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第1章
08 兄と弟の秘密のおままごと
しおりを挟む小さいが剣を毎日握っているから年齢にしてはゴツゴツした掌にコロンと綺麗な青い石が乗っている。
「お兄様、お誕生日おめでとうございます。これ、お兄様の瞳の色と同じ石でとても綺麗だったから……」
生き残るための修行に夢中になっているうちに俺は12才の誕生日をむかえた。
もじもじと赤くなってサファイヤの原石を俺に差し出すアレンはいつも以上に愛らしくてずっと見ていられる。
「……ありがとう。俺の瞳はこんなに美しいか?」
俺はアレンの掌からから石を貰うと、自分の目の横に並べアレンに顔を近付けた。
「……全然似てない……お兄様の瞳の方が100万倍綺麗。」
ぼぅっとしてアレンが言うもんだからちょっと本気に取りそうになるがそこは俺、自分を知ってる。
「来年はお前の瞳の色に似た赤い石をくれないか?」
「僕の……?」
不思議そうにアレンが俺を見上げる。
「ああ、離れてもその石を見たら一緒にいられる気分になれるだろう?」
俺がそう言うとアレンは、更に真っ赤になって「はい。」と言って微笑んだ。
そして、アレンの誕生日にはお返しにケーキを手作りすると、アレンは喜び過ぎて一人で食べると言い出し、食べた後にキャパオーバーで盛大に吐いた。そう、俺の料理の腕は確実に上がり、何なら戦いより才能ありそうだ。
しかし相変わらずとんと開花の兆しもない魔法の才能も、アレンとのピクニックのおかげで、ハイヒールを使えるようになった。
もう、剣でスライムを倒す事も出来る。
そしてアレンと一緒なので、レベルも着々とあがり、なんと10レベルに到達していた。
ちなみにアレンは35レベル。7才にして並の剣士より強い。
今では森の魔物では相手にならなくなり、剣術の先生と近くのダンジョンに行っているらしい。さすが未来の勇者アレン。
ダンジョン、憧れる響きだ。行ってみたいが俺のレベルでは到底無理、自殺行為になるから連れていってもらえない。
「ハイヒール!」
この森の魔物は相手にならないはずなのに、アレンは俺と居ると必ず怪我をする。ハイヒールでアレンの傷は完璧に治せるはずなのだが、俺の能力が低いせいでアレンは痛いままらしい。
だからいつも俺がおやつを食べさせなければならない。
アレンは俺の顔を見ながら、形のよい口をパカッと開き、俺の指ごとおやつにかぶりつく。
目がでけぇ。
「おい、俺の指はボンレスハムじゃないぞ。いい加減一緒に食いつくのはよせ。」
「誰の指がボンレスハムですか。こんなに痩せちゃって全然美味しくないです。お兄様は、もっとふくよかな方が美味しそうでいいと思います。」
確かにこの2年で俺は随分と痩せた。
誰もデブとは呼べないだろう。痩せたお陰で動きも俊敏になったし、パンツも靴下も自分で履ける。頬の肉で押し潰されて悪かった視界も痩せて良好になった。
概ね最高だが?
俺は訳が分からないという顔をしていたのだろう。
――つまり、キョトンだ。
「ああっ。もうそんな顔しちゃ駄目ですよっ。昔のお兄様は誰も寄せ付ける隙がなかったのに、今は隙だらけじゃないですかっ!」
意味が全く分からないが未来の勇者には逆らわないでおこうと思う。
「……分かった。気を付けよう。」
アレンがぎゅっと抱きついてくる。
「絶対ですよ?そろそろ帰りましょうか?テレポート。」
胸に頬を擦り付けられながら一瞬で部屋に戻る。
テレポートは体を密着しないといけないらしい。手だけをつないで行うと、手だけが移動するとアレンは言う。
なにそれ、恐ぇ。
だから移動はぎゅっとだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この2年間、どうやったら生き残れるかを常に考えてきた。
メインストーリーの回想シーンではアレンは13才の時、俺に無実の罪をきせられ城を追い出される。
無実の罪とは俺の暗殺未遂だ。俺は死なない程度の毒を飲み、アレンを犯人にしたてあげる。「死刑だ!」と騒ぎ立てる王妃を制し、王が身分剥奪の上、国外追放を言い渡す。アレンは最後まで無実を訴えていた。
はたしてこの俺が毒など飲めるだろうか?
死なない程度の毒ってどのくらいなんだ?大体、この2年間数回しか会っていない王妃が、俺が死にかけたからとアレンに死刑を迫るなんておかしな話だ。
――愛などないくせに。
俺は親よりも血の繋がらないアレンの方が好ましい。これは、この世界がライトオブホープだと気づく前からそうだった。だからアレンに友達が出来そうなら邪魔をしたし、こちらを見てほしくて意地悪ばかりをしていた。ただ、権力があるから質が悪くなってしまった。アレンが勇者になった後も邪魔をしたのはアレンを仲間に取られたくないからだろうか……そう思うと、悪役王子も哀れに思える。
本を抱いてソファにゴロンと横になる。ラインハルトは大切なアレンを何故、毒を飲んでまで追い出したんだ?この先はいつ考えても答えは出なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王に久しぶりに呼び出されたのは、梅雨が明け夏が近づいた頃だった。
同じ城に住んでいるというのにこんなに会わないとは、避けられているとしか思えない。
正装をして王が来る前に深く頭を下げて待つ。言われるまで顔をあげてはいけない。
そして王がお付きの従者と現れた。
王が手をあげると従者が俺に顔をあげるように言った。
――目が合う。
王は赤い瞳を大きく見開き驚いた様子だ。
目がでけぇな。
改めてアレンに似ていると思った。
「しばらく見ない間に随分と変わったな。この目で見るまでは信じられなかったが、なるほど、その姿でアレンをたぶらかしているのか?」
王は俺を冷ややかな目で見下ろした。たぶらかす?魔物の森に行ってるのバレてるのか?冷汗が背中を伝う。
「何の事でしょうか?身に覚えのないことにございます。」
俺は素知らぬ顔を装い惚けた。
「平然と嘘をつく…血は争えんな。」
王の呟きにハッとする。
王は俺が実の子ではないと知っているのか?
「――まぁ、よい。今日はお前の婚約者を紹介する。エスカルド王国第4王女 ティアラ姫だ。今日からこの城に住む事になる。」
「よろしくお願いいたします。」
その時初めて王の隣に小さな少女が立って居る事に気が付いた。少女は深々と頭を下げた後、顔をあげて俺を見る。俺が見つめるとまだ幼いその顔を赤らめた。緊張しているのだろう。
「こちらこそよろしくお願いいたします。ティアラ姫。」
少女の緊張を和らげようと少しだけ笑う。すると少女が白目を剥いて倒れた。そして他数名もバタバタと倒れていったのには心底驚いた。毒ガスでも流されているのかと思ったがそうじゃないらしいのでホッとする。
「……お前は無闇に笑うのを禁ずる。」
王が言った。
どうやら俺の醜悪な笑顔は人を倒せるらしい。今度魔物で試してみよう。ウヒヒヒ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔物の前でニコリと笑う。すると魔物は攻撃をやめ持っていたアイテムをくれた。
「ん?くれるのか?」
俺が戸惑いながらもアイテムを受け取ろうとしたその瞬間、魔物はアレンに真っぷたつに切られた。
「……ひでぇな、おい。」
「その技、誰が教えたんです?」
アレンは可愛い顔をこれ以上ないくらい歪めている。やめろ。何か台無しだ。
「俺があみだした。」
ウヒヒヒ。
「それ、やめないなら、これから先、魔物の森に連れて行きませんからね。」
えっ、ダメなの?
俺もゲームでこの技見たことないけどさ。
そうかぁ、禁じ手かぁ。
そんなに嫌な顔しなくてもいいじゃないか。卑怯な手使って、悪かったよ。
アレンはまだ怒りがおさまらないのか、そこら辺に居る魔物を片っ端から木端微塵にしている。
「王にも禁じられたし、もうしない。」
俺は拗ねていた。知らなかったんだから仕方ないだろう?
「ああ!もう!そんな顔しないで下さいっ。」
ええ!どんな顔だ?俺が痩せたって醜悪なのは変わらないから仕方ないじゃないか。
――俺がお前みたいに見目麗しく生まれてきたら、王に少しは愛されたんだろうか。
まぁ、親の愛を乞う精神年齢でもないが、アレンに似た顔にあそこまで忌み嫌われると少し堪える。
「そうだアレン。ティアラ姫とお前は同じ年だから彼女とたくさん遊んだらいい。」
俺は落ち込んだ気分を変えようとアレンに提案した。
「――へぇ。いいんですか?僕がティアラ姫と「おままごと」しても?」
ズクンッ。
アレンの妖しいものの言にお腹の下の方が疼く。
「いや、「おままごと」はちょっと……」
今でもたまにする「おままごと」は夜の生活までもリアルで、あれはもうペッティングに近くなっている。ティアラとアレンがそんな事したらまずいよな。
「――じゃあ、お兄様、「おままごと」しよう?」
そうして、赤い瞳をギラつかせながら捕食者のように俺に近付くアレンを前に、俺は観念したように瞳を閉じた。
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