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【それでも俺は貴女が好き】
好きの先にある欲③
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鈴音に案内され、短時間停車専用の簡易的な駐車場まで二人はやって来た。そこには赤くて丸っこい形をした軽自動車が停まっている。車内にはぬいぐるみが飾ってあり、ボディには白い花模様のシールペイントが施され、正直鈴音が好むような見た目をしていなかった。
「…… これ、美鈴さんの車かな?」
「あぁ、よくわかったな」
「そりゃあねぇ。これだけ可愛ーく自己主張がすごければ、流石にわかるよ」
「車の名義人は確かに美鈴だが、大丈夫だ。私も保険対象に入っているから安心して乗ってくれ」
そう言って、鈴音が車の運転席に座り、要は助手席に乗り込んだ。
初めての彼女の運転する車に乗るからか、彼はちょっとドキドキしている。
「鈴音さんって免許持ってたんだね」
「教えてなかったか?でもまぁ、あんな便利な場所に住んでいれば乗る機会も少ないし、今まで一度も話題にあがらなかったから知らなくても当然か」
だとしても、やっぱりまだまだ知らない事が多いのだなと思うと、彼氏としては情けなさを感じた。
「出発するぞ。シートベルトはしたか?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こうか」
「はーい」と要が答えたと同時に、変装を解き終えた鈴音がエンジンをかけ、車が走り出す。運転をする鈴音の凛々しい横顔を見てうっとりしつつも、要は『いずれは自分も免許を取ろう。俺だって、色々あちこち連れて行ってあげたいし』と思いながらも彼女の顔を見続け、「…… 気が散るから勘弁してくれ」と言われてしまったのだった。
◇
一時間程車で走った辺りで一度、二人はコンビニに立ち寄って飲み物を買うことに。運転手の鈴音が車内に残り、要が良く冷えた緑茶を二本と運転中でも摘めそうなお菓子を少し買って来た。
「はい、これで良かった?」
「あぁ、ありがとう。いくらだった?」
「だーめ。デートだよ?車出してもらってるんだし、せめてこれくらいは出させて」
コツンッと、冷たいペットボトルで要が鈴音の額を小突く。四月の暖かな日差しを背にし、要の眩しい笑顔が彼女の胸に刺さった。
『まるでデートみたいだ。あ、そう言えばこれはデートだったな』と思うと、ちょっと胸の奥に擽ったさを感じる。
「あ、ありがと…… 」と改めて言い、それを受け取りながら、鈴音の胸はドキドキと少女のように高鳴り続けた。
「ところでどこに向かってるの?カーナビとか何も使ってないけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。美鈴に付き合って、この辺に来る機会も多いから道はわかってる。大体どこへんに行けば何があるとかも把握済みだから…… その、目的の場所も問題無い」
段々声が小さくなり、鈴音がプイッと顔を逸らす。そんな彼女が可愛くって仕方ない。今から自分が抱かれるであろう場所まで自身で彼氏を連れて行くという状況も面白く感じる。
抱きしめたい衝動を感じたが、場所を考え、要はほっぺたをぷにぷにとつつく程度にとどめた。
「…… な、なんの真似だ」
「いや、可愛いなぁと思って。車内とはいえ、駐車場で抱きついたらぶん殴られそうだし」
全くもってその通り過ぎて、鈴音は黙ったまま頰を好きにつつかせてやった。
鈴音の頰を存分につつき、満足顔になった要がペットボトルのキャップを開けてお茶を飲もうとした。すると鈴音が、「後回しにしそうだから、今のうちに渡しておくか」と言いながら一通の封筒を要に差し出した。
「何?これ」
渡されたそれは、丈夫そうで透かしの入る高級そうな横長の封筒だった。ご丁寧に、中世が舞台の映画にでも出てきそうな赤い蝋燭で封まで施されており、開封しずらい雰囲気がある。
「…… この間預かった物だ」
その言葉を聞き、要の顔が一瞬引きつる。だが、それにすぐ気が付いた鈴音が「早合点するな!」と喝を入れた。
「こういった物はな、その、なんだ…… こんな、交換条件みたいな渡し方じゃ無く、アンタが一番心底『この瞬間しかない』と、思える時期にまた…… わ、渡して…… くれ。だ、だから、その時までは絶対に開けるなよ?」
顔を真っ赤にし、車のハンドルに突っ伏しながら、途切れ途切れになりつつも、鈴音が最後まで言い切った。
「…… 」
引きつっていた要の顔が、鈴音の話を聞いているうち、次第にきょとんとした表情になり、最後の方はもう涙目になってきた。
「うん…… うん。そうするね」
受け取った封筒を大事に胸に抱き、要が何度も頷く。
その中には、高校を卒業した日に、彼が今後の目標にしようと決意を込めて書いた婚姻届が入っていた。だが、女性側の欄も既に記入済みである事を要が知る事となるのは、もっとずっと先の話だ。
【続く】
「…… これ、美鈴さんの車かな?」
「あぁ、よくわかったな」
「そりゃあねぇ。これだけ可愛ーく自己主張がすごければ、流石にわかるよ」
「車の名義人は確かに美鈴だが、大丈夫だ。私も保険対象に入っているから安心して乗ってくれ」
そう言って、鈴音が車の運転席に座り、要は助手席に乗り込んだ。
初めての彼女の運転する車に乗るからか、彼はちょっとドキドキしている。
「鈴音さんって免許持ってたんだね」
「教えてなかったか?でもまぁ、あんな便利な場所に住んでいれば乗る機会も少ないし、今まで一度も話題にあがらなかったから知らなくても当然か」
だとしても、やっぱりまだまだ知らない事が多いのだなと思うと、彼氏としては情けなさを感じた。
「出発するぞ。シートベルトはしたか?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こうか」
「はーい」と要が答えたと同時に、変装を解き終えた鈴音がエンジンをかけ、車が走り出す。運転をする鈴音の凛々しい横顔を見てうっとりしつつも、要は『いずれは自分も免許を取ろう。俺だって、色々あちこち連れて行ってあげたいし』と思いながらも彼女の顔を見続け、「…… 気が散るから勘弁してくれ」と言われてしまったのだった。
◇
一時間程車で走った辺りで一度、二人はコンビニに立ち寄って飲み物を買うことに。運転手の鈴音が車内に残り、要が良く冷えた緑茶を二本と運転中でも摘めそうなお菓子を少し買って来た。
「はい、これで良かった?」
「あぁ、ありがとう。いくらだった?」
「だーめ。デートだよ?車出してもらってるんだし、せめてこれくらいは出させて」
コツンッと、冷たいペットボトルで要が鈴音の額を小突く。四月の暖かな日差しを背にし、要の眩しい笑顔が彼女の胸に刺さった。
『まるでデートみたいだ。あ、そう言えばこれはデートだったな』と思うと、ちょっと胸の奥に擽ったさを感じる。
「あ、ありがと…… 」と改めて言い、それを受け取りながら、鈴音の胸はドキドキと少女のように高鳴り続けた。
「ところでどこに向かってるの?カーナビとか何も使ってないけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。美鈴に付き合って、この辺に来る機会も多いから道はわかってる。大体どこへんに行けば何があるとかも把握済みだから…… その、目的の場所も問題無い」
段々声が小さくなり、鈴音がプイッと顔を逸らす。そんな彼女が可愛くって仕方ない。今から自分が抱かれるであろう場所まで自身で彼氏を連れて行くという状況も面白く感じる。
抱きしめたい衝動を感じたが、場所を考え、要はほっぺたをぷにぷにとつつく程度にとどめた。
「…… な、なんの真似だ」
「いや、可愛いなぁと思って。車内とはいえ、駐車場で抱きついたらぶん殴られそうだし」
全くもってその通り過ぎて、鈴音は黙ったまま頰を好きにつつかせてやった。
鈴音の頰を存分につつき、満足顔になった要がペットボトルのキャップを開けてお茶を飲もうとした。すると鈴音が、「後回しにしそうだから、今のうちに渡しておくか」と言いながら一通の封筒を要に差し出した。
「何?これ」
渡されたそれは、丈夫そうで透かしの入る高級そうな横長の封筒だった。ご丁寧に、中世が舞台の映画にでも出てきそうな赤い蝋燭で封まで施されており、開封しずらい雰囲気がある。
「…… この間預かった物だ」
その言葉を聞き、要の顔が一瞬引きつる。だが、それにすぐ気が付いた鈴音が「早合点するな!」と喝を入れた。
「こういった物はな、その、なんだ…… こんな、交換条件みたいな渡し方じゃ無く、アンタが一番心底『この瞬間しかない』と、思える時期にまた…… わ、渡して…… くれ。だ、だから、その時までは絶対に開けるなよ?」
顔を真っ赤にし、車のハンドルに突っ伏しながら、途切れ途切れになりつつも、鈴音が最後まで言い切った。
「…… 」
引きつっていた要の顔が、鈴音の話を聞いているうち、次第にきょとんとした表情になり、最後の方はもう涙目になってきた。
「うん…… うん。そうするね」
受け取った封筒を大事に胸に抱き、要が何度も頷く。
その中には、高校を卒業した日に、彼が今後の目標にしようと決意を込めて書いた婚姻届が入っていた。だが、女性側の欄も既に記入済みである事を要が知る事となるのは、もっとずっと先の話だ。
【続く】
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