売名恋愛

江上蒼羽

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実験(side 慧史)

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「それじゃあ、また後で」

『りょっ、了解です。じゃあ、また…』


緊張気味の上擦った声に吹き出しそうになりながら電話を切った。

ホンコンシューズのフトシさんの思惑通り、彼女は俺への意識を濃くしているようだ。

順調に事が運んでいる事にホッと胸を撫で下ろすと同時に嬉しくもある。

けどそれ以上に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

欲にまみれた俺なんか、彼女に好かれる資格なんてないってのに。


「……はぁ…」


小さく溜め息を吐き出した俺は、手早く身支度を済ませて家を出た。 

一躍有名人の仲間入りした顔を隠すように、やや俯き加減で歩みを進める。

向かう先は、俳優仲間の舞台が上演される小さな劇場。

今日はそこに彼女を呼び出した。

ちょっと試したいというか……確かめたい事があって。

これはホンコンシューズや彼等の番組関係者には内密の、俺自身の勝手な行動。

バレたらマズイ、リスクの高い実験だった。




一般客が入れないVIP席のソファに腰を据えて彼女の到着を待っていると、待ち合わせた相手が劇場のスタッフと共に現れた。


「こんにちは、貴重な休日に呼び出して申し訳ございません」

「あ、いえ」


風が巻き起こりそうな程、首を左右にブンブン振る彼女の目は赤く、鼻の下も擦ったように赤く腫れ上がっていた。

その理由を尋ねれば、俺がチョイ役で出演したドラマを観て涙したと恥ずかしそうに白状する。

思わず込み上げてきた笑いを必死に堪え、平静を装う。


「どうりでこんなに目が赤い訳だ……鼻の下も赤い……」


言いながら、あまり似合っていないだて眼鏡を下にずらして確かめ、すぐに戻した。

彼女は頬を赤らめながら固まっている。

どうしたらいいのか分からない………といった具合に。


「………森川さんは、凄く純粋な方ですよね」


間近で見る彼女の顔は、やはり良く見ても中程度。

でも、俺には物凄く可愛く思えるから不思議だ。


「その純粋さを羨ましく思います……」


吸い寄せられるように顔を近付けると、ゴクッ……と、喉が鳴る音がした。

ウブ過ぎる彼女は俺には眩しい。

その眩しさが俺の心の醜さ、汚なさを際立てるもんだから


ほんの少し泣きたくなった。
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