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むっちゃんと不思議なクレヨン【6】
しおりを挟む強い風に飛ばされた、むっちゃんとりりは小さな街の中に居ました。
今まで行った場所とは違い、寒くも暑くもなく、明るく、あちこちにお花も咲いています。
お家や建物があり、むっちゃんが住んでいる所と良く似ています。
ところが、街の中は少し様子が変でした。
「お前、今俺の肩にわざとぶつかって来ただろ!」
「お前こそ、俺の足踏んだろ!」
「あなた、私の服引っ張ったでしょ?!」
「引っ張ってなんかないわよ!変な事言わないで!」
あらあら、大変。
街の至る所で、大人達が喧嘩をしているではありませんか。
取っ組み合いの掴み合い。
むっちゃんとりりは、見ていられません。
「けんかはダメだよ~」
「うるさい!子供はあっちに行ってろ!」
喧嘩を止めに入ったむっちゃんは、男の人に突き飛ばされて尻餅をついてしまいました。
「みゃう…」
りりが心配そうに駆け寄ります。
むっちゃんは、お尻の砂を払いながら立ち上がりました。
お尻がじんじん痛いのと悲しいのとで、円らなお目々に涙が溜まります。
でも、むっちゃんは泣きません。
もう5歳だから。
小さなお手々で涙を拭ったむっちゃんは、木の影に隠れて、大人達の喧嘩が終わるのを待ちました。
じっと、じぃっと、待ちました。
けれども、大人達の喧嘩は終わらないまま。
「お前が悪いんだ!」
「何言ってんだ!お前の方こそ悪い!」
「私は悪くないわ!悪いのはあなたよ!」
「それはこっちの台詞よ!」
ついには、夜になってしまいました。
遠くのお空に、三日月お月様が浮かんでいます。
「どうすればいいのかなぁ…」
「みゃうぅ…」
いつまで経っても終わらない喧嘩をどうにかして止めたいむっちゃん。
そんなむっちゃんに心配そうに寄り添うりり。
ポッケの中のクレヨン達も、どうすればいいのか作戦会議をしているようです。
うーんと、うーんと考えて、むっちゃんは「……よぉ~し」と、ポッケに手を入れました。
「みんなでケンカをとめようね」
「むっちゃん、どうするの?むっちゃん?」
クレヨン達は、むっちゃんが何を始めるのか、全く見当がつきません。
むっちゃんは、ポッケに入っていた全部のクレヨンを使って、ぐるぐるぐる~…の、さらさらさら~……と、大きな大きな絵を描きました。
何やら「ひゅうぅ~…どぉ~ん!!」と、声を出しながら。
するとどうでしょう。
「なっ、何だ、あれは……」
「何だ?!」
さっきまで喧嘩をしていた街の人達が喧嘩を止めて、一斉にお空を見上げました。
むっちゃんが全部のクレヨンを使って描いたのは、打ち上げ花火でした。
お空一面を埋め尽くす、大輪の花は、それはそれは綺麗で……
「キレイね……」
「本当に…」
大人達が思わず釘付けになってしまう程。
むっちゃんとりりが大人達と一緒に花火を見ていると、ふわりと優しい風が吹きました。
風は、むっちゃんとりりをお空の上まで運びます。
「きれいだね、りり」
「にゃおん」
むっちゃんとりりは、特等席で花火を見ます。
眺めは最高です。
空から花火が消える頃、街の至る所で、大人達が頭を下げ合い始めました。
「さっきはすまなかったね」
「いやいや、こちらこそ申し訳ない」
「ごめんなさい、大人げなかったわ」
「いいのよ。こちらこそごめんなさい」
むっちゃんとりりは、三日月お月様のベンチの上からその光景を見下ろしています。
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