主人公をいじめぬいて最後は殺される悪役王子だった事に気付いた10才の俺。

はるか

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最終章

67 さよなら

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憑き物が落ちたように明るい顔をしたユノが「村へ帰ろうと思う。」と言ったのは事件から数日たった頃だった。

「アレンは?」と問うと、「もう、いいんだ。」と笑った。

この前まで村には帰りたい、でも身代わりでもいいからアレンと離れたくない。と言っていたユノが突然帰ると決めた。

あの事件がユノの心の変化を促した事は間違いないだろう。

「あの時のハルを見て思い出したんだ。俺はハルみたいになりたかったって。」

「……俺みたいに?」

俺はユノの言わんとする事がよく分からずに首を傾げる。

「うん。ハルはあの大きな男に勇敢に立ち向かっていって勝っただろう?しかも相手は魔術師だった。誰がどう見たってハルに勝ち目はなかったのにハルは勝ったんだ。俺は怖くて震える事しか出来なかったのに、俺より細くて小さくて体の弱いハルが勝つ姿を見て俺は思い出したんだ。俺は強くなって小さくて優しくて可愛いハルを守れる男になりたかったって。でも急にハルが男前になって、アレンに城に連れて来られて世界がひっくり返った。頼れるのはアレンだけの世界で俺は忘れてしまってたんだ。」

ユノの言葉に俺とアレンでハルとユノの人生を滅茶苦茶にした事実を突き付けられた気がした。

俺は罪悪感を胸に、ユノの両肩をしっかりと掴み思いを込めてじっと見つめた。

「ユノは病気の母親と暮らすハルに自分が怒られようが食べ物を分けてくれてたんだろう?何度も何度も。それがハルにとってどれ程助かったかどれ程嬉しかったかユノは知らないだろう?お前はずっとハルのヒーローだよ。」

ユノはポッと顔を赤くした。

「俺がヒーロー?」

「そうだ。ユノはハルと俺のヒーローで恩人だ。その恩人に俺は自分の罪を被せて酷い目に合わせた。それが後ろめたくて、楽になりたくてユノの気持ちを嘘だって決めつけてアレンから引きはなそうとした。俺は卑怯者だ。」

俺は頭をたれた。

「罪?罪って何さ?ハルが何したって言うんだよ?」

ユノが俺の顔を覗き込んで言う。

がアレンを傷付けた。

だからが償わなければいけないんだ。

「罪なんて最初からなかったんだ。好きな相手に意地悪して苦しめるなんて、子供みたいだ。うん、アレンはまだ子供だったんだよ。子供の恋がこんなに拗れて、回りを巻き込んで、挙げ句の果てに偽者なんか拐って来てさ。でも、偽者でもいいから側に置いとかないとアレンは限界だったんだ。それくらいラインハルトを必要としてた。それなのにいつまでも俺が邪魔してたらアレンは救われない。ハル、ううん、ラインハルト。今までごめんな、本当の事を話そう、そしてアレンを救ってあげよう?」

……アレンに話す?

その言葉に身体がアレルギー性ショックを起こしたように拒否反応を示して震えた。

嫌だ!話したらハルである自分に向けてくれるハチミツ笑顔がなくなるかもしれない。今は愛しいって言ったらあんな見蕩れるくらい綺麗な微笑みで返されるんだ。ラインハルトだって告白したらあの笑顔から一転、「騙したなっ!」ってまた、憎まれ睨まれるかもしれない。「許さない。」って……そんな、そんな恐ろしいこと俺はもう嫌だ。

俺は己の震える体を抱き締めると、凪いだ瞳のユノから視線を反らした。

ユノはそんな俺を抱き寄せ、

「……俺は『ラインハルト』なんかじゃない。だからもう、『ラインハルト』とはさよならしないとな。」

そう言っていつまでも震える俺の背を擦ってくれた。

ユノの決心は固かった。







「――村に帰るだと?俺がそれを許すと思っているのか?」

ユノはその夜アレンに別れを告げに行った。

「別にアレンに許されなくてもいい。ここにこのまま居るくらいなら死んだ方がましだって気付いたんだ。だから明日出ていく。」

帰れないなら死んでもいい。ユノは揺るがない決意を持って伝えた。

「自分の罪を思い出しもしないでそんな勝手な事は許さない。」

ソファに座ったアレンが目の前に立つユノを睨みつける。

「罪って何だよ?思い出せって?俺はラインハルトなんかじゃない。アレンも分かってるくせに!」

いつもと様子の違うユノに苛立ったアレンは立ち上りユノの首を片手で締め上げる。

「!!ぐっ。」

「止めろ!!」

俺は止めようとして必死でアレンの腕にしがみつくがびくともしない。

「お前はライだ。俺の母上を殺した。違うとは言わせない。」

「ぐ、ぐぐ。」

アレンが少しずつユノの細い首を締めていく。

「ぐっ、殺し、た?あれ、はっ、事故、だっ。」

「……何だ、と?」

ユノの言葉にアレンが動揺したように手を離した。

膝をついてゲホゲホとむせながらユノは更にいい放つ。

「ラインハルトが自分に盛られた毒入りのチョコレートをそうとは知らずにアレンのお母さんにあげたんだろう?ラインハルトに何の罪があるって言うんだよ!」

アレンが呆然とユノを見ている。

「自分があげたチョコレートのせいで母親代わりの大好きな人が死んでラインハルトは記憶を失うほどのショックを受けたんだ。……まだ、5才だった。」

「何故、お前が知っている?」

アレンは冷静ではなかったから口が滑った。

『何故、お前が知っている?』ユノが俺の生まれ変りと思っているなら知っていてもおかしくないはずだ。やっぱりアレンはユノがラインハルトの生まれ変りじゃない事を知っていたんだ。……似てるユノを側においてでも憎まないといられなかったなんて、なんて悲しいんだろう。

「何故だって?そんなのこの城に古くからいる人間は皆知ってる。ラインハルトにそっくりな俺にご丁寧に色々教えてくれたよ。皆、ラインハルトは悪くない。悪いのはその母親だった女だってね。」

「黙れ、お前が言うな!ライの顔をしたお前が……己の罪を言い逃れするつもりか。」

アレンはフラフラとよろめきながら額を押さえソファに座った。

「だから罪って?ああ、しいて言うなら罪を犯したのはアレンの方だ。優しいラインハルトに甘えて有りもしない罪をでっち上げて好き勝手に甚振った。そしていなくなっても飽きたらず、生まれ変わりなんて信じたふりをして、今度は関係ない俺までも一生甚振るつもりなの?俺がラインハルトの生まれ変りなんかじゃない事はアレンが1番分かってるくせに。」

「ち、違う。……黙れ、黙れ。」

首を何度もふってアレンがユノの言葉を拒絶する。

「俺はもう付き合えない。俺は俺の道を行くから。……アレン、さよなら。」

『さよなら。』その言葉に反応するかのようにアレンがユノへ手をかざすとユノが壁に叩き付けられた。

「ぐっ!!」

「ユノ!!!」

駆け寄るとユノは頭を強く打ち意識を失っていた。その痛々しく青白い顔を見て、ユノは命を懸けて俺に伝えてくれたんだと悟る。

俺はアレンを真っ直ぐと見た。

「アレン。頼む。もうラインハルトを許してくれないか?」

そんなに憎いならいっそ許して忘れてくれ。そしたらお前は楽になるだろう?

アレンはだだっ子のように首を振る。

「嫌だ。はっ、嫌だ。誰が許すものかっ。だって、俺が許したら……ライは?……ライは何処にいくんだ?」

「何処に……って……。」

「この世界にもうライは居ない。……俺の、この俺の目の前で消えた。」

アレンが血を吐くように声を出す。

「……うん。」

ごめんな。いなくなってごめん。そして、また憎まれたくなくて本当の事を言えないでいる、弱い俺でごめん。

「……ライは居なくなった。……もう誰もその名を紡がない。俺が忘れたら……ライが本当にこの世界から消える。そんな事、俺はもう耐えられない。耐えられないんだ。なぁ、憎んでいたらいつまでもライを忘れる事はないだろう?」

だからライを憎み続ける。忘れないように……。

アレン。

「……夜眠るのが怖いんだ。起きたらライのいない世界がまた始まる。それが永遠に繰り返される。」

――アレン、お前……あれからずっと、ずーっと一人で生きてきたんだなぁ……。

「……誰もいない絶望しかなかったこの世界で、綺麗で、バカで、可愛くて、俺を愛してくれた、誰よりも優しい俺の――

――大好きな兄さん。」

アレンは無表情のまま宝石のように美しい赤い瞳からボタボタと悲痛な涙を流した。

俺は居ても立ってもいられずアレンの元へ走りボロボロ泣いているアレンの頭を掻き抱く。

「なぁ、アレン。ラインハルトはさ、恨みなんかじゃなくて、愛しい気持ちで覚えてて欲しいんじゃないか?」

「……愛しい?」 

「ああ、愛しいだ。」

お前、絶対俺の事好きだったよな?俺はずっと分かってた。分かってお前の好きに甘えてた。お前が本気で俺を嫌いになる事はないって。お前だけは俺を好きでいてくれるって。

「――アレンはラインハルトが愛しかったんだろう?」

俺は体を離し、至近距離でアレンの涙に濡れた赤い瞳を祈るような気持ちで見つめた。

――アレンの虚ろだった瞳にまるで夜が明けるかのようにゆっくりと光が宿っていく。

「……この世の全てだった――

――愛していた。」


ポロリ

その言葉を聞いて俺の瞳から一粒だけ涙がこぼれた。

そして俺はアレンに真実を話す決意をしたんだ。









――次の日、ユノは本当に村へ帰った。



一人で帰ろうとするからアレンにテレポートしてもらえと説得するのに一苦労だった。あいつ、危機感が無さすぎる。ユノが一人で旅をしたらあっという間に絡まれて拐われてどんな目に遭うか……考えただけでも恐ろしい。世間は醜男に冷たいんだぞ?

不満そうに旅がしたかったなぁ、と口を尖らせるユノの前にアレンが立つと何かを囁きそして――


――ゆっくりと頭を下げた。


その光景に俺は目を見張る。

『王とは決して謝罪してならない。王の謝罪、それは国の謝罪を意味する。国の謝罪すなわち降伏にあたる。』

俺が第1王子の頃、口を酸っぱくして教えられた言葉だ。

その後二人は少し会話をしてユノがこちらを向いた。

「ハル、またな!」

「ああ、また。」


晴れ晴れとしたユノの顔に俺の心も軽くなる。何故だろう、もう誰もユノの顔がラインハルトに見える事はない。ユノはユノだ。ずっとユノだったんだ。

ユノは最後に大きく手を振って帰って行った。
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