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side:妙香―8
しおりを挟む「何でしょうか?」
「自分で確認して頂戴」
言われるがままに封筒を受け取り、中身を確認する。
と、驚きのあまり言葉を失った。
中に入っていたのは、一万円札が数枚。
「こ、これは………?」
恐る恐る確認した私に、常務が品のある笑みを携えて言う。
「差し上げるわ」
「えっ?!」
一瞬我が耳を疑った。
「はっきり言わせて頂くと、そういった普段着じゃなくて、もう少しきちんとした身なりをして頂きたいの。ほら、ウチは色んな人間が出入りするでしょう?田中建設とか原田組の社長さんや専務さんとか」
「えぇ、まぁ……」
「事務員がみすぼらしい姿をしていたらウチとしても恥ずかしいのよ。だから、そのお金でそれなりの服を用意なさって。あとそのみっともないヘアスタイルもどうにかしてきて頂戴」
一応自分の手持ちの中でも良い服を着ているつもりだ。
髪だってきちんと整えてる………つもり。
それをはっきりと「みすぼらしい」と言われてしまったらショックは大きい。
「今日はもう退勤していいから、すぐに服を買いに行きなさい。美容院は私の行き付けを紹介してあげるわ」
「は、はい……ありがとうございます」
落ち込みながら返事をして、封筒をバッグに忍ばせた。
それからすぐに帰り支度をして、タイムカードを打刻する。
「スーツなんて堅苦しくなくていいけど、明日からはきちんとした服を着てきて頂戴ね」
「はい……」
スーツ程じゃなく、だからといってカジュアルでは駄目。
それなりのきちんとした服装を……と言われたら、かなり悩む。
仕事帰りに常務御用達の美容院に行って、担当スタッフから一番に言われたのが…
「………髪、随分傷んでますね…」
だった。
「あはは………すみません。あまり構ってないもので…」
苦笑混じりに返すと、スタッフも曖昧に笑って「そうですか…」と。
「毛先もだいぶ傷んでるし、トップのボリュームを出す為に思い切ってボブにするのは如何でしょう?」
「お任せします……」
いつもは早くて安いが売りの1000円カットの店を利用している私は、美容院に来る事自体が数年振り。
変に緊張してしまい、手のひらと脇の下に嫌な汗が滲んだ。
私よりずっと歳上なのに、私よりもずっと綺麗でお洒落な美容師の手で美しく………とはいかないものの、それなりに小綺麗になった。
にも拘わらず、夫は何も触れて来ない。
「………ねぇ、ヘアスタイル変えてみたんだ……色もちょっと明るくしたの………どうかな?」
たまりかねて自ら切り出してみたけど、夫は一瞥して興味無さげに「いいんじゃない」と一言のみ。
子供達は「ママきれい」と褒めてくれたのに。
お世辞でもいいから“綺麗になった”と褒めて欲しい。
「そんな事より……部屋の隅、ホコリ溜まってるよ」
「え……」
夫が指差す箇所に薄く溜まったホコリを見て、小さく溜め息を吐いた。
「働く事は許したけど、家事を手抜きしていいと許可した覚えはないよ」
「…………」
この夫に少しでも期待した私が愚かだった。
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