売名恋愛

江上蒼羽

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素直になれたその時に…①

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自分の想いを吐き出した瞬間、視界が狭まる。

超至近距離には、忍足さんの顔。

お世辞にも長いとは言えない睫毛に縁取られた目は閉じられ、筋の通った鼻がすぐ目の先に。

唇には柔らかい感触と熱がぶつかっている。

ちゅっ……と軽く吸われた後離れ、すぐにまた唇が押し当てられる。

呆けている暇もないくらい、何度も何度も繰り返され、息継ぎのタイミングが分からず、酸欠気味な恋愛初心者の私。


「ちょっ……忍…むぅ、」


啄むようなキスから、徐々に貪るような深いものに変わっていく。

当然、私はどうすればいいのか分からず石化。

されるがまま、状態。


数分に渡る長いキスの後、漸く唇を離した忍足さん。


彼の濡れた唇から、切なげな声が漏れる。


「………女の子から告白されて泣きたくなったの、初めて」

「……え?」

「嬉しい」


忍足さんがそっと眼鏡を外し、傍にあるテーブルの端に置いた。

その所作にドキッとさせられた私に、彼が更に熱っぽい眼差しで言う。


「………ごめん、抱きたい」


「えっ?」と聞き返す間もないまま再び口を塞がれる。

蕩けかけた頭で今の言葉の意味を懸命に理解しようとするけれど、実際は、キスだけでいっぱいいっぱい。

忍足さんの手が服の裾から侵入してきて、やっと事の重大さに気が付いた。


「ちょっ……ちょちょちょっと、忍足さん!」


焦って体を引き離すも、すぐにまた引き寄せられる。


「……素良、駄目…?」


耳元で低く囁かれると腰が砕けそうになる。

体に力が入らない。


「素良が嫌なら無理強いはしないけど……」


そう言いつつも、忍足さんの手は、ウエストの辺りを撫でたり、お尻の辺りをなぞったり、怪しい動きをしている。


「素良」

「ひぅっ」


耳に掛かった湿った息に、ゾクゾクと体が震えた。

忍足さんに抱かれたい……

でも、ここから先は未知の領域。

正直、怖さが勝って、踏み切れない。

経験がない上に、予備知識も限りなく少ない。

第一、人様にさらけ出せるような体じゃないし…


どうしよう……どうしたら………

ぎゅっと目を瞑り震えながら乙女の葛藤を繰り広げていると…


「ぷっ……」


突然、忍足さんが吹き出した。

「えっ?」と思い、そっと目を開くと、口元を手で覆いながら肩を小刻みに揺らしている彼が居た。


「ぷくくっ……」

「お、忍足さん……?」


恐る恐る様子を窺うと、彼は涙目になりながら言う。


「顔、真っ赤にして……ぷくくくっ…プルプル小刻みに震えながら身を固くしてるし…」

「は、はい?」


彼が言わんとしている事がさっぱり分からず、怪訝そうに顔を顰める私。

当の忍足さんは、目尻を擦りながら込み上げてくる笑いと格闘している模様。


「………ぷくくっ……トイレ我慢してんのかなーって思ったら、可笑しくて……ふ、ははっ」

「っ?!」


恋愛経験もなければ、当然、その先も知らない私。

想像すら儘ならない。

そんな私の大きな期待と小さな恐怖の狭間で揺れている様が可笑しいだなんて…

あろう事か、乙女チックに胸を高鳴らせている様を便意に耐えていると揶揄するなんて…


「トイレ行きたかったら行っておいでよ」


忍足さんは、笑いながら「あっちね」と、トイレのある方角を指差した。


「も、催してません!」


口を尖らせながら「し、仕方ないじゃないですか…」と、そっぽを向く。


「こういう事、全く経験なくて………どうしたらいいのか分かんないんですよ」


恥を忍んでの純情アピールに、忍足さんが「あれ?」と、首を傾げた。


「芹沢とホテルに行って、して来たんじゃなかったの?」


意地の悪い笑みを浮かべる忍足さん。

彼が私の幼稚な嘘を見破っているのは一目瞭然だった。
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