月と太陽のPersona

月咲やまな

文字の大きさ
10 / 37
本編

【第10話】本当の望み⑥

しおりを挟む
「まあまあ、芙弓がそう言うなら止めておこう。さて、そろそろ本題といこうかな」
「本題?——ぎゃ!!」
 言葉の意味を考え、きょとん顔で立っていると、急に腕を引っ張られて私の身体がベットの上へと倒れこんでしまった。ふわふわの羽毛布団がお風呂でふやけた肌にとても気持ちいいのだが、今はそれどころじゃない。
「急に引っ張るなぁ!」
 上半身を起こし、ロイさんに向かい文句を口にする。だが私は、その口を即座に閉じて黙り、への字口で眉間にシワをよせた。目の前に居るロイさんの表情が暗い室内の照明効果もあってか、あまりにも淫靡過ぎたからだ。
 白いワイシャツのボタンはほとんど止めておらず、はだけて見える胸元はとても筋肉質で、細身の雰囲気からは想像出来ぬラインに嫌でもゾクッとしてしまう。
 彼の父親がアメリカ人なせいか肌は透き通るように白く、母親譲りのキメの細かい肌質には、軽い嫉妬心まで感じた。エーゲ海の様な青い瞳でじっとこちらを見詰めながら、言葉を失っている私を徐々に自分の方へ引っ張っていく。
 少しづつ近くなっていく、二人の距離。
 この部屋のメイン照明がついていたらきっと私の顔は林檎程に赤くなっていて、ロイさんが指を差して笑うレベルになっているだろう。
「え…… あの…… 」
 このままいくと、ロイさんの胸の中に閉じ込められてしまう。そう思った私は、彼から視線を慌てて逸らし、短い声を発した。
「何?」
 ロイさんの低い声が、耳の近くで響く。生では聴き慣れない声に身体が震えた。
「本題って?」
 この雰囲気のせいか、小さな声しか出てこない。ロイさんが二十年ぶりにこんな場所にまでわざわざ私に会いに来たのは人形師である私に彼の妹・雪乃の人形を造らせる為のはずだ。その為に彼はここに居ると、私の傍を離れないと言っていたのはたった数時間前の事なので、人形造り以外の事には多少疎い私でも流石にそれは理解しているし忘れてもいない。

 だがそれと、今のこの状況がどういう繋がりがあってこうなっているってんだ!?
 この状況になって改めて“本題”という言葉を使うって事は、本当の目的は違うって事なの?

「芙弓は、何だと思う?」
 そう言うと同時に彼はグイッと強く私の肩を抱き、完全にロイさんの胸の中に自分の身体が収まってしまった。
「うぎゃあああああっ!」
 恥ずかしさに震えながら無意識にあがる、品のない悲鳴。
 それなのに彼は私の事を笑い飛ばす事無く、濡れる髪をそっと撫でてきた。
「ふふ…… 可愛いね。あんまり抵抗していないのは、湯上りだからかな?」
 ロイさんの甘く囁く声が脳裏に響く。
「ひがっ!」
 違うと言おうとして舌を咬んだ。それも、思いっ切り。
「ち、違う!私はただ本題ってやつを知りたいだけで——」
「うん、分かってるよ。大丈夫」
 ロイさんの優しい声が耳の奥で甘く溶ける。私の濡れる髪を少し掴み、彼が軽く口付けてきた。
「僕はね——」
 私の体を急に胸から引き剥がし、彼が私をベットへドンッと勢いよく放り投げたかと思うと、私の太股の上に跨り、両腕を大きな白い手で押さえてきた。
 額をそっと重ね、二人間に落ちる沈黙が、私の心音を加速させる。

 こ、この大人な雰囲気はいったい何!?

 気恥ずかしさに叫びたくても叫べず、抵抗したくても身体が動かない。そんな私の姿を見て、フッとロイさんが微笑む。優しい笑顔に頬が緩みそうになった。
 だが数十秒後に彼の口から放たれたのは、とても冷たい言葉だった。
「芙弓に嫌われに来たんだよ。それも、心底…… ね」
「なにを、言って…… 」
 状況と不釣合いの言葉に、私は頭が真っ白になってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました

春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。 エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」 二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。

処理中です...