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相方の想い③
しおりを挟む切羽詰まったような忍足さんの大声を、私は初めて聞いた。
ドラマの中で演技しているのとは全く異なるそれは、私を大人しくさせるには十分な威力があった。
「………カメラなんか、どこにもないから。ドッキリなんかじゃないから」
ズビッと鼻を啜る。
「……もう二度と傷付けるつもりなんかないんだ……だから、泣かないで」
「っ、」
「ごめん………本当に、ごめん…」
耳に響く声があまりにも優しくて…
「……っ、うぅ~…」
私は、両手で顔を覆い、消防車のサイレンみたいな声を出しながら泣いた。
「…………ごめん…」
「う、うぅ~……っく、うぅぅ…」
「っ、ごめん………素良…」
忍足さんは、私の嗚咽が収まるまで、謝罪の言葉を繰り返していた。
何度も何度も。
「………その……間宮さんとは、何もないから」
泣き疲れて私がぐったりしてきたのを見計らって、忍足さんがボソボソと語り始めた。
「記事にされた日も、二人っきりで会ってた訳じゃなかったし」
「………」
「週刊誌には、何かあるみたいな書き方されてたけど……本当に何も」
忍足さんは、私の体を拘束していた腕をそっと解く。
それから、だらしなく彼に体を預けていた私を起こすと、そのまま反転させた。
「………俺が好きなのは、素良だから」
生まれて初めてされた告白は、涙と鼻水でグチャグチャのヌルヌルの悲惨な状態の顔で聞いた。
「大切にしたいと思って…………うわ、凄い顔…」
格別に甘い言葉を中断した忍足さんは、私の使い古された雑巾並みに汚い顔に苦笑い。
すかさずティッシュの箱を手渡してくれた忍足さんを、酷い奴め……と睨みながら顔の水分を拭い取る。
ついでに鼻も盛大な音を立ててかんだ。
「………どうして間宮と会っていたんですか?」
私の問いを受け、忍足さんは眼鏡の奥の瞳を細めた。
「………間宮さんから相談と説得を受けてたんだよね」
「相談………説得…?」
首を傾げる私に、忍足さんが優しく言う。
「相方の覇気がない、笑顔が少なくなった……あんたが相方を傷付けた所為だ、責任取れって」
「………」
「相方が笑っていないと自分も辛いから、どうにかしてくれって………顔も見たくない程嫌われている俺にどうしろって言うんだよって、正直戸惑ったよ」
鼻をかんだティッシュを団子にしながら、忍足さんの話に耳を傾ける。
「相方は、意地を張ってるだけだから。自分の本当の気持ちに気付いていないだけだからお願いしますって………間宮さん、必死の形相だったよ」
その時の状況を思い出してか、忍足さんが小さく笑う。
「間宮さんがよく喋るから、同席していた芹や………芹沢も目を丸くしてた」
突拍子もなく出てきた名前に「えっ?!」と、体が前のめった。
「芹沢さんも一緒だったんですか?」
「うん、だからさっきも言ったように、間宮さんと二人っきりじゃなかったの」
笑いながら「何なら、奴に確認する?」と言う忍足さんに、私は「いや、結構です…」と、首を左右にブンブン振ってみせた。
それに笑いを堪えるような素振りを見せた後、彼は私の髪を撫でながら言う。
「異性と二人っきりで会うなんてリスクの高い事しないよ。特に、一番誤解されたくないコの相方が相手だったし……余計に神経使った」
蕩けるような甘い微笑みを直視出来ずに、私は視線を逸らした。
「あ、ついでに、間宮さんの彼氏も付き添いで来ていたよ」
その言葉に、食い付かずにいられなかった。
「間宮の彼氏も?!ど、どんな人ですか?間宮の彼氏は」
忍足さんは「えーっと…」と、視線を宙に彷徨わせた。
「確か………櫻田って名前だったかな……歳は、多分30前後位」
「さ、くらだ……ですか…」
名前を聞いても今一つピンとこない。
間宮は、以前私も知っている人だって言っていたけれど……
櫻田、なんて人……全然知らない。
「何でも……間宮さんが今一番ハマってるロボットアニメの大佐役?の声をやってるらしいけど…」
そこで漸く、ピンときた。
「もしかして………ダンガムのレオン大佐…?」
「あぁ、そうそう、確かそんなキャラだった。声の仕事をしているだけあって、凄く色気のある声してた」
間宮、愛しのレオン大佐。
以前、ダンガムのビデオ鑑賞に付き合わされた事があったけれど、その時に言っていたっけ。
この癒しのボイスが堪らない~とか、何とかって。
私には、少々理解し難い部分があったけれども。
そういえば……
アニメファン向けのイベントでゲストとして呼ばれた際に、憧れの人と初対面を果たせたと興奮気味に語っていた記憶がある。
そりゃ、大好きなキャラの大好きな声を持つ人と付き合えたら骨抜きになるよな……と、間宮の浮かれ具合に納得した。
「店を出たタイミングが悪かったのか、偶々俺と間宮さんが並んでいた所を、さも二人っきりのように撮られちゃっただけ」
忍足さんは、念を押すように「とにかく、誤解なんだよ」と、眉を下げた。
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