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優しい国編
01 呪いのネジ
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ある者は思った、悪魔とはこの様な人間を言うのだと。
ある者は思った、他人の苦しみが自分の喜びに成りうる人間が居るのだと。
ある者は思った、人を人とは思わずゴミ屑の様にしか思えない人間が居るのだと。
ある者は思った、産まれた時から邪悪な人間が存在するのだと。
ある者は思った、ある者は思った、ある者は思った……。
そしてその全てのある者達が思った、あの男を呪ってやると。
そして今、ようやく呪いが成就されようとしている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その存在をその国の人々は神と崇めていた。
その昔、その存在は優しい国を創った。人々は常に優しく、他人を思い遣り、疑うことなど必要のない夢と希望に溢れた国を。そして優しい国を他国から守る為に世界最強の兵器も置いた。だから自分が創った優しい国から聞こえてきた人々の呪いの声を気に留めたのは必然だった。
コーヒーを飲みながら何気なしに癒されるだけの優しい世界を覗いていると黒くどんよりとしている場所があるから何ごとかと声を聞いて見たのだ。
すると自分の創った優しいはずの人間達がどす黒い感情を剥き出しにしているではないか。
その感情の矛先は一人の男へ集中していた。
『優しき者達よ安らかであれ』とその存在は思い、矛先の男へ呪いを届けてやった。
ネジを……。
その男は幼い頃に頭を強く打ち頭のネジが抜けていた。それを戻しただけだ。
しかし男にとってネジが戻る事は最悪の呪いとなって降りかかるだろう。
『呪いは達した、安らかであれ。』
その存在は薄く微笑むと何処かへ行ってしまった。
ネジを戻された男と呪いをかけた数えきれない人間達を残して……。
しかし暫くして戻って来るとまたそこを覗いた。
『これもまた私の愛しき人間だ。男には希望を一粒だけ与えよう。』
そう言って満足気に微笑むと席を立ち今度こそ2度と戻ることはなかった。
その存在は悟ったのだ、自分を癒してくれていた優しい世界が汚れてしまった事を。
優しき人々はたった1人の邪悪な男に汚染され『邪』・『悪』を知ってしまった。
これでは2度と優しき国は見ることが出来ない。
その存在にとってその国はいらない物になり捨てられたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
男は常日頃思っていた。
ゴミ共が何故この俺と口を利けるのだろう?
ゴミ共が何故この俺と同じ空気を吸うのだろう?
ゴミ共が何故この俺と目を合わせるのか?
ゴミ共が何故、ゴミ共が何故、ゴミ共が何故……。
ゴミ共は地べたに這いつくばらせ、泣き顔でも見る事が出来たら存在してもいいとしよう。と決意したのは幼い頃だったが最近破ってもいいかなと思い始めていた。
男には力と金と権力があったし王以外なら全ての人間を陥れる事が出来る。
全ての人間は、男の玩具だった。
この先行けば王さえも玩具になりえた。
ぐるり。ぐるり。ぐるり。
?
運命の日、男への呪いが成就したその時男の頭の中で何かが回っていく音がした。
1つ回る毎に考えが変わっていく。
ぐるり。
この俺と口が利けるのは同じ言葉を話す人間だからだろう。
ぐるり。
この俺と同じ空気を吸うのは同じ場所にいて俺の生活を世話して助けてくれているからじゃないか。
ぐるり。
この俺と目を合わせるのは俺と関わってくれてるからだろう。
この俺と、ぐるり。この俺と、ぐるり。この俺とぐるり。……。
ピタ。そして全てのネジが回りきった時男は思った。
自分以外の人間が存在するのは当たり前の事じゃないか、自分以外誰もいなかったら自分すら存在していないと同じになってしまう。
……俺は一体今まで何を?
青褪め口許を押さえてその場に蹲った男を見て人々はどうしたらいいのか躊躇した。
駆け付け支えたら八つ当たりで何をされるか分からない。
かと言って何もしないで傍観していても助けなかったと恨みを買い何をされるか分からない。
ピンと張り詰めた静寂が暫く続いた。
「大事ない、失礼する。」
男は居たたまれなくなり、気分はめっぽう悪かったがその場を逃げるように後にした。
男が去ると人々の喧騒が戻ってきた。
この国のNo.2、もしかしたらNo.1の宰相閣下がいつもの辛辣な言葉も発さず、蔑んだ瞳も見せず会議をものの5分で退室した事は彼が宰相になってから初めての事だったので歓迎すべき事だったが、彼の悪行を思うと安心出来ず皆は緊張した面持ちで会議を続けた。
男はただひたすらに安心出来る場所へ行きたかった。全ての人間に殺したいほど恨まれている自覚があったからだ。
恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、俺が今までしてきた事は100万回生きたまま焼かれてもおかしくはない程の恨みだろう。
男はただそれが恐ろしかった。してきた事への後悔は勿論ある。だが今はその報復が唯唯恐しかった。
男は自分がどんな目に合うか怖かったのだ。
男はネジが戻った事によって、今まで抜けていた感情。
【道徳心】と【恐怖心】を生まれて初めて覚えたのだった。
ある者は思った、他人の苦しみが自分の喜びに成りうる人間が居るのだと。
ある者は思った、人を人とは思わずゴミ屑の様にしか思えない人間が居るのだと。
ある者は思った、産まれた時から邪悪な人間が存在するのだと。
ある者は思った、ある者は思った、ある者は思った……。
そしてその全てのある者達が思った、あの男を呪ってやると。
そして今、ようやく呪いが成就されようとしている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その存在をその国の人々は神と崇めていた。
その昔、その存在は優しい国を創った。人々は常に優しく、他人を思い遣り、疑うことなど必要のない夢と希望に溢れた国を。そして優しい国を他国から守る為に世界最強の兵器も置いた。だから自分が創った優しい国から聞こえてきた人々の呪いの声を気に留めたのは必然だった。
コーヒーを飲みながら何気なしに癒されるだけの優しい世界を覗いていると黒くどんよりとしている場所があるから何ごとかと声を聞いて見たのだ。
すると自分の創った優しいはずの人間達がどす黒い感情を剥き出しにしているではないか。
その感情の矛先は一人の男へ集中していた。
『優しき者達よ安らかであれ』とその存在は思い、矛先の男へ呪いを届けてやった。
ネジを……。
その男は幼い頃に頭を強く打ち頭のネジが抜けていた。それを戻しただけだ。
しかし男にとってネジが戻る事は最悪の呪いとなって降りかかるだろう。
『呪いは達した、安らかであれ。』
その存在は薄く微笑むと何処かへ行ってしまった。
ネジを戻された男と呪いをかけた数えきれない人間達を残して……。
しかし暫くして戻って来るとまたそこを覗いた。
『これもまた私の愛しき人間だ。男には希望を一粒だけ与えよう。』
そう言って満足気に微笑むと席を立ち今度こそ2度と戻ることはなかった。
その存在は悟ったのだ、自分を癒してくれていた優しい世界が汚れてしまった事を。
優しき人々はたった1人の邪悪な男に汚染され『邪』・『悪』を知ってしまった。
これでは2度と優しき国は見ることが出来ない。
その存在にとってその国はいらない物になり捨てられたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
男は常日頃思っていた。
ゴミ共が何故この俺と口を利けるのだろう?
ゴミ共が何故この俺と同じ空気を吸うのだろう?
ゴミ共が何故この俺と目を合わせるのか?
ゴミ共が何故、ゴミ共が何故、ゴミ共が何故……。
ゴミ共は地べたに這いつくばらせ、泣き顔でも見る事が出来たら存在してもいいとしよう。と決意したのは幼い頃だったが最近破ってもいいかなと思い始めていた。
男には力と金と権力があったし王以外なら全ての人間を陥れる事が出来る。
全ての人間は、男の玩具だった。
この先行けば王さえも玩具になりえた。
ぐるり。ぐるり。ぐるり。
?
運命の日、男への呪いが成就したその時男の頭の中で何かが回っていく音がした。
1つ回る毎に考えが変わっていく。
ぐるり。
この俺と口が利けるのは同じ言葉を話す人間だからだろう。
ぐるり。
この俺と同じ空気を吸うのは同じ場所にいて俺の生活を世話して助けてくれているからじゃないか。
ぐるり。
この俺と目を合わせるのは俺と関わってくれてるからだろう。
この俺と、ぐるり。この俺と、ぐるり。この俺とぐるり。……。
ピタ。そして全てのネジが回りきった時男は思った。
自分以外の人間が存在するのは当たり前の事じゃないか、自分以外誰もいなかったら自分すら存在していないと同じになってしまう。
……俺は一体今まで何を?
青褪め口許を押さえてその場に蹲った男を見て人々はどうしたらいいのか躊躇した。
駆け付け支えたら八つ当たりで何をされるか分からない。
かと言って何もしないで傍観していても助けなかったと恨みを買い何をされるか分からない。
ピンと張り詰めた静寂が暫く続いた。
「大事ない、失礼する。」
男は居たたまれなくなり、気分はめっぽう悪かったがその場を逃げるように後にした。
男が去ると人々の喧騒が戻ってきた。
この国のNo.2、もしかしたらNo.1の宰相閣下がいつもの辛辣な言葉も発さず、蔑んだ瞳も見せず会議をものの5分で退室した事は彼が宰相になってから初めての事だったので歓迎すべき事だったが、彼の悪行を思うと安心出来ず皆は緊張した面持ちで会議を続けた。
男はただひたすらに安心出来る場所へ行きたかった。全ての人間に殺したいほど恨まれている自覚があったからだ。
恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、俺が今までしてきた事は100万回生きたまま焼かれてもおかしくはない程の恨みだろう。
男はただそれが恐ろしかった。してきた事への後悔は勿論ある。だが今はその報復が唯唯恐しかった。
男は自分がどんな目に合うか怖かったのだ。
男はネジが戻った事によって、今まで抜けていた感情。
【道徳心】と【恐怖心】を生まれて初めて覚えたのだった。
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