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『ふざけんじゃねぇ!』って、言えますか?
何かの縁
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「ていうことがあったんだよ」
ここはカフェ・トリン。健志郎行きつけの店で、何も無い時に好きなだけ溜まっているだけななので、店長にとってはたまったものではない。
「で、この子が同居人?」
カフェの店長、小林孝は満瀬を一瞥した。満瀬はこくこく、と頷く。孝はにこやかに笑って、
「こんばんは、小林孝です。健志郎とは昔からの知り合いで、カフェを営んでます。良かったら今度、友だちも誘ってこいつ抜きで来てくださいね」
と自己紹介してくれた。満瀬はこくこく、と頷く。健志郎は思わぬ悪口と了承の相づちにちっ、と舌打ちした。
「しかし、奇妙な話だね。なんで家譲るなんて言ったんだろうね、お母さん」
「母は昔から破天荒な性格で……、大ざっぱにしか説明しないし……」
満瀬の両親は大手のアパレル通販の会社を経営していて、海外出張もよくあることではある。またお母さんの気まぐれかなあ。そう思うと、何となくだが納得がいく満瀬であった。
健志郎はカウンターから大きく身を乗り出して、孝の顔面に接近する。
「孝くんお願い! 俺泊めて! 1週間だけ!」
「いやだ」
孝はぷいと反対を向いて、洗浄機を開ける。洗浄機から湯気がぶわっと湧き出た。
「えー! なんで!」
「彼女と同居してるから。お前とは違うの。だいたい、お前ん家はどうしたんだよ」
孝がそう言うと満瀬はそうだ、と思った。健志郎が自分の家に引き戻ればそれで済む話である。満瀬と孝は、健志郎に注目する。そんな期待に胸膨らます2人の視線を感じて、健志郎は頭をかく。
「いや、俺、家今日追い出されて来たからさ、家賃滞納で」
開いた口が塞がらなかった。満瀬と孝は、ぱちぱちと瞬きをするので精一杯で、固まってしまった。
「ねー、孝くんお願いします! 泊めて!」
「だから、ぼくは無理だって。潤のとこいけば?」
結局、健志郎の宿は決まらずじまいで、2人は店を出た。街灯の照らす道。白い線を辿って、とぼとぼと歩いていく満瀬と健志郎。
「あ、あの」
「何だよ……」
「どうして私も一緒に来なければいけないんでしょうか……」
健志郎は道端のコーラ缶を蹴り飛ばして、満瀬を見つめる。強烈な目力に、満瀬はごくりとかたずを飲む。しばしの硬直。そして、健志郎は口を開いた。
「俺、夜道苦手でさ……」
2人が次にやってきたのは大きな公園。遊具のある遊び場ゾーンと更地のグラウンドゾーンがあるこの公園の、グラウンドゾーンに1人でタバコを吸っているのが、平尾潤である。潤はすぐに人影に気づき、健志郎と分かるとはめていたヘッドホンを首にかけ、挨拶した。
「健志郎くんか」
「久しぶり、潤。今日さ、お前ん家泊めて! お願い!」
「は……?」
満瀬と健志郎は、とりあえず状況を説明した。潤はタバコを吸いながら、スパスパと口でタバコを動かして相づちを送りながら聞いてくれた。
「と、いうことなんだ。頼む!」
「ど、どうか健志郎を泊めてあげてください……」
そう言って2人はぺこり、と頭を下げる。潤は2人の頭をじーっ、と見つめて、
「嫌っすね」
とだけこぼして踵を返した。そのままバイクに鍵をかけ、エンジンをふかす。ドゥルルルン! と、広いグラウンドに力強く鳴り響くエンジン音。健志郎は必死に潤のバイクにしがみついた。
「ドゥルルルンじゃないよ、頼むよ1週間でいいからさあ」
「勘弁してくれよ、何が悲しくて幼なじみと1週間暮らすんだよ、どけ!」
「頼むよそこをなんとかー!」
「だいたい健志郎くんが家賃滞納してるのが悪いだろ! しばらくその子の家に居るってことでいいだろ! ほらどけ!」
耳に鋭く響くエンジン音と共に去っていく潤を、健志郎と満瀬はただ見つめることしか出来なかった。
結局居候先は見つからず、健志郎はうなだれながら帰り道を歩いた。満瀬は、何も言わずに横についていた。なんか、へんな日になったな、と思う。そして、この健志郎のうなだれ様。なんだか、可哀想に思えてきた。満瀬は健志郎の顔を見つめる。
「あの……、もし良かったら、新しい家が見つかるまで、ウチに居ませんか……?」
「え……?」
健志郎は信じられないというような瞳で、満瀬を見つめた。とても嬉しそうである。
「もともと、母がもう少ししっかり説明してくれていたらこんなことになりませんでしたし、その、嫌でなければ、最初の話通り、ウチにいてください……」
「い、いいの……?」
「は、はい……」
健志郎は、本当に嬉しそうだった。それを見ると、なんだかこちらも嬉しい気持ちになる。健志郎は泣きながらかっちりと握手をして、満瀬の家にしばらく厄介になることを決めた。
満瀬は星空を見上げる。夜道って、ちょっとだけ綺麗だな。これも、何かの縁だし、お父さんとお母さんが出張から帰ってくるまで寂しいし、まあ、いっか。
これから始まる長い長い1ヶ月。何が起こるのか、2人はまだ知らない。
ここはカフェ・トリン。健志郎行きつけの店で、何も無い時に好きなだけ溜まっているだけななので、店長にとってはたまったものではない。
「で、この子が同居人?」
カフェの店長、小林孝は満瀬を一瞥した。満瀬はこくこく、と頷く。孝はにこやかに笑って、
「こんばんは、小林孝です。健志郎とは昔からの知り合いで、カフェを営んでます。良かったら今度、友だちも誘ってこいつ抜きで来てくださいね」
と自己紹介してくれた。満瀬はこくこく、と頷く。健志郎は思わぬ悪口と了承の相づちにちっ、と舌打ちした。
「しかし、奇妙な話だね。なんで家譲るなんて言ったんだろうね、お母さん」
「母は昔から破天荒な性格で……、大ざっぱにしか説明しないし……」
満瀬の両親は大手のアパレル通販の会社を経営していて、海外出張もよくあることではある。またお母さんの気まぐれかなあ。そう思うと、何となくだが納得がいく満瀬であった。
健志郎はカウンターから大きく身を乗り出して、孝の顔面に接近する。
「孝くんお願い! 俺泊めて! 1週間だけ!」
「いやだ」
孝はぷいと反対を向いて、洗浄機を開ける。洗浄機から湯気がぶわっと湧き出た。
「えー! なんで!」
「彼女と同居してるから。お前とは違うの。だいたい、お前ん家はどうしたんだよ」
孝がそう言うと満瀬はそうだ、と思った。健志郎が自分の家に引き戻ればそれで済む話である。満瀬と孝は、健志郎に注目する。そんな期待に胸膨らます2人の視線を感じて、健志郎は頭をかく。
「いや、俺、家今日追い出されて来たからさ、家賃滞納で」
開いた口が塞がらなかった。満瀬と孝は、ぱちぱちと瞬きをするので精一杯で、固まってしまった。
「ねー、孝くんお願いします! 泊めて!」
「だから、ぼくは無理だって。潤のとこいけば?」
結局、健志郎の宿は決まらずじまいで、2人は店を出た。街灯の照らす道。白い線を辿って、とぼとぼと歩いていく満瀬と健志郎。
「あ、あの」
「何だよ……」
「どうして私も一緒に来なければいけないんでしょうか……」
健志郎は道端のコーラ缶を蹴り飛ばして、満瀬を見つめる。強烈な目力に、満瀬はごくりとかたずを飲む。しばしの硬直。そして、健志郎は口を開いた。
「俺、夜道苦手でさ……」
2人が次にやってきたのは大きな公園。遊具のある遊び場ゾーンと更地のグラウンドゾーンがあるこの公園の、グラウンドゾーンに1人でタバコを吸っているのが、平尾潤である。潤はすぐに人影に気づき、健志郎と分かるとはめていたヘッドホンを首にかけ、挨拶した。
「健志郎くんか」
「久しぶり、潤。今日さ、お前ん家泊めて! お願い!」
「は……?」
満瀬と健志郎は、とりあえず状況を説明した。潤はタバコを吸いながら、スパスパと口でタバコを動かして相づちを送りながら聞いてくれた。
「と、いうことなんだ。頼む!」
「ど、どうか健志郎を泊めてあげてください……」
そう言って2人はぺこり、と頭を下げる。潤は2人の頭をじーっ、と見つめて、
「嫌っすね」
とだけこぼして踵を返した。そのままバイクに鍵をかけ、エンジンをふかす。ドゥルルルン! と、広いグラウンドに力強く鳴り響くエンジン音。健志郎は必死に潤のバイクにしがみついた。
「ドゥルルルンじゃないよ、頼むよ1週間でいいからさあ」
「勘弁してくれよ、何が悲しくて幼なじみと1週間暮らすんだよ、どけ!」
「頼むよそこをなんとかー!」
「だいたい健志郎くんが家賃滞納してるのが悪いだろ! しばらくその子の家に居るってことでいいだろ! ほらどけ!」
耳に鋭く響くエンジン音と共に去っていく潤を、健志郎と満瀬はただ見つめることしか出来なかった。
結局居候先は見つからず、健志郎はうなだれながら帰り道を歩いた。満瀬は、何も言わずに横についていた。なんか、へんな日になったな、と思う。そして、この健志郎のうなだれ様。なんだか、可哀想に思えてきた。満瀬は健志郎の顔を見つめる。
「あの……、もし良かったら、新しい家が見つかるまで、ウチに居ませんか……?」
「え……?」
健志郎は信じられないというような瞳で、満瀬を見つめた。とても嬉しそうである。
「もともと、母がもう少ししっかり説明してくれていたらこんなことになりませんでしたし、その、嫌でなければ、最初の話通り、ウチにいてください……」
「い、いいの……?」
「は、はい……」
健志郎は、本当に嬉しそうだった。それを見ると、なんだかこちらも嬉しい気持ちになる。健志郎は泣きながらかっちりと握手をして、満瀬の家にしばらく厄介になることを決めた。
満瀬は星空を見上げる。夜道って、ちょっとだけ綺麗だな。これも、何かの縁だし、お父さんとお母さんが出張から帰ってくるまで寂しいし、まあ、いっか。
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