インキュバスのお気に入り

月咲やまな

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○番外編・2○ 先生のお気に入り【八島莉緒エピソード】

何年経ってもお気に入り(八島莉央・談)←【NEW】

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 グチュグチュと水音が部屋に響き、耳の奥がくすぐったい。久しぶりに聞くが…… 慣れない、恥ずかしい、ホント——しつっこいってば!

 先程から私は、新居の寝室に置かれたキングサイズのベットの上で透さんに後ろから羽交い締めにされている。体格差とは恐ろしい…… すっかりほっそりと痩せて、つまらない事にただのイケメンと化した透さんだが、身長は高いままなので片腕だけで私を逃がさない。

「今日で妊娠してから十六週目ですから安定期に入ったんですもんね。定期検診で先生からの許可も出ましたし、やっと莉央さんに触る事が出来て嬉しいです」

 とっても明るく可愛い顔で微笑みながらも、彼の手の動きが止まらない。長い指先が陰部を撫でるたびにトロリと蜜が流れだし、白いシーツを濡らしていく。

 長年の片想いを実らせたのだ。私も夫婦の触れ合いは嬉しいと思うが、何もこういう触れ合いじゃなくってもいいのでは?

 ただ二人でソファーにでも座り、後ろから抱きしめるとかだけでも良いと思うのだが。

 君、今は発情期じゃ無いんだよね?

 最初の時に『僕は発情期じゃないのに莉央さんに喰われた!』的反応をしていた者の行動じゃないでしょ、コレは。

 気持ちいい事が癖になっていてやめられなくなったのだとしたら、君は今後、狸ではなくて猿を名乗るべきだ。

「こうやって夫婦仲良くした方が、ストレスが緩和されて安産になるんですよね?僕、沢山調べました!激しくしては子供をびっくりさせてしまうでしょうから、ゆっくり丁寧に…… っと」
「んー…… 。人によるよぉ、安定期だろうが嫌な人もいるし、悪阻が落ち着かない人も多いから、そういう情報はあまりアテにし過ぎない方が…… 」

 どうしてそんな事だけは調べるかなぁ。勉強熱心なのは結構なのだが、もっと違う知識を身に付けるべきだよ、狸君は。

「そうなんですか?…… ちなみに、莉央さんはどうなんですか?気持ちいいです?」
 頰を染めつつ、透さんが私の顔を後ろから覗き込む。
 答えは知ってるけどねーとでも言いたげに彼の口元が笑っていて腹が立つ。大正解なのだが、バレていると思うと素直になれない。
 ふるふると首を緩く横に振ると、残念そうに眉を寄せ、指を二本に増やされてしまった。長い中指と薬指とが奥を目指して挿入されていく。「ひうんっ!」と変な声をあげ、腕を押して彼から逃げようとしたが、やっぱり無理だった。

「…… あぁ、ココに僕の子が居るんですね、ふふっ」
 時間をかけて丹念に弄るうち、興奮してきたのか、透さんの指の動きが無意識のまま早くなる。
「入れたいけど、莉央さんは嫌ですか?…… 先っちょだけとか、ダメ?」
 いやいや、絶対に全部入れるでしょ、君は理性が飛びやすいし。そう思ってまた首を横に振ると、透さんがわかりやすく不貞腐れた。

「さっきからダメダメばっかりですよ、莉央さん」

 まったくもう、と呟きながら透さんが私の耳をかぷりと噛む。彼をよく見ると、獣耳と大きな尻尾が隠せずに飛び出していた。
 うわ、こうなってはもう無理だ。私が何を言おうが聞いてなどくれない。体調はすこぶるいいが、優しい彼ならば気遣いつつの行為となるだろうから、焦らしプレイになるのが目見にえている。それにより、余計に辛い思いを私がする事になるなど、きっと透さんは思い付きもしないんだろうなぁ…… 。


       ◇


「——ヤバイ、また子供できてる…… 」
 市販の検査薬の結果を見て、私はため息を吐きつつ天井を仰ぎ見た。
 足元には去年生まれた数匹の子狸達が脚をよじ登ろうとしつつも落ちたり、互いの尻尾を引っ張って邪魔したりしている。
 ソファーの上では人の姿をした二年前に生まれた子達が、尻尾と獣耳とを出した状態で座りながら本を読んでいる。膝には弟を抱えてくれており、面倒見の良さに感謝したい。


 去年私は、透さんとの子供達を五匹。二年前には三匹の化け狸を出産した。
 彼等は人間と妖怪のハーフのはずなのに、私には生粋の化け狸にしか感じられない。能力も見た目も全て。
 人間では無かろうとも、どの子も可愛い…… すごく可愛いのだが、産休を取らねばならぬ事を考えると憂鬱だ。

「あ、陽性ですね。次は何匹生まれてくるかなー」

 ひょこっと背後から顔を出し、私の肩に顎をのせながら、透さんが手元を覗く。声が弾み、とっても嬉しそうだ。
「おとうと?おとうとー?」
 そう言いながら足元を駆け回る子狸を一匹抱き上げ、透さんが頬擦りをする。「いやー」と叫ばれても尚止めず、嫌がられても続けている。
「あぁ、そうかもだね。でも妹もいるかもしれないよ?元気ならどちらでも嬉しいですねぇ。沢山たくさーん遊んであげて下さいね」
「わかったぁ。でも、父さんのほっぺもういらなーい」
 ジタバタと透さんの腕の中で暴れ、逃げようとする様すらも可愛いが、現時点で八匹も居るのに…… コレが更に、増えるのかぁ。
「ハッキリ言いますねぇ。そんな事言われたら、もっとしちゃうぞ?」
「ぎゃー!」
 ぐりぐりと頰を押し付け合う二人は、何だかんだ言いながらも楽しそうだ。
 小さい子が沢山居るのは正直かなり大変だけれど、家族っていいなぁ…… 。


       ◇


「あぁ…… また産休願い出さないといけないとか、流石に言い辛い」
 ベッドでゴロンと転がり、愚痴をこぼす。
 子供も達を寝かしつけてきてくれた透さんが、苦笑を浮かべながら横たわる私に布団をかけてくれた。
「まぁまぁ、理事長もこちらの事情はわかっているんですから、笑いながら『おめでとう』って言ってくれますよ」

 そう、理事長は我々の事情を知っている。透さんが化け狸である事を。
 なので子供が毎年生まれ、その番である私が産休に入ってしまっても、理事長さんは嫌な顔一つせずに『わかったよ、報告ありがとう』と答えてくれるのだ。

 私の担当は技術教科なので教師は一人しか雇わぬはずが、家庭科教師をもう一人雇い入れ、子供達が体調を壊した時や、産休に入った時などに交代してくれる教師を常駐させてくれてまでしてくれる甘やかしっぷりだ。
「まぁ、そうなんだろうけどね。でも…… 流石に子供多いと思わない?現時点で八匹、追加でまた何匹生まれることか…… 」
「いいえ、思いませんよ」
 ハッキリ、キッパリと言われた。
 もっと欲しいけど、何か?と顔に書いてあるのが恐ろしい。
「私は思うな、多いって。まぁ収入的にも困ってはいないし、理事長は他の部屋も貸してくれると言ってくれたりもしてるから住む場所も問題無いんだけど…… 」
 透さんは育児も家事もよく手伝ってくれるので、確かに問題は少ないのだが、やはり数が多いのは困りものなのだ。私の腕はどうやったって二本しかないのだし、見れる範囲にも限界がある。可愛いからというだけでは、無理な部分がどうしたってあるのだ。
「今回はまぁ仕方ないとしても、次からは避妊くらいしないかい?」

「ヒニンって何ですか?」

 と、きょとん顔で訊かれた。

 待て待て、まさかコイツ…… 避妊を…… 知らない?
 ——そうだ、忘れてた。

 夫が化け狸である事はわかっているのだが、彼が持っている知識がとても半端である事をすっかり失念していた。普段の行動はいたってまともで人間そのものなせいで、大人として持っているはずの知識を全て身に付けている気でいてしまった。
 毎度毎度生で行為をいたし、全て中出しするのは狸であるという本能のままに、そしてただ趣味嗜好的に『孕ませプレイ』をしていたのでは無く、そういう知識しかなかったから、当然としてそうしていただけだったのか。

 もっと早く言うべきだったー!

 そう叫びたい気持ちになる。
 だが、透さんが避妊の方法の知識を得たとして、普段ならばまだしも、繁殖期モードに入った時にソレが出来るのか?

 …… 出来ないきがするー。あの状態じゃ無理だー。

 理性が飛び、没頭し、一心不乱にこの身を抱き倒す様はもう完全に野獣そのものだ。そんな状態の時に避妊しろとか、無理だとしか思えない。
 だがしかし、だからって諦める訳にはいかない。無駄かもしれないが…… 一応説明はしておこう。知っていれば出来る時もあるかもしれないのだから。

 額を押さえ、ため息を吐く。
「えっとね、避妊というのはねぇ——」
 ベットに腰かけ、透さんが真面目に私の話を聞いてくれる。
 頷きつつ、感心しながらビックリした顔をしているので、本当に知らなかったみたいだ。人間の妊娠や育児について学んだ時に、ついでに触れていてもおかしくない知識なので驚きしかない。そして、改めて自分が人とは違う者の妻になったのだと実感した。得たいものしか得ない部分があるのだと知り、まだまだ私は彼を理解し切れてい無かったのだと悟る。

「そうなんですね、わかりました。次までには用意しておきます」

 私に覆いかぶさり、優しく頭を撫でてくれる。
 それだけで、彼が人じゃなくってもいいかぁと思えてしまえるのだがか恐ろしい。惚れた弱みというやつか——これが。
 どこまで透さんが私の不安を汲んでくれているのかわからないが、このまま人生を、彼と共に歩む事を、私はこの先も止められないんだろうなぁ。


【終わり】
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