インキュバスのお気に入り

月咲やまな

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○番外編・2○ 先生のお気に入り【八島莉緒エピソード】

家庭科教師だって恋をしたい・最終話(八島莉央・談)

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「ひ、酷い…… 可愛い顔して、八島さんがこんなテクニシャンだったなんて…… 」
 狭いシングルベットに二人で横になり、うつ伏せ状態の狸小路さんが私の枕に顔を沈めて泣いている。生娘じゃあるまいに、まるで襲われた後のような反応をされ困りつつも、それすら可愛い奴めと思える自分はもう終わってるかもしれない。

 しかもテクニシャンって…… 。いやまぁ、ちょっとお口では色々しちゃいましたけど?でもそんなの、アナタをその気にさせるためだけに最初にちょーっとしたくらいで、後はご自分から色々なさっていましたよね?無理矢理人の口に指を入れて開かせて、達したばかりのモノを舐めさせてきたりとかしたの、そっちじゃないっすか。必死に全身を貪って、「もうキツイ」って言っても朝日が昇るまでいたしたの、そちらですよ?

 ——と色々思う所がありつつ、それらは口にしないまま、私は視線だけを窓の方へやった。
 遮光効果の無いカーテンの向こうはもう明るくなっており、車などの騒音が微かに聞こえる。御近所さんからは朝食を作る美味しそうな匂いが僅かに漂ってきて、私の鼻腔をくすぐった。

「発情期でもない僕をこんなにするなんて!」

 被害者感情丸出しの発言は流石に心外だ。
「五回も六回も出しちゃってたのに、ソレ言っちゃうのかい?」
 事後そのままの状態ないので、すごく眠いわ、全身ベタベタするわ、腹の中は色々な理由で重たいわで、文句を言いたいのはこっちの方だ。だがしかし、こちらが先に仕掛けたので言われてもまぁ仕方ないかとも思う。
「恥ずかしい事言わないで下さいぃぃ」
 そう言って、狸小路さんはより一層枕の中へ深く沈んだ。
「そんな事言ってぇ、狸小路さんだって、途中からめちゃくちゃノリノリだったのに。雄の顔してて、ビックリしちゃったよ。全部中出しだったし、子ども出来ちゃうかもだね」

「子ども…… 子ども欲しいです!沢山産んでくださいね。僕、ちゃんと面倒見ますよ」

 枕から勢いよく顔を上げた狸小路さんは、とても嬉しそうだ。種を残したいという思いは、化け狸であろうとも動物的本能として強いのだろうか。

 じっと私の顔を見つめてきたかと思うと、ペタンとベットに座り、私のお腹を嬉しそうな笑みを浮かべながらさすってくる。お互いに全裸のままなのでかなり恥ずかしいのだが、あまりに嬉しそうに撫でてくるので止めづらいし逃げ難い。
「…… 流石に、数時間前もらったものは、すぐに子どもに化けたりはしないはずですよ?」
 私の言葉で、ハッと我に返ったのか、狸小路さんが手を引っ込めた。
「す、すみません。子どもと聞き、つい…… 。ずっと自分の群れが欲しかったので、楽しみだなぁとか色々考えちゃって」
 照れ臭そうに鼻先を指でかき、尻尾がぱふんぱふんと布団を叩く。そういえば、狸はイヌ科だっけか。そりゃ尻尾に感情出ますよねぇ。

 世の中には子どもができたかもと言えば逃げる奴だっているというのに、こうも嬉しそうな反応をしてもらえると正直ホッとする。華先生や瀬田先生のように婚活をしていたわけじゃ無いが、結婚とかを視野に入れて交際をしてもいいかもしれない。いや…… むしろするべきだよねぇ、大量に中出しされまくってるのだからデキてるでしょうし。
 首の後ろを歯形がつくくらいに噛まれたり、脇や足裏など、長い時間舌で散々舐めまわされたりもしたのだ…… もう他の人と付き合うとかが、そもそも無理です。肉布団好きになった以外にも、彼のせいでこのまま変な性癖に目覚めさせられてしまいそうだ。

「あ、お腹とか減っていませんか?簡単なもので良かったら、何か作りますよ」
 空腹なので嬉しい提案だったが、今はとにかく眠い。
 なので私は、ちょいちょいっと手招きして、狸小路さんにこちらへもっと近寄るよう指示をした。
「…… ?どうかしましたか?」
 疑う事なく顔を近づけてきた彼の首に腕を回し、「うわ!」と驚く声と共に狸小路さんを布団の中に引きずり込む。
「今はちょっと寝ようか。仮眠して、お風呂入って…… ご飯はそれからで」
 褐色の額に額をコツンと重ねると、彼は無言で頷き、私の首に下に腕を差し入れてきた。どうやら腕枕をしてくれるみたいだ。普段の狸小路さんの腕とは違って筋肉質だから少し硬いけど、行為自体が嬉しいので甘えておくことにする。
 ふわりと香る彼の匂いが心地いい。抱かれ過ぎて疲れているせいもあってか、私はすとんと眠りの中へと落ちていった。


 この時見た夢は、私がカミーリャさんに拾われた時のものだった。
 懐かしい夢を見たおかげで、あの時先代の理事長が腕に抱えていた太った動物が、実は狸小路さんだったのだと気が付いたのは、言うまでも無い。
 私の人生の変える二人に同時に巡り逢っていたとか、「私は運が悪い」と嘆いていた頃の自分が知ったら、卒倒しそうだなぁ。


【終わり】
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