売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
111 / 137

相方の想い⑤

しおりを挟む


「自分が楽になりたいが為に、間宮の気持ちを考えずに、コンビを解消したいだなんて身勝手な事を言ってしまいました」


私は、何て大馬鹿者なのだろう…

いつだって、私は自分の事ばかりだ。

間宮の気持ちなんて、ちっとも考えていなかった。

コンビを組んで6年。

相方であり、親友でもあり、実の親以上に私を理解してくれているであろう存在の間宮。

彼女の気持ちを蔑ろにしていた自分が恥ずかしい。


「間宮に謝んなきゃ……」


そう口にしながら思う。

今の私が出来る相方への最大の罪滅ぼしは、彼女が作ってくれたチャンスを最大限に活かす事なんじゃないかと。

そして



『もっと素直にならないと損するよ?』



間宮との電話で言われた、彼女からの言葉。

この言葉の通り、素直になる事なんじゃないかって。


間宮と忍足さんの報道が誤解と分かり、安心した自分。

いくら私が大馬鹿者でも、それが何を意味しているのかが分からない程、鈍感ではない。

嫌いだ嫌いだって言っていたのは、ただ自分に暗示を掛けていただけ。

二度と傷付きたくないから、ずっと臭いものに蓋をするように、自分の本当の気持ちに知らないフリ、気が付かないフリを貫いていただけ。

散々忍足さんの事を突っぱねて拒んでおきながら、彼が他の誰かの方を見たら見たで気に食わない。

自分の我儘さには、呆れてしまう。

今回の報道がキッカケで発生し、胸の中に滞留していたへどろの正体。

それが、ただの醜い嫉妬だったと、ここへ来て漸く受け入れられた。

自分の気持ちを認めるまでに、かなりの時差を要した事に、笑いが込み上げてくる。


「馬鹿、みたいだ……」


譫言みたく呟いた私に「……素良?」と優しく反応してくれた忍足さん。

その声が、体と心に浸透する。

まるで、高熱時のポカリみたいに、スーっと心地好く染み込んでいく。


「………ちょっとすみません」


一言断りを入れ、忍足さんの腕からすり抜けた。

それから、高速でティッシュを数枚引き抜き、涙と鼻水で濡れた顔をキレイにする。

グシャッと丸めたティッシュを拳の中に収めたまま、背を向けていた忍足さんと向かい合えるように体の向きを変えた。

脚を正座の形に整え、背筋まで伸ばす私を黒いフレームの眼鏡の奥から不思議そうに眺めている忍足さん。

彼の視線に、一旦は怯み、目を逸らしたものの……

大切な相方、間宮の顔が浮かんだら、腹が据わった。


「お、忍足 慧史さん………」


緊張で声が震える。

ついでに、肩も腕も。

歯もカチカチ言わせたぐらいにして。


「わ、私は………貴方が好きです…」


相方から自分に素直になる勇気を貰った今の私は、最強なんだと信じたい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

処理中です...