物語の始まりは…

江上蒼羽

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やたら俺の声だけが響いた後は、しんと静まり返る。

人の気配がないのかと思いきや、薄暗い図書室の中で一角だけ明るい箇所があった。

恐る恐る足を踏み入れる。


「………今は私しかいないからいいけど、普段は静かに入ってきてね」


図書室一番端の窓際に近いテーブルにいた人物は、俺の方を一切見ずにそう言った。

彼女の手に握られたシャーペンがノートの上を滑らかな動きで走っている。

俯いていて顔が分からないけど、この人が例の“まゆまゆ”なんだろうなと思った。


「あー……すんませーん」


おどけながら、心に欠片もない謝罪の言葉を口にする。


「黛先輩っすよね?俺、2年の清原です」


軽い自己紹介をして向かい側に座る。

と、ここで目の前の人物がゆっくりと顔を上げた。


「…………百田先生に頼ってきたら面倒見てやって欲しいとは言われたけど、まさかその日の内に来るとはね」


お、意外と可愛い……なんて感想を抱いている俺に、彼女は薄く笑みを浮かべながら言う。


「百田先生から出された課題、自分の力でやる気更々ないでしょ?」

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