は、嬉しくて部屋に飾っていた。

可愛くて、触り心地も良かったから。

癒しの存在として、私に崇め祀られていたものの、ドッキリにショックを受けてからは、忌み嫌う存在になり下がった。

見ているだけで辛い記憶がフラッシュバックして、辛くて……

精神衛生上よろしくないと判断した私は、マンボウをクローゼットの奥深くへと封印してやったのだった。

ゴミに出すには大きかったし、何より、忍足さんがかなりの額を注ぎ込んで取ってくれたから、勿体なく感じたし…

確か、たかだかクレーンゲームに、少なくとも野口英世さんが3枚は消えていたような……

だから、何となく、捨てられずに取っておいてしまっていたのだ。

少し湿気にやられてカビっぽい匂いのするマンボウを抱えてみた。

腕に収まる感触を確め、手触りも確認してみる。


「……ふにふにだ…」


ツルツルした素材の生地の中には、恐らくマイクロビーズが入っているのだと思う。

柔らかくて、ずっと触っていたくなるような感触だ。



『ありがとうございます。大切にしますね』



ふと過った、自分の言葉…

思い出した途端に、笑いが込み上げて来た。


「……調子良く言ったくせして、ちっとも大切にしてないし」


あの頃の夢のような時間が懐かしい。

付き合ってるフリでも、それはそれは楽しかった。

ドキドキも沢山したし、ワクワクも目一杯した。

ドッキリを知らないままでいれたら、まだ良かったのに。




マンボウのぬいぐるみを抱えたまま今までの出来事を反芻していると、その辺にテキトーに放置しておいたスマホが鳴り出した。

画面に表示された着信の主の名前に、思わず息を飲んだ。

顔を見たくない相手なら、声すら聞きたくなかったりする。



“夜だし、寝た事にしとこうか?”



悪魔の囁きに、一度は手中に収めたスマホを手放した。

どうせ、また次の日も、またその次の日も嫌でも顔を合わせてしまうのだから、用件は今すぐ聞く必要はない。

どうせ、記事についての言い訳を聞かされるだけだろうから。

耳障りな着信は、長い間しつこく鳴り、その内に切れた。


「………ふぅ、諦めたか」


ホッと息を吐いたのも束の間、またすぐにしつこい着信が鳴り始める。


「………」


マナーモードにしてやり過ごそうにも、バイブ音が床に振動して喧しい。

苛立ちが生じ始めた。

2度、3度無視を決め込み、耐えきれずに、サイレントモードにしてみる。

それでも、定期的に着信が入り、画面を明るくさせた。

着信履歴は、ほぼ間宮 志保の名で埋まっている事だろう。

おおよそ20回目の着信で限界が来た。
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