【完結済作品の短編集】

月咲やまな

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【それでも俺は貴女が好き】

好きの先にある欲 ・最終話

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「死ぬかと…… 思った…… 」
 瀕死の重体に近い程の疲労困憊ぶりの鈴音が、布団の上でぐったりとしている。
 性交渉とはこんな疲れる行為だったか?あれではまるで完全にスポーツか格闘技だ、と鈴音は思った。
 年齢差は確かにあるが、それにしたってオカシイだろ!こっちだって運動は日頃からしていて体力にはかなり自信がある。だが彼との行為は体力の有無の問題というよりは、要の精根の異常性が原因での疲労だった。いや、精力と言うべきかもしれない。
『まだ足りない、もっと』『また勃ってきちゃった、あは』と、求めに求められ、もうこの数時間だけで過去の鈴音の経験回数を優に超えてしまった。元々多くはなかったが、それにしたって数時間でそれを簡単に超えるとか、意味がわからない。

「えっと、それは死ぬ程気持ち良かったって意味で合ってるよね?」

 そんな事を言うもんだから、要は鈴音にジト目で睨まれたが、彼はニコニコ顔のままだ。何度もイかせてあげられた達成感と、好きな人とやっと一つになれた事で得られた満足感で、一皮も二皮も剥けた男の顔をしている。
「本当はもっとしたかったんだけど、鈴音さん途中で気失っちゃうんだもん。あれは流石にびっくりしたよ。まぁ…… シャワーも浴びないとだったし、退室時間もきちゃうかもだったから丁度よかったっちゃーよかったんだけどさ」
「びっくりはこっちのセリフだよ。よくまぁアンタ、今まで性犯罪で逮捕されなかったな。あんな精力を持て余していたら、片っ端から襲いそうなもんだが…… 」
「や、それは無いっしょ。だって俺オナる様になってからずっと、おかずは“憧れのお姉さん”だったしね」
「…… は?」
「何度も何度も鈴音さんの勇姿を思い出して、声を反芻してオナってたからね。会えてからはもう、発散する回数増やしても全然足んなくって運動して誤魔化して済ませたけど。他の子ととか、まぁ…… 正直全く興味が無かった訳じゃ無いけど…… でも、する機会があったとしたって、『これじゃ無いなぁ』って思っちゃってたんじゃないかなぁ」
 先に客室内にある小さなお風呂でシャワーを浴び、濡れる髪をタオルで拭きながら、要がしみじみとした顔で言った。
「ってか、鈴音さんもシャワー浴びないと。汗とか先走りとか、鈴音さんもエッチな汁とかでベットベトだろうけど、そのまま帰るの?」
 そう言って、布団に寝転ぶ鈴音の隣にあぐらをかいて座り、要が彼女の頭をくしゃりと撫でた。
「絶対に、イ・ヤ・だ!」
「なら早く浴びないとね。時間きちゃうよ。運んで行ってあげようか?」
「…… だ、大丈夫、だ」と、体を腕を立てて起こし、鈴音の胸がぷるんっと揺れた。
「…… わーお。また勃っちゃいそ…… 。眼福かよ」
「み、見るな!」
 バッと腕を体に回して、鈴音が自らの胸を隠す。
「見せたのそっちなのに。俺を魅了して、何がしたかったのかなー。あ、なんだったら浴室でもう一回する?」
「するか、ばか!」
 そう言って、鈴音が要の頭にかかっていたタオルを引っ張る。バスタオルではなかったので鈴音の体を隠すにはかなり小さいが、これでなんとか前だけは隠せそうだ。
「…… 全裸よりエロいよ?それ」
「あっちでも向いてろ!」
 鈴音があげる声は掠れていて、喉がかなり辛そうだ。
「はーい。んじゃ俺は、布団整えたりとか、荷物整理とかしておくね」
「あぁ、頼むよ。ありがとう」
 タオルで前だけを隠し、フラフラとした足取りで鈴音が浴室まで歩いて行く。後ろが丸見えなのがもうかなり色っぽい。一緒に入って行きたい気持ちをぐっと押さえながら、要はゴクッと唾を飲み込んだ。
「本当に手伝わなくって、平気?」
「アタシは本当に平気だから、そっちはそっちのするべき事をしていてくれ」
 そう言い残し、鈴音はベトベトする体を洗う為に浴室内へと消えて行った。


       ◇


「いやー、ギリギリだったね!」
「最後はかなりバタバタしたな。せっかくの温泉だったのに入れなかったし、勿体無い事をした」
 車を走らせ、温泉街を出ながらそんな話をする。
「…… ごめん。完全に俺のせいだよね」
 謝りはしたが後悔はしていない。
 今日のあれは、アレで正解だった。だってすごく、すごーく気持ち良かったし!と言いたい気持ちを、要は胸の奥に留めた。
「ま…… 」
「ま?」
「また、行けばいいんじゃないか?今度は…… と…… 泊まり、とか、で」
「いいね!ってか、俺んち結構緩いし、もう大人の男だからってのもあってか放任に近いし、このまま今日泊まっても平気だよ!」
「イヤイヤ、店の問題もあるからいきなりそれは無理だ」
「…… じゃあ、鈴音さんちに泊まるとか」
「それじゃ場所を変えた意味が無いだろうが!」
「あ、そっか」と納得はしたが、でも「俺的にはもう、この足で役所行って封筒の中身出しちゃいたいくらいに、鈴音さんと一緒に居たいのになぁ」と呟く。
「中出しして、既成事実作っちゃえば良かったかも…… 」
「このまま壁に車を激突させるのと、アタシの手で絞め落とされるのとだったら、どっちがいい?今ならまだ選べるよ?」
 車内に漂う空気から、鈴音が本気である事が伝わり、要の身が竦む。彼女の腕っぷしなら俺相手でも出来る!と思うと玉が縮み上がるのを感じた。
「も、もう言いません。だから許して」

「まったく…… 。その場の勢いで何でもかんでも望むんじゃ無いよ。この先もずっと長く一緒に居たいなら、ちゃんと順序を守らないと」

「そう…… だよね。うん、うん、うん!」
 鈴音の方から先に繋がる言葉が出てくると、今でも要は嬉しく思ってしまう。『アンタはもっと年相応の相手と付き合うべきだ』と、もう思われていないんじゃないかと実感出来るからだ。

(ここまでゆっくり距離を詰めてきたんだ。焦る事はないじゃないか)

 体を重ねられた充足感も相まって、嬉しさは普段以上だった。
「はしゃぎ過ぎだよ、アンタって子は…… まったく」
 そう言いう鈴音もちょっと嬉しそうだ。

 信号で車が止まり、運転席に座る鈴音が要の方へ手を差し出す。その手を要が取りギュッと握ると、鈴音の口元に笑みが生まれた。
「これ以上離し難くはならないと思っていたんだがなぁ…… 」
「離したいって鈴音さんが思っていても、俺は離れないよ。ずっと、ずっと隣に居たいんだって気持ちを、鈴音さんが信じ切ってくれるまで伝え続けないといけないからね」
「…… 信じたら、離れるってことか」
「イヤイヤ、それおかしいでしょ!信じてもらえたら、もう離れる必要もないから、ベッタベタに甘やかしてもらうんだから」
 鈴音の谷間の感触を思い出し、要がぽっと頰を染める。異質な気配を敏感に察した鈴音は、咄嗟に要に掴まれていたの手から自分の手を引き抜いた。
「あ、逃げた!」
「変な想像するからだろうが!」
「…… な、何でバレたんだ?」
「そんだけ顔が緩んでりゃ、イヤでも想像がつくよ。甘えるなら甘えるで、もっと違う甘え方もあるだろうにさ」
「甘えるのは、良いワケだ」
「…… 」
 図星をつかれ、鈴音が黙る。そのタイミングで丁度信号が青に変わり、また車が走り出した。
「でもまぁ、俺も甘えたいけど、鈴音さんを甘やかしてもみたいなー。膝枕してぇ、耳掃除とか。オイルマッサージとかもいいかもね」
「出来るのか?意外だな」
「…… デキマセン」
 片言になり、ぐっと要が渋い顔をする。
「でもでも!練習したら出来る様になると思うんだよね!格闘技だって、スタート遅くても何とかなったし」
「あぁ、そうだな。要の諦めの悪さはアタシが保証するから、沢山練習したらいいさ」
「練習台になってくれる?」
「まぁ、構わないが。…… 変な真似はするなよ?」
「ソレは保証出来ないなぁ。鈴音さんが変な気分になるかもだし⁉︎」
「ならんわ!」
「なろうよ!」

 ワイワイと騒がしく、帰路に着く車が走り続ける。
 色めかしいデートだったはずなのに、結局はいつものノリのまま一日が終わりそうだ。


【終わり】
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