112 / 137
素直になれたその時に…①
しおりを挟む自分の想いを吐き出した瞬間、視界が狭まる。
超至近距離には、忍足さんの顔。
お世辞にも長いとは言えない睫毛に縁取られた目は閉じられ、筋の通った鼻がすぐ目の先に。
唇には柔らかい感触と熱がぶつかっている。
ちゅっ……と軽く吸われた後離れ、すぐにまた唇が押し当てられる。
呆けている暇もないくらい、何度も何度も繰り返され、息継ぎのタイミングが分からず、酸欠気味な恋愛初心者の私。
「ちょっ……忍…むぅ、」
啄むようなキスから、徐々に貪るような深いものに変わっていく。
当然、私はどうすればいいのか分からず石化。
されるがまま、状態。
数分に渡る長いキスの後、漸く唇を離した忍足さん。
彼の濡れた唇から、切なげな声が漏れる。
「………女の子から告白されて泣きたくなったの、初めて」
「……え?」
「嬉しい」
忍足さんがそっと眼鏡を外し、傍にあるテーブルの端に置いた。
その所作にドキッとさせられた私に、彼が更に熱っぽい眼差しで言う。
「………ごめん、抱きたい」
「えっ?」と聞き返す間もないまま再び口を塞がれる。
蕩けかけた頭で今の言葉の意味を懸命に理解しようとするけれど、実際は、キスだけでいっぱいいっぱい。
忍足さんの手が服の裾から侵入してきて、やっと事の重大さに気が付いた。
「ちょっ……ちょちょちょっと、忍足さん!」
焦って体を引き離すも、すぐにまた引き寄せられる。
「……素良、駄目…?」
耳元で低く囁かれると腰が砕けそうになる。
体に力が入らない。
「素良が嫌なら無理強いはしないけど……」
そう言いつつも、忍足さんの手は、ウエストの辺りを撫でたり、お尻の辺りをなぞったり、怪しい動きをしている。
「素良」
「ひぅっ」
耳に掛かった湿った息に、ゾクゾクと体が震えた。
忍足さんに抱かれたい……
でも、ここから先は未知の領域。
正直、怖さが勝って、踏み切れない。
経験がない上に、予備知識も限りなく少ない。
第一、人様にさらけ出せるような体じゃないし…
どうしよう……どうしたら………
ぎゅっと目を瞑り震えながら乙女の葛藤を繰り広げていると…
「ぷっ……」
突然、忍足さんが吹き出した。
「えっ?」と思い、そっと目を開くと、口元を手で覆いながら肩を小刻みに揺らしている彼が居た。
「ぷくくっ……」
「お、忍足さん……?」
恐る恐る様子を窺うと、彼は涙目になりながら言う。
「顔、真っ赤にして……ぷくくくっ…プルプル小刻みに震えながら身を固くしてるし…」
「は、はい?」
彼が言わんとしている事がさっぱり分からず、怪訝そうに顔を顰める私。
当の忍足さんは、目尻を擦りながら込み上げてくる笑いと格闘している模様。
「………ぷくくっ……トイレ我慢してんのかなーって思ったら、可笑しくて……ふ、ははっ」
「っ?!」
恋愛経験もなければ、当然、その先も知らない私。
想像すら儘ならない。
そんな私の大きな期待と小さな恐怖の狭間で揺れている様が可笑しいだなんて…
あろう事か、乙女チックに胸を高鳴らせている様を便意に耐えていると揶揄するなんて…
「トイレ行きたかったら行っておいでよ」
忍足さんは、笑いながら「あっちね」と、トイレのある方角を指差した。
「も、催してません!」
口を尖らせながら「し、仕方ないじゃないですか…」と、そっぽを向く。
「こういう事、全く経験なくて………どうしたらいいのか分かんないんですよ」
恥を忍んでの純情アピールに、忍足さんが「あれ?」と、首を傾げた。
「芹沢とホテルに行って、して来たんじゃなかったの?」
意地の悪い笑みを浮かべる忍足さん。
彼が私の幼稚な嘘を見破っているのは一目瞭然だった。
0
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる