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《20》
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通りすがりの男性に示された事務所だという建物に着くと、親跡さんが私を優しく出迎えてくれた。
「迷いませんでしたか?」
奥の応接室へと通される。
「実は迷ってしまいました」
苦笑いを浮かべながら正直に打ち明けると、親跡さんは「ははっ」と声を挙げた。
「歴史があると言えば聞こえが良いですが、古い建物が猫の額程の敷地内に所狭しと並んでいては戸惑いますよね」
「いえ、そんな……とても立派な酒蔵を前に思わず息を飲みました」
親跡さんは「ありがとうございます」と、柔らかい笑顔を向ける。
「どうぞ、こちらに」
「ありがとうございます………わっ?!」
高級そうな革のソファーに座るよう促され、腰を降ろした途端、思いがけず座面が深く沈み、大股開きの無様な体勢に。
うっかり膝丈スカートなんて穿いて来てしまった為、もしかしたら正面に腰掛けた親跡さんにスカートの中が見えてしまったかもしれない。
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫です………見苦しい所をお見せしてすみません…」
一瞬だったから見られていないと信じたい。
そして、親跡さんの顔が赤らんでいたのも気のせいだと思いたい。
気を取り直して……とばかりに、持ってきた資料をテーブルに広げた。
「本日は夏川の都合が悪く、同伴出来ず申し訳ありません」
「いえ、夏川さんから事前に連絡を頂いていたので日取りを変更出来れば良かったのですが、生憎今日しか時間が取れなくて……こちらの都合に合わせて頂き、ありがとうございます」
「とんでもございません。こちら夏川が作成した商品案です」
「拝見させて頂きます」
夏川さんが作成した資料を親跡さんに手渡すと、彼はそれを食い入るように眺める。
その間、暫しの沈黙が室内を支配する。
数枚に渡る、夏川さん渾身の資料を眺める親跡さんの眼差しは真剣。
当然といえば当然なのだけれど、普段とは違う目付きの鋭さに息を飲まずにはいられず……
少し怖いな……との感想を抱いてしまった。
ゆっくりと紙を捲る音が痛い程耳に響く。
緊張で胸をドキドキ言わせながら、親跡さんが口を開くのをじっと待った。
「…………なるほど」
低い声で呟いた親跡さんに「いかがでしょうか?」と伺いたてると、彼は柔らかく微笑んでみせた。
「よく纏めてあると思います。ウチは昔気質の年寄りが多いのですが、彼等にも分かり易いかと」
一先ずホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、親跡さんの「ですが」に背筋が伸びる。
「コスト面が少し気になります」
正直な所、私もそこが引っ掛かるだろうなと不安に思っていた。
「ウチの商品は価格帯からして、1製品当たりのこの予算では些か厳しい……いや、厳し過ぎる」
「……やはりそう思われますか」
「いや、出来る事なら低予算で良い物を……といきたい所なのですが、昨今の原材料価格の高騰を考慮すると……」
険しい表情の親跡さんを前にして、ここは出直すべきだと判断する。
「申し訳ございません。再度熟考を重ねて出直します」
夏川さんの資料を回収しようとした時、応接室のドアが勢い良く開いた。
私と親跡さんは同時に入り口の方を見た。
「迷いませんでしたか?」
奥の応接室へと通される。
「実は迷ってしまいました」
苦笑いを浮かべながら正直に打ち明けると、親跡さんは「ははっ」と声を挙げた。
「歴史があると言えば聞こえが良いですが、古い建物が猫の額程の敷地内に所狭しと並んでいては戸惑いますよね」
「いえ、そんな……とても立派な酒蔵を前に思わず息を飲みました」
親跡さんは「ありがとうございます」と、柔らかい笑顔を向ける。
「どうぞ、こちらに」
「ありがとうございます………わっ?!」
高級そうな革のソファーに座るよう促され、腰を降ろした途端、思いがけず座面が深く沈み、大股開きの無様な体勢に。
うっかり膝丈スカートなんて穿いて来てしまった為、もしかしたら正面に腰掛けた親跡さんにスカートの中が見えてしまったかもしれない。
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫です………見苦しい所をお見せしてすみません…」
一瞬だったから見られていないと信じたい。
そして、親跡さんの顔が赤らんでいたのも気のせいだと思いたい。
気を取り直して……とばかりに、持ってきた資料をテーブルに広げた。
「本日は夏川の都合が悪く、同伴出来ず申し訳ありません」
「いえ、夏川さんから事前に連絡を頂いていたので日取りを変更出来れば良かったのですが、生憎今日しか時間が取れなくて……こちらの都合に合わせて頂き、ありがとうございます」
「とんでもございません。こちら夏川が作成した商品案です」
「拝見させて頂きます」
夏川さんが作成した資料を親跡さんに手渡すと、彼はそれを食い入るように眺める。
その間、暫しの沈黙が室内を支配する。
数枚に渡る、夏川さん渾身の資料を眺める親跡さんの眼差しは真剣。
当然といえば当然なのだけれど、普段とは違う目付きの鋭さに息を飲まずにはいられず……
少し怖いな……との感想を抱いてしまった。
ゆっくりと紙を捲る音が痛い程耳に響く。
緊張で胸をドキドキ言わせながら、親跡さんが口を開くのをじっと待った。
「…………なるほど」
低い声で呟いた親跡さんに「いかがでしょうか?」と伺いたてると、彼は柔らかく微笑んでみせた。
「よく纏めてあると思います。ウチは昔気質の年寄りが多いのですが、彼等にも分かり易いかと」
一先ずホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、親跡さんの「ですが」に背筋が伸びる。
「コスト面が少し気になります」
正直な所、私もそこが引っ掛かるだろうなと不安に思っていた。
「ウチの商品は価格帯からして、1製品当たりのこの予算では些か厳しい……いや、厳し過ぎる」
「……やはりそう思われますか」
「いや、出来る事なら低予算で良い物を……といきたい所なのですが、昨今の原材料価格の高騰を考慮すると……」
険しい表情の親跡さんを前にして、ここは出直すべきだと判断する。
「申し訳ございません。再度熟考を重ねて出直します」
夏川さんの資料を回収しようとした時、応接室のドアが勢い良く開いた。
私と親跡さんは同時に入り口の方を見た。
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