9 / 37
side:妙香―6
しおりを挟むマダムが常務という肩書きだと知り、道理で……と妙に納得させられた。
見た感じの雰囲気からして、凄いやり手そうな気がする。
男性が「それから……」と、重そうに口を開いた。
「どうやら工期が延びそうで……」
「あらやだ、そうなの?」
「はい………そうなるとウチの方の施工も遅れる可能性もあって…」
「んまっ、困るわよ、そんなの」
そんなやり取りを傍観していると、浅倉さんという男性と目が合った。
会釈する彼に合わせて、私も軽く頭を下げる。
やや癖のある黒髪に、日に焼けてこんがりとした肌。
目は大きくもなく小さくもなく、鼻はどちらかと言えば高い方か。
特にこれといった大きな特徴はなく、どこにでも居る普通の男性という印象を受けた。
向こうからすれば、私はどこにでも居る普通のオバサンになるのだろうけれど。
「まったく……後で内田建設に文句言ってやるわ………そうそう浅倉くん、こちら新しく入った水川さん。明日から私の補佐として働いて貰うの」
唐突にマダムが私を紹介し出した。
すかさず「水川です」と名乗った私に、男性も「浅倉です」と名乗る。
「仲良くしてあげて。また皆が揃った時に改めて紹介するから」
浅倉さんは静かに頷き、素っ気なく「現場に戻ります」とだけ言ってさっさと背を向けた。
「ごめんなさいねぇ、愛想ないコなの」
申し訳なさそうに眉を下げるマダムに「いえ…」と返す。
逆に現場に戻らなければならない所を引き留めてしまって悪かったような気がする。
「それじゃ水川さん、また明日」
「はい、失礼します」
足取り軽く歩き始める。
多少の不安はあるものの、取り敢えず進んだ一歩が嬉しくて……
その日は、自然と出る鼻唄を止められなかった。
採用になった事を夫に報せると、彼は苦笑混じりに「良かったね」と言った。
その一言に“本当に出来るの?”というニュアンスが含まれているように思えて素直に喜べない。
「まぁ、無理だったら辞めなよ?会社に迷惑になるだけだし、体を壊してからじゃ遅いからね」
「うん………そうだね」
「それに……」と彼は続ける。
「家に居てくれた方が俺は安心だから」
「………」
反対はしないと言っていたのに、本心では家を守る事を望んでいるらしい夫。
矛盾に仄かな憤りを感じながらも、黙ってやり過ごすしか私には出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる