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【第四章】
【第十一話】買い物(メンシス・談)
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『…… トト様。流石にコレハ、花火の打ち上げ過ぎだと思ヨ。王城から苦情がきちゃうんじゃナイ?』
一階にある事務室の出窓に座ってロロが言った。ガラス越しに花火を見上げながら尻尾がパタパタと揺れてはいるが、声の方はちょっと冷めている。
「とは言ってもなぁ…… 」
部屋の真ん中に立ち、天井を見上げるみたいな体勢で両手で顔を覆う。ばくんばくんと激しく高鳴る心臓を落ち着けようと試みるがとてもじゃないけど無理そうだ。当然か、こんなにも早く、彼女が私に好意を抱いてくれているとしか思えない発言を盗聴出来たのだから。
(でも…… どうせなら、直接聞きたかったなぁ)
仕事机の上に飾っている小さなフレームには今、窓の近くに立ち、私の魔力暴走で打ち上がってしまっている花火をキラキラとした目で見上げているカーネの姿が映っている。初めて見る花火を喜んでくれているみたいではあるが、歓喜し過ぎたせいで魔力が暴走しているのが原因で打ち上がってしまったものなのがちょっと恥ずかしい。
『ララが咄嗟に誤魔化してくれて良かっタネ、トト様』
「そうだな。後で礼を言わないと」
ロロにそう受け答えをしつつ、着ている服を普段のラフな格好へと魔法を使って一瞬で変化させる。オーバーサイズの白いシャツ、黒いパンツスタイルに戻ると尻尾と獣耳を隠し、長い後ろ髪を一度ほどき、綺麗に結び直しもした。
「さて、早速子供部屋を増築しないとな」
そわそわとした気持ちで呟く。どんな部屋にしてあげようかと考えていると、背後からロロのため息が聞こえてきた。
『トト様、まずはカカ様のウェディングドレスの用意が先でショウ?』
自信満々にロロが胸を張る。すると木製のドアをするりと通過し、『…… まずハ、告白が先でしょうガ』と呆れ声で言いながらララが事務室に戻って来た。
「それもそうか」
『そッカ、そうだっタネ』
ロロと共に納得し、深く頷く。
じゃあ何処で?どうやって?どのタイミングで想いを告げるのが最も喜んでもらえるだろうか。空の散歩にでも連れ出そうか、それとも一番高い時計塔からの夜景でも見ながら言うか?だがもう季節的に寒いよな——などと、頭の中で様々なシチュエーションが駆け巡る。
『ララが一番冷静ダネ。流石はボクの妹ダ』
『フフッ。まぁねェ』とロロに返すララの表情はとても誇らしげだ。
『トト様、もう一階でカカ様がお待ちかねヨ』
「早く行かないとだな。報告ありがとう、ララ」
礼を言うとララが私の肩の上に飛び乗った。ロロは用事があるからと、また一人硝子窓をすり抜けて先に外へ行く。
防音魔法を解除し、それと同時に扉を開ける。すると小さな鞄を片手に持って、紅葉にも似た色合いのスカートを穿き、薄緑色をしたブラウスの上にスカートと同系色のストールを首周りにあしらっているカーネが、今か今かといった様子で階段の近くに立っていた。
「お待たせしてしまってすみません」
声を掛け、直様カーネの元に駆け寄ると、こちらに気が付いて顔を上げた彼女が驚いた様に目を見開いた。その視線の先がどう見ても私の肩である事から、まず間違いなく、ララが私に迷惑をかけていやしないかと心配なのだろう。そんなカーネの心境を察したララが、私の肩から彼女の肩へ飛び移った。その間私は素知らぬフリをして、気遣う行動もせず、視線をララへやらないように気を付ける。
「じゃあ、早速行きましょうか」
ララが自分の肩に移動を終えた事を確認し、カーネが「あ、はい」と答えて私の後に続く。『見えない何かがそこに居るのだろうな』と、誰でも察する事が出来てしまう仕草を一切隠せていないカーネを、心から可愛いなと思った。
◇
ウォセカムイ地区にある商店街の一角にあるマジックアイテムなどを扱う専門店に着いた。王都でありながら、セレネ公爵領と隣接している関係でルーナ族がこっそり経営する店が多い地域なのだが、この店はそういう特性のある地域だとは知らずにヒト族が開いた店だ。ヒト族が扱う魔法は、やはりヒト族が書いた魔導書の方が適しているからと初来店したのだが、聞き齧っている前評判は悪くないからきっと問題無いだろう。
生活魔法や攻撃魔法の呪文や魔法陣などについて書かれている魔導書や、マジックアイテム制作には不可欠な魔石も置いてある。魔法を学んでいない者でも簡単な魔法なら一回だけ使える使い捨ての“スクロール”というアイテムも扱っているから客層はかなり幅広そうだ。店内にずらりと置かれた本棚には魔導書だけじゃなく、薬瓶も数多く並ぶ。光を嫌う商品も多いからか店内は少し薄暗く、薬草も取り扱っているからか植物の匂いが充満していた。
「…… 圧巻ですね」
薄気味悪い顔をしたマンドラゴラの植えられた植木鉢にチラリと視線を落としながら、カーネが呟く。昼ご飯の時間が近いからか店内に客は二、三人程度しかいないのだが、独特な雰囲気のせいかつい小声になるみたいだ。
「生活魔法に関して書かれた魔導書はこちらみたいですね」
本棚の並ぶ方を指さして店内を進む。靴音を響かせ、親を慕う鳥みたいに私の後を着いて来てくれる姿が愛らしい。
「わぁ…… 生活魔法に関しての本だけでも、結構種類が多いんですね」
本棚二つ分を占領しているコーナーを前にしてカーネが驚いている。そんな姿を微笑ましく思いながら私はその中の一冊を手に取り、彼女に渡した。
「手持ちの中でお貸ししようと思っている本も悪くは無いのですが、こちらの魔導書は初心者にオススメです。急に上級者の魔法まで網羅している本に手を出すよりは、段階を踏んで、少しづつ学んでいく方がいいでしょう。何事も基礎が一番重要ですから」
元々カーネは物覚えは悪い方ではないのだが、“本”の“聖痕”を取り返しているおかげで一度読んだ本は全て記憶出来る。だからこそ記憶を整理し易い様、順々に頭の中に入れておいた方がいいだろう。
「そうですね」
「此処にも並ぶ中級者や上級者向けの本は保有しているので、初級の本を読み終わったら順次お渡ししますね」
「はい。ありがとうございます」
余程楽しみなのか、カーネの瞳が輝いている。私もヒト族が書いた魔導書はあまり読んだ経験がないから色々目を通して追加で買っておくとしよう。どうせだから厳選した物を選んであげようと心に決めた。
何冊か気になった本を手に取って中を見てみたが、やはり公爵家にある魔導書や王立図書館に並ぶ本と比べると、初級者向けとはいえ随分と簡略化された内容の物ばかりだった。魔法を扱えはしても、知識が完全に欠如している彼女には丁度いいが、これらもすぐに読み終えるだろうから他の本の手配はすぐにでもしておいた方が良さそうだ。
「…… あれ?」
手に取っていた本を閉じ、棚に戻した辺りで隣にカーネが居ない事に気が付いた。彼女の気配がする方へ向かうと、攻撃魔法に関して書かれた魔導書が多く並ぶ棚の前でカーネは本棚を見上げていた。
「興味があるんですか?」
「そう、ですね。護身程度には」
「なるほど」と頷き返す。私達が守るから覚える必要は無いと言いたい所だが、人生何があるかはわからない。前世でその事を痛い程に痛感済みなので、攻撃魔法もいずれは教えておくか。
「じゃあ、こっちも初級から目を通してみてはどうでしょう?あ、でも呪文を声に出して読むのは絶対にやめて下さいね」
「もしかして、危険なんですか?」
「生活魔法の呪文くらいなら暴発したって埃だらけになるとか、過度なまでに効果がアップしてもせいぜい対象が新品同様になるくらいで済みますが、攻撃魔法だとそうはいきませんからね。無詠唱で魔法が使える者があえて詠唱をして魔法を使うと、効率良く魔力を引き出せてしまって威力が過剰になりがちなので、慣れがないと返って危険なんですよ」
「あ、そうですよね」
深く納得したのか、カーネが何度も頷く。この様子なら好奇心に負けて一人勝手に唱えてしまう心配はいらなさそうだ。
「——魔力の暴走といえば、さっきの花火はシスさんも見ましたか?」
「あ、はい。昼間なのに綺麗でしたね」
自分の感情と魔力の暴走だったので実は外を見てもいないのだが、どんな暴走をしていたのかくらいは想像がつくので誤魔化せるだろう。
「実は私…… 初めて花火を見ました」
「夜の方がもっと綺麗ですよ。そうだ、今度一緒に見に行きませんか?年越し時期に毎年打ち上げ花火があがるので」
「是非見てみたいです」
私の提案に太陽みたいに眩しい笑顔を返してくれた。流石は太陽神・テラアディアに祝福された魂なだけある。ただ傍で笑ってくれるだけで、私の心を癒してくれるのだから。
(たとえそうじゃなくても、私からの愛は変わらないけどな)
店内をしばらく見て回っていると、昼になったからか少しお腹が空いてきた。カーネも同じだったのか、気恥ずかしそうに腹を押さえているからきっと、空腹を訴えてグゥと鳴ってしまったのだろう。
「そろそろお昼にしましょうか」
「いいですね」とカーネが素直に返してくれる。少しは私に慣れてきたのか、無駄な遠慮がなくなってきてくれてとても嬉しい。
会計を済ませて店を出る。だがその時随分と荷物が軽い気がして紙袋の中を確認してみると、買ったはずの本が二冊分程足りていなかった。きっと店員が入れ忘れたのだろう。
「すみません、受け取り損ねた本があるのでちょっとレジに戻りますね。少しの間此処で待っていてもらってもいいですか?」
一人で待たせるのは多少不安ではあるが、カーネの足元にはちゃんとララが居て、周囲を見回しながら護衛しているから平気だろう。
「わかりました」と言い、カーネが店の入り口のすぐ近くに立つ。礼儀正しく待機する姿が飼い主を待つ犬みたいでちょっと可愛い。
店に戻り店員に声を掛けると、思った通り買った本がカウンターの上に置きっぱなしになっていた。勤め始めたばかりの店員が会計をし、不慣れなせいで袋に入れ忘れたらしく、会計をした店員と店長が謝罪をする。早々にカーネの元に戻りたいのになかなか謝罪が終わらない。お詫びに何かサービスすると言われたりもしたせいで余計に時間が掛かってしまった。
慌てて踵を返してカーネの待機していた場所に向かう。
——だが、そこに彼女達の姿は無かった。
一階にある事務室の出窓に座ってロロが言った。ガラス越しに花火を見上げながら尻尾がパタパタと揺れてはいるが、声の方はちょっと冷めている。
「とは言ってもなぁ…… 」
部屋の真ん中に立ち、天井を見上げるみたいな体勢で両手で顔を覆う。ばくんばくんと激しく高鳴る心臓を落ち着けようと試みるがとてもじゃないけど無理そうだ。当然か、こんなにも早く、彼女が私に好意を抱いてくれているとしか思えない発言を盗聴出来たのだから。
(でも…… どうせなら、直接聞きたかったなぁ)
仕事机の上に飾っている小さなフレームには今、窓の近くに立ち、私の魔力暴走で打ち上がってしまっている花火をキラキラとした目で見上げているカーネの姿が映っている。初めて見る花火を喜んでくれているみたいではあるが、歓喜し過ぎたせいで魔力が暴走しているのが原因で打ち上がってしまったものなのがちょっと恥ずかしい。
『ララが咄嗟に誤魔化してくれて良かっタネ、トト様』
「そうだな。後で礼を言わないと」
ロロにそう受け答えをしつつ、着ている服を普段のラフな格好へと魔法を使って一瞬で変化させる。オーバーサイズの白いシャツ、黒いパンツスタイルに戻ると尻尾と獣耳を隠し、長い後ろ髪を一度ほどき、綺麗に結び直しもした。
「さて、早速子供部屋を増築しないとな」
そわそわとした気持ちで呟く。どんな部屋にしてあげようかと考えていると、背後からロロのため息が聞こえてきた。
『トト様、まずはカカ様のウェディングドレスの用意が先でショウ?』
自信満々にロロが胸を張る。すると木製のドアをするりと通過し、『…… まずハ、告白が先でしょうガ』と呆れ声で言いながらララが事務室に戻って来た。
「それもそうか」
『そッカ、そうだっタネ』
ロロと共に納得し、深く頷く。
じゃあ何処で?どうやって?どのタイミングで想いを告げるのが最も喜んでもらえるだろうか。空の散歩にでも連れ出そうか、それとも一番高い時計塔からの夜景でも見ながら言うか?だがもう季節的に寒いよな——などと、頭の中で様々なシチュエーションが駆け巡る。
『ララが一番冷静ダネ。流石はボクの妹ダ』
『フフッ。まぁねェ』とロロに返すララの表情はとても誇らしげだ。
『トト様、もう一階でカカ様がお待ちかねヨ』
「早く行かないとだな。報告ありがとう、ララ」
礼を言うとララが私の肩の上に飛び乗った。ロロは用事があるからと、また一人硝子窓をすり抜けて先に外へ行く。
防音魔法を解除し、それと同時に扉を開ける。すると小さな鞄を片手に持って、紅葉にも似た色合いのスカートを穿き、薄緑色をしたブラウスの上にスカートと同系色のストールを首周りにあしらっているカーネが、今か今かといった様子で階段の近くに立っていた。
「お待たせしてしまってすみません」
声を掛け、直様カーネの元に駆け寄ると、こちらに気が付いて顔を上げた彼女が驚いた様に目を見開いた。その視線の先がどう見ても私の肩である事から、まず間違いなく、ララが私に迷惑をかけていやしないかと心配なのだろう。そんなカーネの心境を察したララが、私の肩から彼女の肩へ飛び移った。その間私は素知らぬフリをして、気遣う行動もせず、視線をララへやらないように気を付ける。
「じゃあ、早速行きましょうか」
ララが自分の肩に移動を終えた事を確認し、カーネが「あ、はい」と答えて私の後に続く。『見えない何かがそこに居るのだろうな』と、誰でも察する事が出来てしまう仕草を一切隠せていないカーネを、心から可愛いなと思った。
◇
ウォセカムイ地区にある商店街の一角にあるマジックアイテムなどを扱う専門店に着いた。王都でありながら、セレネ公爵領と隣接している関係でルーナ族がこっそり経営する店が多い地域なのだが、この店はそういう特性のある地域だとは知らずにヒト族が開いた店だ。ヒト族が扱う魔法は、やはりヒト族が書いた魔導書の方が適しているからと初来店したのだが、聞き齧っている前評判は悪くないからきっと問題無いだろう。
生活魔法や攻撃魔法の呪文や魔法陣などについて書かれている魔導書や、マジックアイテム制作には不可欠な魔石も置いてある。魔法を学んでいない者でも簡単な魔法なら一回だけ使える使い捨ての“スクロール”というアイテムも扱っているから客層はかなり幅広そうだ。店内にずらりと置かれた本棚には魔導書だけじゃなく、薬瓶も数多く並ぶ。光を嫌う商品も多いからか店内は少し薄暗く、薬草も取り扱っているからか植物の匂いが充満していた。
「…… 圧巻ですね」
薄気味悪い顔をしたマンドラゴラの植えられた植木鉢にチラリと視線を落としながら、カーネが呟く。昼ご飯の時間が近いからか店内に客は二、三人程度しかいないのだが、独特な雰囲気のせいかつい小声になるみたいだ。
「生活魔法に関して書かれた魔導書はこちらみたいですね」
本棚の並ぶ方を指さして店内を進む。靴音を響かせ、親を慕う鳥みたいに私の後を着いて来てくれる姿が愛らしい。
「わぁ…… 生活魔法に関しての本だけでも、結構種類が多いんですね」
本棚二つ分を占領しているコーナーを前にしてカーネが驚いている。そんな姿を微笑ましく思いながら私はその中の一冊を手に取り、彼女に渡した。
「手持ちの中でお貸ししようと思っている本も悪くは無いのですが、こちらの魔導書は初心者にオススメです。急に上級者の魔法まで網羅している本に手を出すよりは、段階を踏んで、少しづつ学んでいく方がいいでしょう。何事も基礎が一番重要ですから」
元々カーネは物覚えは悪い方ではないのだが、“本”の“聖痕”を取り返しているおかげで一度読んだ本は全て記憶出来る。だからこそ記憶を整理し易い様、順々に頭の中に入れておいた方がいいだろう。
「そうですね」
「此処にも並ぶ中級者や上級者向けの本は保有しているので、初級の本を読み終わったら順次お渡ししますね」
「はい。ありがとうございます」
余程楽しみなのか、カーネの瞳が輝いている。私もヒト族が書いた魔導書はあまり読んだ経験がないから色々目を通して追加で買っておくとしよう。どうせだから厳選した物を選んであげようと心に決めた。
何冊か気になった本を手に取って中を見てみたが、やはり公爵家にある魔導書や王立図書館に並ぶ本と比べると、初級者向けとはいえ随分と簡略化された内容の物ばかりだった。魔法を扱えはしても、知識が完全に欠如している彼女には丁度いいが、これらもすぐに読み終えるだろうから他の本の手配はすぐにでもしておいた方が良さそうだ。
「…… あれ?」
手に取っていた本を閉じ、棚に戻した辺りで隣にカーネが居ない事に気が付いた。彼女の気配がする方へ向かうと、攻撃魔法に関して書かれた魔導書が多く並ぶ棚の前でカーネは本棚を見上げていた。
「興味があるんですか?」
「そう、ですね。護身程度には」
「なるほど」と頷き返す。私達が守るから覚える必要は無いと言いたい所だが、人生何があるかはわからない。前世でその事を痛い程に痛感済みなので、攻撃魔法もいずれは教えておくか。
「じゃあ、こっちも初級から目を通してみてはどうでしょう?あ、でも呪文を声に出して読むのは絶対にやめて下さいね」
「もしかして、危険なんですか?」
「生活魔法の呪文くらいなら暴発したって埃だらけになるとか、過度なまでに効果がアップしてもせいぜい対象が新品同様になるくらいで済みますが、攻撃魔法だとそうはいきませんからね。無詠唱で魔法が使える者があえて詠唱をして魔法を使うと、効率良く魔力を引き出せてしまって威力が過剰になりがちなので、慣れがないと返って危険なんですよ」
「あ、そうですよね」
深く納得したのか、カーネが何度も頷く。この様子なら好奇心に負けて一人勝手に唱えてしまう心配はいらなさそうだ。
「——魔力の暴走といえば、さっきの花火はシスさんも見ましたか?」
「あ、はい。昼間なのに綺麗でしたね」
自分の感情と魔力の暴走だったので実は外を見てもいないのだが、どんな暴走をしていたのかくらいは想像がつくので誤魔化せるだろう。
「実は私…… 初めて花火を見ました」
「夜の方がもっと綺麗ですよ。そうだ、今度一緒に見に行きませんか?年越し時期に毎年打ち上げ花火があがるので」
「是非見てみたいです」
私の提案に太陽みたいに眩しい笑顔を返してくれた。流石は太陽神・テラアディアに祝福された魂なだけある。ただ傍で笑ってくれるだけで、私の心を癒してくれるのだから。
(たとえそうじゃなくても、私からの愛は変わらないけどな)
店内をしばらく見て回っていると、昼になったからか少しお腹が空いてきた。カーネも同じだったのか、気恥ずかしそうに腹を押さえているからきっと、空腹を訴えてグゥと鳴ってしまったのだろう。
「そろそろお昼にしましょうか」
「いいですね」とカーネが素直に返してくれる。少しは私に慣れてきたのか、無駄な遠慮がなくなってきてくれてとても嬉しい。
会計を済ませて店を出る。だがその時随分と荷物が軽い気がして紙袋の中を確認してみると、買ったはずの本が二冊分程足りていなかった。きっと店員が入れ忘れたのだろう。
「すみません、受け取り損ねた本があるのでちょっとレジに戻りますね。少しの間此処で待っていてもらってもいいですか?」
一人で待たせるのは多少不安ではあるが、カーネの足元にはちゃんとララが居て、周囲を見回しながら護衛しているから平気だろう。
「わかりました」と言い、カーネが店の入り口のすぐ近くに立つ。礼儀正しく待機する姿が飼い主を待つ犬みたいでちょっと可愛い。
店に戻り店員に声を掛けると、思った通り買った本がカウンターの上に置きっぱなしになっていた。勤め始めたばかりの店員が会計をし、不慣れなせいで袋に入れ忘れたらしく、会計をした店員と店長が謝罪をする。早々にカーネの元に戻りたいのになかなか謝罪が終わらない。お詫びに何かサービスすると言われたりもしたせいで余計に時間が掛かってしまった。
慌てて踵を返してカーネの待機していた場所に向かう。
——だが、そこに彼女達の姿は無かった。
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