【完結済作品の短編集】

月咲やまな

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【アイツだけがモテるなんて許せない】

くだらない夢・前編【琉成×圭吾】(圭吾・談)[R18]

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 夢を見た。
 変な夢だ。
 そう断言出来るくらいには、かなり。
 だけど夢ってそんなもんだろう?あまりに可笑しすぎて、目が覚めたら忘れているなんか常だしな。

 ——なんて話しを何気無く琉成にしたら、当然の流れで「どんな夢だったの?」と訊かれた。
 ただ『変な夢だった』と言えただけで俺の中では終わった話しだったし内容までは話す気も無かったのに、断ったら「気ーにーなーるー!」と琉成が言いながら騒ぎだした。俺のベッドの上でバタバタの両手足を振って暴れ、子供か?ってくらいに駄々をこねている。

「なんでだ?別に、ただの夢だろ」

 あんまり覚えていないし…… と言いたい所なのだが、珍しく七割くらいは話せる程度に記憶しているのが辛い。内容が、内容なだけに。

「圭吾の事は全部把握しておきたい。そんなの、俺は彼氏なんだし当然でしょう?」

 大の字に寝転びながら言われても、漫画みたいにはキュンッともドキッとも出来なかった。
 コイツに惚れている女子達ならば黄色い悲鳴モノの台詞なのかもしれないが、何とも思えないのは同性故にだろうか?ガキくささのせいかもしれない。

 …… いやいやいや!全部把握とか、普通に怖いからだろ!
 俺のプライバシーも尊重しろってんだ。

 表情を変えぬまま、脳内で即座にツッコミを入れた。
 それにしても、コイツが俺の彼氏、彼氏、彼氏かー。今となっては事実なのだが、なんかムカつく。自分で選んだ選択だってのにだ。

「で?で?どんな夢だったの?」
「何の脈略もない内容だっつーの。つうかさ、サラッと怖い事言うなや」
「怖い事?…… 何か言ったっけ」と、琉成がキョトン顔をする。って事は素で言ったって事で、余計に怖い。俺の全てを知ったからって何が楽しいのやら。

「んで?どんな夢だったの?俺以外との浮気とかだったらお仕置きしちゃうけど、それでも正直に話してね?」

「…… ソレを言われて、それでも話す馬鹿正直なのは充くらいなもんだろ」
「そうだねぇ。んで、『夢の中でも浮気なんかしたくなかったぁ』って恋人に泣きついて、丸く収まるタイプだよね。いいよなぁ、どう転んでも結果的に得するタイプって」
「何だ。俺にも泣きついて欲しいのか?」
「そうだね。圭吾の涙は美味しいし、ソレもアリかな。浮気は許さないけど」
 高揚した顔で言われ、背筋に寒気が走った。どんだけ俺の体液が好きなんだコイツは。
「で?で?」
 どうしたって内容が気になるみたいで話を戻されてしまう。どうやら俺には、話す以外に手立ては無い様だ。

「…… 別に、アレだ。可愛い男の子が出て来てな、感謝感激って顔をして俺に言うんだ。『僕は昨日貴方に助けて頂いた、鶏の王子です』って」

「鶏の王子って!男の子の時点でもう鶏要素無いじゃん。しかも王子ならヒヨコであるべきだよね」
 そう言って、琉成が腹を抱えて笑い出した。
 こうなってくると正直テンションが上がる。くだらない話でもこうやって面白そうに聞いてくれるから、コイツが自分の事を全く話していなかろうが話題に事欠かず、今まで友人として楽しく過ごせてきたのだろうな。

 …… こんな一面も、俺に合わせて演じているだけではないといいのだが。

「んでな、唐突に昨晩の回想が始まるんだよ。確かに昨日俺は焼き鳥を食わずに残してたんだ。当然夢の中でだけどな。『腹一杯だし、もういいか』って。そしたら偶然その焼き鳥が実は王子だったらしく、魔法使いの呪いがうんたら言い出して、長々とまぁどうでもいい過去の話をし出す訳だよ。んで俺はそれ聞きながら『焼き鳥になってる時点で、もう死んでね?』って思ったんだけど、その辺はあやふやなんだから、所詮は夢だよな」

「え、圭吾が食べ物残すって…… 有り得ないね。夢だわ、ソレは」
「食いつくのソコなのかよ。ってか、最初から夢だって言ってるだろ」

 本気で驚いた顔をされたが、そこまで驚く様な事だろうか。まぁ、勿体無いからと料理を残した事が一度も無いのは確かだが。

「んでだ、長話しが終わったと思ったら、今度は『願い事を叶えてあげる!って言いたい所なんだけど』って気不味そうな顔をしながら、『そこまでの力は無いけど、貴方が“妄想した事を相手に体感させる”魔法をかけてあげるね』言うわけだ」
「…… 妄想を、体感させる?」

「あぁ。意味わかんねぇだろ?んな事言われたってさ。だけど夢ん中の俺は信じちゃっててな、次の日になって色々試してみようとするんだけど何も起きねぇの。したら夜にまた鶏王子が現れて、『妄想と想像は違う』って指摘されてさ。でもそんな差なんかわかる訳ねぇし。俺そもそも日頃から、『妄想だ』『想像だ』言われてもその定義どころか、んな事する暇があったら飯食うか、勉強でもしてるっつーの」

「あぁ、そりゃ何も起きなかった訳だ」
「な」と言い、琉成の顔を軽く指差した。
「それでそれで?」
「…… 以上だ」

「——え⁉︎嘘だぁ、んな訳無いでしょ」

 ガバッと慌てて起き上がり、ベッドの端に座っていた俺の間近まで迫ってきて、琉成が疑り深い瞳をしながら人の顔を下から覗き込んできた。
「確かに何かはあったろうけど、話せる程ちゃんとは覚えてない」
 瞳を見ながら、キッパリ断言する。これ以上訊かれても語る気なんか微塵も無い。
 今回の譲れない一線が此処なのだ。
「えぇー勿体ない。そんな美味しいシチュエーションを覚えてないだなんて」
 どこまで信じてくれたのかは不明だが、どうやらこれ以上の追求はしないでくれそうだ。

「俺だったら、そうだなぁ…… 。講義室とかトイレでとか、カフェや更衣室とかもいいなぁ。とにかくさ、色んな場所に圭吾と一緒に行ってぇ、オモチャとかでねちっこくイジメちゃう妄想をわざとして、人前でもめちゃくちゃにしちゃうのに」

 真っ赤な頬を両手で包み、照れ臭そうに言われてもキモイだけだった。
 そして…… ドンピシャでその通りの行為を夢の中でされた事を思い出してしまい、無表情のまま頭の中から必死にその記憶を追い出そうと努めたのだが…… どうやら無理っぽいみたいだ。


       ◇


 一昨日、『助けてくれてありがとう』だなんて、昔話の鶴みたいに鶏王子が現れて、意味不明な力を授けて消えやがったが全然使えず役に立たなかった。

 そしたら昨日再び現れて、今度は『んじゃその力は別の人にあげちゃいましょうか。貴方には…… そうですねぇ、満腹になれる胃袋とかどうです?』って提案してきた。んな物が可能なら、じゃあ最初からそっちをくれよって感じだったが、こっちはありがたく頂く事にしたおかげで、今の俺はとても満たされている。

『おはよう、圭吾』
 午後一の授業に間に合う様に大学へ行くと、午前から来ていたっぽい琉成に声を掛けられた。
 何時に到着するとも何も言っていなかったし、SNSだとかでの連絡すらも今日はしていなかったのに、よくまぁ俺の居場所がピンポイントでわかるもんだ。
『おはよう。今朝はお前の方が早かったんだな。起こしていってくれりゃぁ良かったのに』
『いつもみたいにお腹空かして起きると思ったけど寝たままだったから、かなり疲れてるのかな?と思ってさ。朝ご飯はあれでひとまずは足りた?』
 寝ていた俺の代わりに琉成は四人分の朝食を用意してから大学へ行ってくれていた。入居時の取り決めでは、食事は各人でどうにかする約束をしていたのに、最近では暇さえあれば用意してくれている。だがまぁ、俺もよく全員分の料理を作っては放置しているので、普段のお返しといった所だろうか。

 いつも通り俺の分だけ異常な程の大盛りだったが、今日はそれを食べ切るのが正直辛かった。普段なら余裕な量だったので、鶏王子の魔法?とやらは本物だったのだなと実感する事が出来た。
『…… もしかして具合悪いの?だから起きられなかったとか?』
『ん?どうしてだ?』
 不安そうな顔で訊かれても、何の事だかわからない。

『だって、圭吾が歩きながら何も食べていないから!』

 ごもっとも過ぎて反論出来ない。だからといって馬鹿正直にお礼の話をした所で信じてなんぞもらえる筈がないので、『…… んな日もあるだろ。体はいたって健康だよ。アレだ、やっと完全に成長期が終わった的なヤツじゃね?』と答え、心配そうにしている琉成の頭をくしゃりと撫でた。
『んな事よりも、もうすぐ授業が始まるよな。どこに座る?』
『圭吾に任せるよ、俺は何処でもいいから』
『んじゃ前の方がいいな』
 琉成を目で追う女性陣の視線が煩いと気が散ると思い、そう提案する。
 前の方へ歩きつつ、『わかった、じゃあそこにするか』と話しながら適当に席を取り、荷物を置いて座った。
 二人でくだらない話をしていると、あっという間に休憩時間が終わって午後からの講義がスタートした。


 淡々と進み、十二、三分くらい経過した頃だろうか。
 急に首筋に妙な感触が走った。ぬるっとした、それでいて熱く、まるで舌が肌をなぞった様な感触だ。何事かと思い周囲を見渡したが、後ろに座る人がこっちに手を伸ばして何かしたような様子は無いし、隣に座る琉成もそれは同じだった。
 シャープペンでトントンと軽くノートを叩いて手遊びはしているものの、真正面を見て先生の話を真面目に聞いている。

 気のせい…… か?

 不思議に思いながらも首を撫で、変な感覚を拭おうとしながら、自分も正面に顔を向けた。


 しばらくはそのまま何も無かったのだが、単調な授業内容に少し眠気を感じ始めた時、今度は太腿を撫でられた気がして慌てて視線を脚へと落とした。だが今回も気のせいだったのか誰の手も置かれてはいない。琉成は相変わらず真剣な様子で授業を聞いているし、反対側には三人分の空席が続いているので、そちら側から誰かの手が伸びてきた可能性も有り得なかった。

 寝ボケていたのかもしれないな、ちょっと眠かったし。

 自覚していなかっただけで多分数秒程度寝落ちしていたんだろうと結論付けたのだが、太腿を撫でられる感触がなかなか消えてくれない。自分で強く触って払う様に強く擦ってもそれは変わらず、段々と痴漢でもされているみたいな気持ちになってきた。
 何なんだコレは!と思った辺りで、ハッと鶏王子の姿が頭に浮かび、『その力は別の人にあげちゃいましょうか』と話していた一言が脳裏をよぎった。

 勢いよく琉成の方へ顔を向けると、その事に気が付いたのか、奴もこっちを向いて首を傾げる。

 どうしたの?と不思議そうな顔をしてはいるが、ただそれだけだ。とてもじゃないが人の脚を撫で回す様な妄想をしている男の顔では無かった。
 何でもないと言うように軽く手を振り、正面に顔を戻す。でも脚には撫でられる感覚が今尚続いたままで、しかもその手は徐々に内腿へと移動していっている気がする。

 待て待て待て!巫山戯んな、誰の妄想だ⁉︎

 そうは思うも俺に対してこんな事を考えそうな奴なんか隣に座る琉成くらいしか思い浮かばず、再び奴の方に顔を向け、今回はキッと睨みつけてみた。
『どうかしたの?大丈夫?』
 小声で言いつつ、琉成がこちらに顔を寄せる。心配そうに気遣う声は優しいし、表情は穏やかなままなのだが、触れられる感触はとうとう後ろの方へと移動していき、人の尻を両手で掴んで揉み始めたのだから堪ったものじゃない。
『授業に集中しろ!』と、語気を強め、小声で言う。
『してるよ?』
 不思議そうな顔をしているので、もしかしたら琉成は、自分が変な能力を使える様になっている事に気が付いていないのかもしれない。

 ちょっと待て。…… コレ、俺がバラしたら確実に死亡フラグが立つんじゃね?

 妄想の中でどんなプレイを強要されるのかと思うと、背筋が凍る。現実ですら既にローターやらコックリングやらといったアホらしい物を使われて死ぬ目に合っているというのに、これ以上追加されるとかマジで勘弁してくれ。

 何だって鶏王子ヤロウは、よりにもよって琉成なんかに厄介な能力を移しやがったんだっ!

 今度会ったら絞め殺してやる。そう心に誓いながら、『…… ならいいんだが』と言い、ひとまず授業にまた頭を切り替えようとした。
 だが、お尻を揉んでいた手が止まり、その手がゆっくりと尻の奥を目指し始めた。そのせいで肩が跳ねたが、自分が今何をしているのか全く自覚していない琉成は、キョトン顔をしている。なのにそんな顔付きのまま人のケツの中に指をつぷりと入れる妄想をし始めたせいで少し声が出そうになってしまった。
 慌てて口を手で塞ぎ、背中を丸める。

 今は授業中だっていうのに馬鹿琉成は俺の体を使ってなんちゅう妄想をしてんだ!

 顔が真っ赤に染まり、肩で呼吸を繰り返す。他の事を考えて気を散らそうとしても的確に前立腺の辺りを撫でるわ内側から叩くわされるせいでそれも出来ず、否応無しに勃起してしまう。隣の席に置いていた鞄に手を伸ばして膝の上に置き、この状態を隠そうとしたが、不審な行動のせいでもしかしたら琉成にはバレたかもしれない。

『すみません!友人の体調が悪そうなんで、退席してもいいですか?』

 手を挙げてそう発言し、許可を貰うと、『行こう。ひとまずトイレに向かおうか』と声を掛けてきた。
 鞄で前を隠したまま力無く頷き、どうにかこうにか歩いて講義室から退室の用意をする。その間中介助されたままだったので、授業をしてくれていた助教授に『無理するなよ』と心配されてしまった。
 順当に卒業しなければいけない身だ。授業の中座なんぞ絶対にしたくなかったのに、それどころでは無い事が悔しくってならない。だけど今は差し迫った問題をどうにかせねばと割り切り、素直に琉成と共に退席したのだった。


【続く】
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