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実験②(side 慧史)
しおりを挟む舞台を観賞した後、彼女を連れて仲間の芹沢と最上の控え室へと向かった。
彼女を紹介した途端、いつもの調子で近付く芹沢。
馴れ馴れしく話し掛け、ベタベタ彼女に触れる様に苛立ちが芽生える。
芹沢は良い奴だ。
人懐っこい性格で、年代、同性異性問わず好かれるタイプ。
初対面の相手にもグイグイいける明るい芹沢の性格は、割りと人見知りするタイプの俺からしたら羨ましい限りだ。
人との距離が近くて誰とでもすぐに打ち解けられる芹沢に彼女もあっさり心を開き始めている。
俺には見せないような顔で笑ってみたり、俺と居る時より微妙に声のトーンが違ったり…
奥歯がギリッと音を立てた。
観賞した舞台の座長である鷹林さんからの誘いで渋々参加した打ち上げでも、彼女は芹沢と仲良さげに談笑していた。
俺が鷹林さんの元から離れられないでいるのを良い事に。
帰りのタクシーの中で彼女の口から飛び出すのは芹沢の話ばかり。
芹沢さんが、芹沢さんたら、芹沢さんは………そればかり。
しかも嬉しそうに生き生きとした表情で。
「あ、それで、芹沢さんたら、面白いんですよ!」
まだネタは尽きないのか、しつこく芹沢の名前を出す彼女にいい加減頭に来た。
「何でもこの前ーーー…」
「素良」
彼女の口から芹沢の名前が出る度、ムカついてムカついて、脳ミソが沸騰しそうになる。
………芹沢、芹沢うるさいんだよ…
気付いたら、体が勝手に動いていた。
芹沢の名ばかり口にする彼女を黙らせたかったから、つい……
強引に押し付けた唇から柔らかい感触が伝わる。
わざわざ危険を冒して彼女を連れ出したのは、芹沢を使って自分の気持ちを確認したかったから。
彼女に対して抱いている、罪悪感とはまた違った感情が一体何なのかを明確に知りたかった。
薄々分かっているけど、確証が欲しくて。
だから敢えて馴れ馴れしい芹沢に彼女を引き合わせてみたのだけど……
「ごめん………体が勝手に…」
自分のこの行動が全てを物語っていた。
キスなんて初めてじゃない。
仕事でだって何度か経験がある。
自分にとってそれ程特別な行為じゃないのに、異様なまでに高鳴る胸。
実験の結果は、やっぱり俺は彼女が好きなんだと答えが出た。
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