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相方の想い④
しおりを挟む間宮の恋の相手が忍足さんじゃない事が分かり、ホッと胸を撫で下ろした。
密会報道が出た日から、ずっと胸にこびりついていたへどろ汚れのような負の感情。
それがサラサラと流れて消えていくと同時に、重たかった胸が軽くなり、楽になった。
「……間宮さん、自分がこの過酷な世界に引き込んだにも拘わらず、素良にばかり辛い思いをさせてしまってるって、申し訳なく感じてるみたいだよ」
「え……」
忍足さんは「もし、ね…」と、困ったように笑いながら続ける。
「素良が芸人辞めたいって言ったら、間宮さんも一緒に引退するらしいよ」
「えっ?!」
「素良が居なくなったら、頑張る意味ないから……って」
ノリにノッている間宮から引退という言葉が出てきた事が凄く衝撃的だった。
「コンビ愛って言うんだよね?こういうの。間宮さんは、素良の事を物凄く大切に想ってる」
「………間宮…」
マイペースで自由気ままに振る舞っているようで、誰よりも気遣いに長けていた間宮。
いつだって、私を気遣ってくれていた。
仕事がなくて困っていた私を励まし、時に叱り……
その裏では、川瀬さんや社長にどうにかしてくれるよう頼んでくれていたのを知っている。
天性の才覚と魅力で築いた売れっ子芸人の地位。
私より一歩も二歩も、千歩も先へ行っていた彼女は、それに驕る事もしないで、私が追い付くのを待ってくれていた。
本来なら、コンビ間で格差が生じれば、解散がちらつく筈だ。
なのに、彼女の口から一度も“解散”の言葉は出てこなかった。
私なんか、間宮の足枷でしかなかっただろうに。
ピン芸人になった方が、活躍の場を今以上に広げられただろうし、仕事もし易いだろうに。
忍足さんの腕が、また私の体を包む。
当然ながら、免疫のない私は、大袈裟にびくついた。
だけど、もうその腕を解こうと抵抗しようとは思わない。
逆に、心地好さと安らぎを感じてしまっているから妙なものだ。
「間宮さんは、素良の事を諦めようとしていた俺を励ましてくれた」
「………」
「それどころか、素良を元気にするには俺の力が必要だって、背中を押してくれたんだ」
忍足さんの腕に、ぎゅっ……と、力が込められた。
「今日だって、こんな風に素良と向き合う機会を作ってくれた……ま、素良にとっては迷惑以外の何物でもないだろうけど」
忍足さんの口から聞かされた、相方の想い。
彼女の気持ち、優しさ、温かさ…
それ等が犇々と伝わってくるから、やっと落ち着きかけた涙腺がまた忙しく稼働し始める。
「素良の為に俺を利用した感はあっても………彼女には、感謝してる」
噛み締めるように言った忍足さんに同意するように、私は涙を流しながら頷いた。
「……私、ずっと、間宮の足を引っ張ってきました」
「………素良?」
ポタリ……ポタリ……と、涙が滴り落ちる。
「まんぼうライダーが有名になれたのは間宮の力で………私は、間宮のオマケみたいなものだったから」
忍足さんの腕の中に居るのを良い事に、そのまま彼に寄り掛かる。
図々しく、甘えるように。
「……私なんか、芸人として中途半端。ピンじゃトークは滑るし、ろくに笑いも取れないし……」
指先で、目に溜まっている涙をやや雑に払う。
「だから、間宮にいつか切り離されるんだろうなって思っていました」
大きく息を吸って、ゆっくり吐き出した。
「でも、間宮は、私を切らなかった。それどころか、一緒に仕事が出来て嬉しい、ずっと二人でやっていきたいって言ってくれて………私は、その言葉に丸々甘えていたんだと思います」
間宮に散々嫉妬した。
いっぱい八つ当たりもした。
極めつけは、間宮とはやっていけないなんて酷い事を言ってしまって…
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