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痛み(side 慧史)
しおりを挟む三週間振りの彼女との対面は、当然ホンコンシューズの監視付きだった。
「忍足さんは、少しお痩せになられました………よね?」
彼女の鋭い指摘にドキッとする。
元々の肉付きが薄い俺にはショックな言葉だ。
「あ、はは………分かります?只でさえ貧弱なのに、磨きが掛かってしまいました」
最近、満足に食事を摂れていない。
全ては、いたいけな女の子を騙しているという罪悪感から。
普通に腹は減るのに、食べたくても胃が受け付けない。
仕舞いには、このドッキリの仕事の事を考えるだけで胃が痛み出す始末。
精神的に結構な所まで追い詰められているんだと思う。
「顔色もあまり良くないみたいですけど、無理なさらないで下さいね?」
「大丈夫です」
彼女にとって悪者でしかない俺を心配する姿に、また胃がキリリ……
……本当に、こんな純粋な子を騙して何やってんだよ、俺は。
「売名が成功して良かったですね」
鼻息荒く言う彼女に、胃の痛みを堪えながら「そうですね……」と返す。
「お互い、これから何かと大変ですけど、頑張りましょうね。あ、あと、何よりも体を壊さないよう気を付けましょうね!」
目をキラキラさせながら嬉しそうに話す彼女は「でも……」と続ける。
「全ては、忍足さんのお陰ですよね。忍足さんがこの話を持ち掛けてくれたお陰で、再起出来た………心の底から感謝してます」
照れたようにはにかみながら頭を下げた彼女に、今度は胃ではなく胸が痛んだ。
「………いえ……僕は感謝される事など、何一つしていませんから…」
胸を鋭利な何かで抉られるような感覚。
胸が痛くて、苦しくて…
どれだけ息を吸い込んでも、この苦しさは楽にならなくて
それなら、いっそ吐き出してしまえばいいんじゃないのか……と罪悪感から逃れたくなった。
「………あの、森川さん…」
「はい?」
うっかり何も知らない彼女に全てを話してしまいそうになって、慌てて「いえ……何でも…」と話を取り止めた。
ギリギリの所で保っていた俳優としてのプライドが俺の弱い心に歯止めをかけた。
企画を潰す訳にはいかない。
不思議そうな顔で俺を見てくる彼女を直視出来ない俺は、胸と胃の痛みに耐えるしかなかった。
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