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最終章

76 ハッピーエンド(最終回)

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アレンに村へ帰るようにと言われた。

アレンは夜も眠れるようになったし、完璧エリクサーは余計な争いを呼ぶとハウスは封印された。俺が王都にいればその力を欲する者達の餌食となる。だからといって俺を守る為に戦力を割く事は好ましくない。だから村に帰って幸せになれと言われた。

寝耳に水とはこの事だった。俺は今日か明日かと自分の正体をばらそうとタイミングをはかっていたが、アレンにはそんな事どうでもよくて、優しい顔で吹っ切れたように言われると何も言えずに素直に首肯くしかなかった。戦争の後処理が終わり落ち着いたら友好国の姫との縁談の話もあるらしい。

アレンは幸せになる。

俺はアレンに必要ない。……正体を話す必要なんてないんだ。


――それからアレンにまた会えなくなり、すぐに帰る前日になった。俺は最後に村で必要な物を買いに街に出た。

道具屋の親父に別れを告げ完璧エリクサーを少し贈った。今まで無理難題を聞いてくれてとても世話になったんだ。

こんなの貰ったら働かなくなっちまうだろうが!と強く背中を叩かれ涙ぐまれた。自分の娘を嫁にやろうと思ってたとの爆弾発言もあり、早く言えよ!と後悔したり(健康的でとても可愛い娘なんだ。)と賑やかな別れになった。

俺の行動範囲といったら道具屋との往復だったから他に行く所もなく家へ戻ろうとした時、子供が目の前を横切った。

いつもはそんな変態じみた事はしないが、その子供の赤い髪に引かれて思わずフラフラとついて行ってしまった。完全にアレンロスだ。

赤い髪の子供は教会に入って行った。

「……。」

中から子供の元気な声が聞こえてくる。
導かれるように中を覗くと誰も居ない。不思議に思い教会の中へ入り奥の方の窓を見ると学校のような所で子供達が元気に走り回っていた。

「ここは……。」

「何かご用ですか?」

声を掛けられ振り向くと神父が微笑みを称え俺を見ていた。

「子供の声が聞こえたもんだから、ここには子供が沢山居るんだな。」

「ああ、騒がしくて申し訳ありません。ここは教会隣接の国営孤児院です。先の戦争で親を失った子もいます。」

――国営孤児院。

「どうかされましたか?」

悪役王子な俺がもし王様になったらやりたかった事……。

アレンは俺の小さな望みを叶えてくれたんだ。胸が一杯になってボタボタと涙が溢れてくる。

勇者で、チートで、優しくて、綺麗で、可愛くて、大好きな俺のアレン。

きゅうっと止めどなく愛しさが溢れてくる。

俺が駄目なんだ。俺がアレンが居ないと駄目なんだ……。

俺はアレンを……。

そして、走馬灯のように浮かんでは消えていくアレンの小さい頃から今までの顔、その顔はいつも俺を求めていた――

沸々と闘志のようなものがあとからあとか湧いてくる。

――そうだな今度は俺がアレンを求める番だ。


そうして俺は決意を胸に前を向き駆け出した。




――会いたいときにアレンはいねぇ。結局俺が強制送還される5分前にアレンは現れた。面倒な事に城の皆もたくさん来てくれている。先の戦争でエリクサーを届けた俺は英雄扱いだ。けど、皆の前で言うのか?はずいな。

「――本当に帰らないと駄目か?」

「駄目だ。」

……駄目かぁ。

よし、言うしかねぇ、ここで言わなきゃ男じゃねぇだろ!やらないで後悔するよりやって後悔してやる!

「俺、アレンと一時も離れたくない。アレンの事……好きだ。」

口を真一文字にして睨むようにアレンを見る。絶対に顔が真っ赤だ。

「そうか。俺も好きだ。」

アレンがいつものように甘い蜂蜜笑顔で俺を見る。

辺りがザワつく。

「いや、アレンの好きと俺の好きは違ってて、俺、アレンとちゅ、ちゅうしたいくらい好きなんだ!アレンの事守りたいし、アレンより大きくなってムキムキになる薬発明してアレンの事抱きたい!んでアレンの事嫁に貰いたい!絶対幸せにする!!」

辺りが更にザワつくが知ったこっちゃない!

俺は鼻息も荒く公開告白した。

「……嫁。それは嫌だ。」

何故か頬を赤く染めたアレンが微妙な表情をしている。

可愛い。頬を染めたアレン可愛すぎる。ああ、ちゅうしたい。でも……。

「そうかぁ。……あっ、ヤベ……。」

ここで我に返った。まずは俺がラインハルトだって言わなきゃ駄目だろうがぁ!!なんかハルがフラれたみたいで申し訳ない。

「――さぁ、送ろう。」

カッコいいアレンが俺の手を握り、今にもテレポートを唱えようとしたから焦った。告白の余韻もへったくれもありゃしねぇ。

「ちょ、待てよ!ピッタリ抱き付かないと危ないだろうが、手だけ切れちゃうだろう?」

慌てて役得とばかりにアレンにぎゅうぎゅうと抱きついた。

「……。」

一向にテレポートする気配がないのでアレ見上げると呆然と立ち尽くすアレンが居た。そして戸惑いと期待の入り乱れたような顔で俺を見る。

「……お風呂で勃った時男同士で慰めあう。」

「うん?常識だな。」

「手掴みで食べさせられた物は指までしゃぶる。」

「うん?他国の奴にはハレンチ言われるがこの国では皆がよくやる事だな。」

「テレポートの時は密着しないと手だけだと手だけ移動する。」

「うん。これは常識も常識。魔術師が抱き締めてくれない時は自分から抱きつかないとな。前に、抱き締めないでアレンがやったから恐怖で気絶したんだよな。あの時はヒールで治ったんだっけ?それからはアレンが抱き締めてからやってくれるから安心だったけど……今日はなんでしてくんなかった?」

「……全部、真っ赤な嘘だ。」

「うん……って、ええええ!!!?」

ガラガラと常識が崩れていく。

抱き締めた手を思わず離した瞬間、死ぬだろうがってくらいの力で抱き締められた。


「……ライ、会いたかった。」



――こんなのは駄目だ、息がとまっちまう。



その時、エンの声が聞こえた――

【正解だ。】

ピューーヒョロロロロローー……。

遠くの空に黒い点が存在したかと思うとそれがどんどん凄い勢いで近付いてくる。

「何だあれは!?」

鳥か!?ロック鳥か!?

「いや!龍だ!!!!!?」

悲鳴のような叫び声に人々がパニックを起こしながらも逃げる事も出来ず死を覚悟する暇もない一瞬の間に、光輝くエンはもうそこにいた。

人々は固まって呆然とその神々しい姿を見つめるしかなかった。

そしてエンはまるで時が止まったかのようなその場で、自分だけが止まっていないように滑らかに俺に近付き翼で包み込むと俺をスッポリと隠した。

【待たせたな。】

光輝くエンの翼に包まれながらあまりの心地好さに意識が飛びかけていると、俺の前に瞳を閉じた俺が登場した。

俺は震える手で俺の頬に触れる。

フニフニ……。完璧に俺だわ。

【早く戻らぬか?小童が恐れ多くも我にお前を返せと攻撃してきてかなわん。】

いきなり現れた龍に俺を奪われたと思っているらしい。

「エン、ありがとな。」

お前、目茶苦茶頑張ってくれたんだろう?10年かかってねぇじゃん。

【ふん。あわよくばお前を連れていこうかと思ったが、姿形が違おうとも、惹かれ合われては諦めるしかないようだな。】

「うん、俺。アレンが大好きなんだ。」

【やっと気付きおったか。】

エンが龍の姿でもふんぞり返っているのが分かる。

「アレンが待ってる。もう、行かなきゃな。」

そして、俺は俺を抱き締めた。そうしたら戻れるって何故か分かったから。

「!?あ、あああああああっ!!!」

次の瞬間、体が焼けるように熱くなりバリバリバリと体から俺が剥がされていくような壮絶な痛みに悲鳴をあげた。こんなに痛いなんて聞いてねぇ!!

そして最後の1部分が剥がされると今度は目の前にいる俺に一気にシュルルルルルル~!と吸い込まれていく。あれ?あれ?あれれ。あーれー!……あっ、これ覚えがあるわ。

すべてが終わり目を開けるとハルが眩しそうに俺を見つめていた。

「戻った、のか?……ハル、ごめんな。お前の人生を奪って悪かった。」

俺は頭を垂れた。

するとハルは頭を思いっきり何度も振った後、ニコリと笑った。

「とんでもない!母さんを助けてくれてありがとう。俺、ずっと、意識があって、まるで自分がヒーローになったみたいに色んな事を経験できて凄く楽しかった。辛い事があったって前向きにどんどん乗り越えていラインハルトの中にいて、魔力がなくったって人はなんでも出来るんだって分かったんだ。俺、俺本当に楽しかったぁ……。」

グス……。

俺が出て行って清々するだろうに泣いてくれるなんて、ハルお前、変な奴だな。

「泣いてる場合じゃないだろう、ハル、ユノが待ってるぞ?」

途端に真っ赤になってモジモジしだしたハルを思わず抱き締めた。

「今までありがとう。俺はお前で、お前は俺だ。離れてもいつもお前を思っている。」

俺の胸の中でグスグスと泣き出したハルと離れがたくなるが、もう、ユノに返してやらないとな。

「エン、頼めるか?」

【造作もないことだ。】

ハルは自身が光に包まれていくのをキョロキョロと不思議そうに見つめた後、最後に俺を見て笑った。笑顔のハルが消えていく。



【……寂しそうな顔をしおって、お前、何か忘れておらぬか?我もソロソロもちそうにないぞ。】

あっ、キレてらっしゃる。アレン、龍神相手に何してんだ。国滅ぼされるぞ?

【途端にニヤニヤと忌ま忌ましい。】

「もう、愛されちゃって参るよなぁ。マジでそろそろ行かなきゃな。エン、今までありがとう。」

俺を守ってくれて、俺を探してくれて、俺を愛してくれて、本当にありがとう。でも、もう大丈夫。

【我の加護をいらぬと申すか。たかが人間と天人のハーフ風情が生意気な!……しかしだからこそ、脆くて儚くて愛おしいのかもしれぬな。】

エンは優しい瞳で俺を見つめると【幸せになれ。】と言った。

――そして、龍の咆哮が始まった。

【我は龍神。この者は世界を救った折、魔物の最後の力で姿形を返られる呪いを受けた。あれから十数年、愛するものがこの者に気付いた事で呪いは解かれ今、戻る。この者を迫害する者、傷付ける者、邪な思いを抱くものは我が許さぬ。我は龍神。この者の守護者であり、この国の神である。】

咆哮の中、国中の人々の頭の中にエンのちょちょい嘘交じりの言葉がこだまする。

「……おいおい、やり過ぎじゃねぇか?」

【お前が死んだら迎えに来る。それまで精々幸せでいろ。】

それを最後に光が砕け散るようにエンは消えた。

あまりの眩しさに手の甲で光を遮っていると目の前に人の気配がした。あいつ・・・しかいねぇよな。

俺はそいつを見上げて微笑んだ。

「アレン、ただいま。」

アレンは泣きそうな顔でクシャリと笑うと、俺を背骨が反り返るほど抱き締めた。

「ライ、おかえり。」










―――その途端、歓声が上がるとともに皆被っていた帽子を天井に高らかに投げた。

そしてガッツポーズをする者、隣の人間と抱き合い喜びを表す者、踊り出す者がいたりと、ワー!キャー!のお祭り騒ぎが始まった。

俺とアレンはびっくりして辺りを見渡しその満開の祝福に何これ?と顔を見合せた。

その間も鳴り止まない祝福の嵐に見つめあったままどちらともなく「フハッ」と笑い出した。

そしてピッタリと抱き合ったままいつまでもいつまでもその光景を幸せな気持ちで眺めていたんだ。



~完~



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