13 / 37
side:透也―7
しおりを挟む捲し立てるように言った台詞を聞いて、水川さんは困ったような顔をした。
それから「………そうなんですね…」と、悲しげに呟いた。
「悪い事は言わないから、早く逃げた方がいいと思いますよ。この世の中、働き口なんていくらでもあるんだから」
「…………」
水川さんは少し俯き、考え込む素振りを見せてからすぐに顔を上げる。
「お気遣いありがとうございます」
微笑みながら礼を述べた彼女は、「だけど…」と続ける。
「折角採用して貰えたので、常務の恩に報いる為に頑張るつもりです」
彼女の優等生な返答にちょっとした不快感を覚えた。
この会社じゃ、身内以外の人間は良いようにこき使われるだけだ。
それを彼女はこれから知っていく事になる。
「それに、皆さんの役に立っているかは分かりませんが、働けていい気晴らしになってます」
「………気晴らしねぇ…」
「はい…………家に居ても悶々とするだけだから…」
堂々と言っていた割りに、最後の部分はやけに声が小さかった。
「ん、まぁ………頑張って下さい」
心にもない労いの言葉を描け、事務所を出た。
何の気晴らしかは知らないけど、軽い気持ちで彼女は働いてる訳だ。
一家を背負う男の責任の重さや覚悟なんてもの、きっと彼女とは無縁なのだろう。
死にもの狂いで働いてるこっちにしては、気晴らしに働いてるなんて腹が立つフレーズだ。
「……ま、主婦はお気楽でいいわな」
これが正直な感想。
トラックに乗り込み、エンジンをかけた。
憂さを晴らすように数回アクセルを踏んで空ぶかしさせてから、車を発進させる。
専務達の現場までは片道10分ちょい。
「アットホームな職場って………笑えるわ」
独り言を言いながらも、そんな会社に飼われている状態の自分を情けなく思えて、気分が落ち込む。
周りに何もない、田んぼだらけの農道をアクセスほぼ全開で突っ切った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる