オセロな関係

江上蒼羽

文字の大きさ
23 / 31

《21》

しおりを挟む



「おっと来客中だったか……失礼失礼」


手刀を切りながら入って来たのは、頭に鉢巻を巻いた法被姿の親跡社長。

先日対面した時とは随分と印象が違う。

親跡さんの表情が僅かに引き攣る。


「……社長、以前から何度もお願いしている筈ですが、ノックをお願いします。お客様に大変失礼ですので」

「ははは、硬い事を抜かすな旺亮。愛嬌愛嬌」


社長はニコニコ笑いながら親跡さんの肩を叩いた。




親跡さんは眉間を押さえて「ふー…」と息を吐く。


「それで、何の御用ですか?」

「ちょっと探し物だよ。この辺で私のスマホを見なかったか?」

「それなら先程このソファーの隅で見付けたので、社長の机の上に…」

「そうかそうか、見付けてくれたか。助かった」


朗らかに笑う社長と目が合う。


「歌代製菓の朝比奈です。先日はありがとうございました」


私が挨拶をすると、社長も軽く頭を下げる。


「あぁ、この間のお嬢さんか。わざわざ悪いね」

「いえ、とても立派な酒蔵ですね。圧倒されました」

「ははは、若いお嬢さんに褒められると嬉しいね。ありがとう。もし良ければ施設の中を色々と見てみるかい?」


思いがけない提案に「よろしいんですか?」と食い気味に問えば、社長は嬉しそうに大きく頷く。


「旺亮に案内して貰うといい。な、旺亮」


社長のフリに、親跡さんは「また勝手に…」と苦い顔でぼやく。


「専務がうるさいじゃないですか」


親跡さんが苦々しげに言うと、社長は「おっと……そうだった」と苦笑する。


「今時女人禁制を掲げてる頭の硬い男だからな。もっと時代の変化に合わせて柔軟にならないといかんのに…」


その話を聞いて、先程の男性を思い出す。

もしかして……いや、もしかしなくとも先程の男性が専務だったのか?



『この先は女人禁制区域となっているので、早々にご移動願いたい』



威嚇するかのような厳しい表情と口調を思い出し、酒蔵見学は厳しそうか……と、期待に膨らんだ胸が萎んでいく。


「邪魔したね。大事な話の途中に悪かったね」


社長がドアを閉めるとすぐに親跡さんが頭を下げる。


「申し訳ございません、どうにもウチの社長は間が悪く……」

「あ、いえ、朗らかで温かみを感じる方ですね」


私が褒めたのが嬉しかったのか、親跡さんが優しく目を細めた。







「本日はお忙しい中、時間を作って頂きありがとうございました。今度は夏川と共に出直します」


事務所の入り口で頭を下げると、親跡さんも同じように頭を下げる。


「とんでもない。わざわざ御足労頂いたのに、難癖ばかりつけてしまってすみません」

「いえいえ。妥協せず、お互いが納得いくものを作っていきましょう」


私は「ではまた」と踵を返す。

すると、親跡さんが「少しお待ち下さい」と引き止めてくる。

不思議に思っていると、彼は部屋の奥の方から何やら紙袋を持ってきた。


「自分なりにチョコレートに合いそうな物をいくつかピックアップしました。会社の方々と試飲して頂ければ……と思いまして」


手渡された紙袋は、ずっしりと重い。


「酒が飲めないなりに香りで選んでみました。家族や友人に飲ませて意見を貰ったりもして……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話

一ノ瀬ジェニファー
恋愛
ド田舎の道の駅で、持ち歌もグッズもないまま細々と活動を続けるご当地アイドル・桜あかり(16)。 夢は大きく武道館!……と言いたいところだけど、今はレジ打ちもこなす「なんでもできるマルチな地底アイドル」。 そんな彼女に、ある日転機が訪れる。 地元の道の駅がテレビで紹介され、あかりの笑顔が全国放送で流れたのだ。 その映像を東京で目にしたのが、幸村 静(ゆきむら しずか)。 見た目は完璧、物腰も柔らか──けれどその正体は、裏の世界の男だった。 「会いたいから」というシンプルすぎる理由で、あかりに会いに片道10時間を車で会いに来た。 謎のヲタク知識もを引っ提げて、推し活(という名の執着)が始まる……! これは、アイドルを夢見る少女と、厄介オタクなヤクザの、ピュアで不穏でちょっと笑える物語。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

銀河の郵便局 (GALAXY POST)

108
恋愛
かつて新進気鋭の作家として活動していた佐伯紬(さえき・つむぎ)は、三年前のあの日から、一文字も書けなくなっていた。 天文学者だった婚約者・成瀬航(なるせ・わたる)の不慮の死。 「行かないで」と言えなかった後悔。 解けない数式のように、紬の時間は止まったままだった。 三回忌の夜、遺品の万年筆から漂った「インクの香り」に誘われ、紬は街の境界線に佇む古い洋館「銀河郵便局」へと迷い込む。 そこは、この世で伝えられなかった想いが「光」となって集まる場所。 「彼の魂は、あなたへの『書き損じた言葉』を抱えたまま、銀河の淵で迷子になっている」 銀髪の郵便局長から告げられた衝撃の事実。 航を救う唯一の方法は、宇宙に散らばった彼の記憶の断片を、紬が「代筆者」として再び綴ること。 紬は、親友のカメラマン・陽一や、冷徹な執行官・九条、そして自分と同じように過去に囚われた詩人・摩耶との出会いを通じ、航が隠していた「本当の想い」に触れていく。 なぜ彼は、白紙の手紙を遺したのか? なぜ彼は、あの時ハンドルを切ったのか? ペン先が踊る夜更け、静かなリズムに合わせて紡がれる真実。 やがて、点と点が繋がり、一つの壮大な星座(物語)が浮かび上がる時、世界は圧倒的な「祝福」に塗り潰される――。

卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。

雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。 「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」 琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。 白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。 清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

『愛が切なくて』- すれ違うほど哀しくて  

設楽理沙
恋愛
砂央里と斎藤、こじれてしまった糸(すれ違い)がほどけていく様子を描いています。 ◆都合上、[言う、云う]混合しています。うっかりミスではありません。   ご了承ください。 斉藤准一 税理士事務所勤務35才 斎藤紀子    娘 7才  毒妻:  斉藤淳子  専業主婦   33才 金遣いが荒い 高橋砂央里  会社員    27才    山本隆行  オートバックス社員 25才    西野秀行   薬剤師   22才  岡田とま子  主婦    54才   深田睦子  見合い相手  22才 ――――――――――――――――――――――― ❧イラストはAI生成画像自作 2025.3.3 再☑済み😇

処理中です...