いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

月咲やまな

文字の大きさ
19 / 93
第二章

【第七話】二日目の夜の攻防戦・前編

しおりを挟む
「さてと」と言いながら、焔が椅子から立ち上がる。手には草餅を食べ終わった後の食器を持ていて、今回はきちんと台所へ下げる気でいるみたいだ。

「俺はこれから風呂にでも入って、後はもう寝ておこうと思うんだが、お前達はどうする?」

 台所のスペースに焔が食器を置くと、後を追うようにソフィアがやって来て、『後はお任せくださいませ』と言いながらササッと洗い物を済ませていく。洋書の姿をした彼は洗い物も念力でおこなうから、どうしてもマジックか見世物みたいに思えてしまう。宙を食器や洋書が舞い踊るみたいで、何度見ようがつい魅入ってしまいそうだ。

『ワタクシはまた周辺の探索に行ってこようかと思います。実は昨日見付けた洞窟がちょっと気になっておりまして。もしかしたらそこで、鉱石や水晶などが取れるかもしれませんよ』

「すっかりソフィアさんは冒険者ですね」
 リアンも一緒に台所に立ち、焔の肩に手をそっと置く。避けられるかな?と少し思っていたのだが、何も反応がないので、その手は置いたまま話を続けた。
『広範囲を動いた経験が今まで無いもので、今回は良い機会だなと思いまして』
 正体が付喪神である為仕方の無い事だと割り切っていたのだが、それでもやっぱり自由に行動出来ると嬉しくって仕方が無い。しかもゲームシステムの様な世界とあっては、より一層探索のし甲斐があった。

「なるほど。ならば私は楽しみを邪魔せぬように、主人と留守番していますね」

 共には行かない理由を得て、リアンは焔の背後で和やかに微笑んだ。
「水晶があれば、杖などを作る事も出来る様になりますね」
『溶鉱炉を用意すれば、我々でもリアン様のようにガラス製品も造れるようになるので、色々とまた、手元が潤うのではないかと』
「それらを売って資金にし、宝石や毛皮を店で買う事も出来ますから、いいと思いますよ」
 出来れば『魔族狩りをして素材を集めよう』という流れにならぬ様にリアンが言葉を選ぶ。
 まんまと彼の誘導に流され、「じゃあ明日も、クラフト作業をやって終わる感じになりそうだな」と焔が言った。

『ですが、森には兎や鳥などもいますから、それらを狩って毛皮や羽毛集めをするのもいいかもしれませんね』
「じゃあ、明日は狩りだな」

(ソフィアァァァァァッ!)

 ソフィアの提案のせいで、リアンの髪が少し逆立った。
 表情は変わらぬままどうにか保ったのだが、どうしたって感情を隠しきれない。折角簡単に焔は誘導出来たのに、ソフィアが狩りを提案してしまった事で明日の予定が、想定したく無い方向に決まってしまったからだ。
 この地域はまだ生まれたばかりなおかげで魔物などの気配は無いが、いつ何時やって来ても可笑しくはない。むしろ人間達に領地を広げられる前にと、彼らならば率先して進軍してくる可能性だって大いにあり得る。そうなっては自分の居場所がバレてしまい、連れ戻される可能性が出て来てしまうが…… さて、どうしたものか。

『ではワタクシは早速行って来ますね。朝までには戻りますので、お二人はどうぞごゆっくりお休み下さい』

 そう言って、そそくさとソフィアが扉に向かって飛んで行く。
 焔は彼に向かって「気を付けてな」と声を掛けると、リアンが肩に手を置いているのも構わずにそのまま歩き出し、チェストの一つを開けて中からタオルを一枚取り出した。

「じゃあ俺は風呂に行くな」

 軽く振り返り、リアンの顔を見上げながら焔が言う。
「では私も一緒に」
「いや、駄目だろ」
 間髪入れずに、リアンは拒否されてしまった。
「魔力は十分あるだろう?」と、焔が渋い顔に。
「何も魔力が欲しくてではなく、ただ男同士一緒に入っても構わないかなと思っただけですよ?」

「…… びぃえるの世界なのに、か?」
 聴き慣れない言葉は上手く発音出来ない焔がちょっと可愛い。

 二度+αの経験により、すっかりリアンに対しての警戒心が上がっている。風呂なんか一緒に入って、何も起きずに済むとはとてもじゃないが思えなかった。
「そ、それは、まぁそうですけど。ですが、いつも性的な目で焔様を見ている訳では…… 」
 嘘なせいか口籠もり、途中からきちんと言えない。
「そうなのか?まぁ、お前からは嘘っぽい臭いはしないからな、きっと本心なのだろうな」

「…… 焔様は、嘘を…… 見抜けるのですか?」
 リアンの心臓が、バクンッと跳ねる。

 嘘と真実を見分けられてしまっては、不都合な事があまりに多い。もし何かのきっかけで『お前が魔王なのか?』と問われれば、真正直に真実を打ち明けねばならないのか?と不安が募った。
「あぁ。じゃないと色々不都合の多い事をさせられていたからな、元の世界では」
 今はその能力が全く機能していないと気が付いていない焔が、あると断言する。
「…… そう、なのですか。それはとても、便利ですね」
 和やかに、不自然なほど穏やかな表情を浮かべながらリアンが微笑む。

 一体彼は元の世界ではどんな事をしていたのだろうか?
 待ってくれ。そもそも本当にそんな事が可能なのか?
 もしかして、元の世界では心理学者的な者で、相手の嘘を見破る事が得意だという意味だろうか——と、色々な考えがリアンの頭をよぎった。

「便利、か。どうなのだろうな。人はどうしたって嘘をつく生き物だ。恋しいと言いながら、内心では相手を殺したい程憎んでいたり、また逆もあるからな。生きていくうえで嘘は切り離せないものでもある。嘘を言いたくなる気持ちもわかるし、嘘を言うことで円滑に進む物事もある。なのにソレを見抜けてしまうというのは、あまり気分の良いものではないぞ」

「確かにそうですね。すみません考えなしに、便利だなどと言ってしまって」
「いや、いいんだ。他人にもこの心境をわかれという話じゃない。それよりも、風呂だったな。何もしないと言うのなら、一緒に入ろうか」
 しゅんっと凹んだ様子だったのに、『一緒に入ろう』の一言でリアンの表情がパァッと笑顔に戻る。本当に嘘が見抜けるのかどうか気になっていた思いまで、無遠慮な一言を言ってしまったなと落ち込んでいた気持ちと共に飛んでいってしまった。
「では私は着替えを持って来ますから、焔様は先にお入り下さい」
「いいのか?じゃあ先に入ってる」
 そう言って焔が先に風呂場へ向かって歩き出す。
 嬉しそうに顔を緩ませながらリアンが階段を登ろうとした時、「そういえば——」と焔が彼に声を掛けた。

「名前を、ソフィアの前では口にしないでくれていたな」

 その場に立ち止まり、焔がリアンの方へ顔を向けた。
 目隠しのせいもあって主人の表情が全く読めない。その為リアンは「昨夜の様子ですと、名前は極力口にしない方が良いのかと思いまして」と素直に考えを伝えた。
「間違った判断でしたか?」

「あぁいや、問題無い。ただ、ソフィアは既に俺の名前を知っているから、もし言ってしまっていても支障は無かったんだ。でも、言わないクセをつけてくれる方が俺の心境的にはありがたいからな。もし街中で名前を叫ばれようものなら、その場で人目も気にせず、お前のど頭をその大きな角ごとカチ割ってしまうだろうからな」

 初対面の時の地面を思い出し、『コイツならやりかねん』とリアンの顔が蒼白になる。それと同時に、正しい判断をしていた自分の事を褒めてやりたくもなった。

「此処は異世界だ。名前に拘る必要が無い事はわかっている。でもな、心境的にどうしたって譲れないものは、お前にだってあるだろう?」

 譲れないもの。
 あぁ、俺にだってもちろんある…… 。
 仲間との絆が欲しい。
 今みたいに、存在意義を感じ続けていたい。

 目が大きく見開かれ、黙ってしまったリアンに対して、「お前にもあるんだな」と焔が言う。
「…… はい」
 強く頷いた彼へ、焔が出来る限りの笑顔を向けた。
 目元が目隠しのせいで隠れていてもわかる優しい笑顔を前にして、リアンがシャツの胸元をギュッと両手で掴んだ。ドクンドクンと心臓の鼓動が早くなり、好きだという気持ちが無尽蔵に奥から次々と溢れ出てくる。好感度がどうこうなどというシステム的な感情では無く、心の根底から揺さぶられてしまうような感覚だ。具体的な理由まではわかってもらえていなくても、共感し、ただ感情を察してもらえただけで嬉しくって堪らない。

「でもまぁ…… 快楽に流されて、『召喚魔だしな』と、結局はお前に易々と名前を教えた俺にこんな話をされても、ピンとはこないだろうがな」

 ははっと笑いながら背を向けて、風呂場に向かって焔が再び歩き出す。
「いいえ!…… その、ありがとうございます。何がとは言えませんが、とにかく…… 嬉しかったです」
 今目の前に焔が立っていたならば、確実に抱きしめて唇を奪っていただろう。そう思うくらいリアンの胸が高鳴り、落ち着く気配が無い。

「じゃあ先に入ってるな」
「…… はい」

 さっきまでは本当に今夜は何もするつもりは無かったのに、今ではもう、焔を最後まで抱いてしまいたい気持ちでいっぱいになってしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

神様は僕に笑ってくれない

一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。 それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。 過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。 その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。 初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。 ※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。 ※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。 ※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...